3rd.見られてる?
翌日の朝。
法堂はじょうろを手に持って、庭園に来ていた。
『あっ、小暮だ!!』
庭園の方からかわいらしい女の子の声が聞こえてきた。声の主はほんの小さい人形サイズの、花柄のワンピースを着た女の子だった。
「おはようサキちゃん。」
法堂は女の子のことを“サキ”と呼んだ。
彼女は前語った通り、この庭園(の花)の守り神的な存在である。[1st.を参照]
サキはニコニコしながら法堂のところへきた。ちなみに体は宙に浮いている。
『おはよう小暮。今日は早いね。』
「ハハ、ちょっと食生活とか改善しようって思ったら、なんか早く起きちゃって…。」
法堂は照れくさそうにそう言った。
『食生活の改善?なんか大変そうだね。でもあたし、こんなに早い時間に小暮に会えてとても嬉しい。』
サキは満面の笑みでそう言った。
「ありがと。」
そう言うと、法堂は庭園の花に水をあげ始めた。
『今日はいい天気だよね。』
サキは雲ひとつない青空を見ながらそう言った。
その頃、法堂はあることを考えていた。
昨日の石のことである。
あの石は一体何だったんだ?明らか学校に置いてあるような石じゃない。それに、G-クラスのメンバーが放っているオーラ、あれは…。
『ちょっと、小暮!!』
「えっ、何?」
『さっきから何ボーっとしてんの?』
「あっ、ゴメン。ちょっと考えごとしてて…。」
『大丈夫?相談に乗るよ。』
「いや、平気だよ。」
『そう?』
「うっうん…。!!」
法堂はバッと振り向いた。
『どうしたの小暮?』
「いや、今誰かに見られてた気がして…。」
『えっ!?』
「たぶん先生か誰かだと思うけど。」
『なぁんだ。』
「あっ、そろそろ時間だから俺行くね。」
『うん、じゃあまたね!!』
サキは手を振りながらそう言った。
「うん、また。」
そう言うと、法堂は庭園を後にした。
庭園にいた間、法堂のことを監視していた者がいた。
「法堂小暮、か。あの先生、ただの先生じゃないな。」
ユニフォーム姿で首にタオルをかけている生徒会副会長、石崎潤は柱の影に隠れてそう呟いた。
「あっ法堂先生、おはようございます。」
テニス部の女子達は法堂に挨拶をした。
「おはよう。」
法堂もしっかりと挨拶を返した。
法堂は職員室に向かうため、校舎に沿って歩いていた。
昇降口付近に来ると、生徒達が何やら昨日と同じような道を作っていた。
とその時、キャーッと昨日と同じように、女子達の歓喜の声が聞こえてきた。
しばらくすると、G‐クラスのメンバー四人が姿を現した。
あれ、もう一人は?
と疑問が生まれたが、それはすぐに解消された。
「ねぇ、石崎先輩どうしていないんだろう?」
ある女子生徒が隣にいる友達(と思われる)にそう聞いていたのが聞こえた。
「だって、石崎先輩は陸上部部長よ。朝練に出てるんだと思うよ。」
そっか、部活の朝練に出てるからいないのか。
そう思いながら、法堂は再びG‐クラスのメンバーを見た。
とその時、生徒会副会長、柏木因幡が法堂の方を振り向いた。
目が合ったのでギョッとしてしまったが、因幡はすぐに正面を向いた。
法堂はしばらく目をパチクリさせながらつっ立っていたが、再び歩き始めた。
「ねぇ、どう思うあの先生。」
生徒会会計、御園数葉は隣にいる因幡にそう聞いた。
「どうって、別に普通の先生だと思うけど。」
因幡は特に気にも留めない素振りで、ただツカツカと歩みを進めた。
一時間目。
法堂は2‐Bにて授業をしていた。
法堂は主に二年生のクラスを中心に教えている。
ちなみに、今教えているのは日本史である。
そういえば、G‐クラスのメンバーの中で、三人は二年生だったっけ?
とふと考えていた。
「!!」
法堂は外に人の気配を感じたのか、廊下の方を振り向いた。
「あの、法堂先生。」
「えっ。」
いきなり女子生徒に呼ばれたので、内心ビックリしている。
「黒板に書き終わりましたけど。」
「そっそっか。ありがとう。」
そう礼を言うと、法堂は教卓の前に立った。
そのような事が4時間目まで続いた。
お昼を食べ終えた法堂は、中庭の方へ足を運んでいた。
『あらっ、コーちゃん。どうしたの?』
中庭のど真ん中にある桜の木(今は緑の葉を咲かせている。)から、この学園の制服を着た、桃色の髪にウェーブのかかったのが特徴の少女が出て来た。身長は大体160センチ前後で、歳は17歳ぐらいだと思われる。
「國末か。相変わらずそこにいるんだな。」
法堂は彼女を“國末”と呼ぶと、彼女の近くまできた。
彼女の名は國末桜。正体は幽霊である。元々はこの学園の生徒だったが、帰る途中で事故に遭い、帰らぬ人となったらしい。それで、現理事長が彼女と同じ名前である桜の木を中庭のど真ん中に立て、彼女を奉ったという。彼女はこの桜の木にいることで、大好きだったこの学園をいつも見守っているそうだ。
そんな彼女が法堂と出会ったきっかけは、法堂が赴任してすぐ、この桜の木を訪れたからである。
彼女、桜としては、自分の存在に初めて気付いてくれた法堂をとても良く思っている。
『どうしたのコーちゃん。なんか元気がなさそうよ。』
「いや、別にたいした事じゃないんだけど…。」
『ホントに?』
「…。」
法堂は少し黙ってしまった。だがしばらくすると、桜の隣に座った。
「なんか、朝からずっと誰かに見られてる気がしてさ。」
『それってもしかして、ストーカー!?』
「いや、そういうのじゃないと思う。」
『けどコーちゃん可愛いから、そういうのがいても不思議じゃないと思うけど。』
「可愛いって…。」
『けどそれ以外で思い当たる事ってある?』
「ない訳じゃないんだけど…。!!」
『どうしたの?』
「まただ…。俺、ちょっと見てくる。」
『ちょっと、コーちゃん!?』
法堂は人の気配がする方へと走っていった。
確かここら辺から…。
法堂は気配が段々はっきりしてくると走るのを止め、普通のペースで歩み始めた。
そして、
「そこか!!」
と気配の主がいると思われる、一本の木の影の所を見た。
そこにいたのは…。
「きっ君は…。」
ずっと法堂を見ていたのは、一体誰だったんでしょう?
次回はその正体が明らかに…。