2nd.出会いと石
キーンコーンカーンコーン
4時間目のチャイムが鳴り終わる。
「それじゃ、今日はここまで。」
法堂が生徒に向かってそう言い放った後、生徒の一人が号令をかけて、法堂もそれに合わせて礼をした。
教室を出る準備をしてたその時、「法堂先生。」と、女子生徒が自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
「なんだ?」
「ここを教えて頂きたいんですけど…。」
「えー、どれどれ。」
法堂は女子生徒に丁寧に説明をしてあげた。
昼食の時間。
法堂は、カップラーメンが置いてある机に突っ伏していた。
「まさかあの後、沢山女子生徒が聞きに来るとは思わなかった。」
ぐでんとしながら、そう言葉を漏らした。
「あら、法堂先生は生徒にモテモテなんですね。」
久本はお弁当を持ちながら法堂の所へ近づいた。
「そんなんじゃありませんよ。そういう久本先生は、男子生徒からかなり人気があるじゃないですか。」
法堂は机に突っ伏したまま顔だけ久本に向け、呆れたような眼差しを送った。
「ハハッ、確かにそうかもしれないな。」
隣の席の井森が話に割り込んできた。
「体育の授業の時に、わざと怪我して保健室に行こうとする生徒がいるくらいだからな。」
「そうなんですか?」
法堂はキョトンとした表情でそう呟いた。
「ってか、井森先生、それ分かってて見過ごしてるんじゃ…。」
法堂は井森に対して疑いの眼差しを向けた。
「それはねぇよ。第一、俺はその事に今日気付いたんだ。」
「えっ、そうだったんですか。なんかすみません。」
「いや、謝らなくてもいいさ。それより、そろそろ3分経ってるんじゃないか。」
井森は机の上に置いてあるカップラーメンを指差した。
「あっ、ほんとだ。」
そう言うと、法堂はカップラーメンの蓋を開けて、ラーメンを食べ始めた。
「全く、いつもそういった物ばかり食べていらっしゃるんですの?」
と、浅見は法堂の姿をギラリと睨みつけながらそう言った。
法堂はいきなり目の前で睨みつけられたので、ビクッと肩を震え上げた。
「ひぇ、ふぉふひぃふふぁふぇふぇふぁ(いえ、そういうわけでは)…。」
「少しは健康に気を使ったらどうですの?そういう物は添加物が沢山含まれていて、余り健康にはよくないんですのよ。」
「ゴクッ。そうなんですか?」
法堂は麺を飲み込んだ後、浅見にそう聞き返した。
「浅見先生の言う通りですよ。カップメンの類の物には、沢山の添加物が含まれていて、健康にはあまり良くないんです。だから、食べ過ぎには気をつけてくださいね。」
浅見と法堂のやり取りを聞いていた久本は、法堂にそう忠告をした。
「きっ気をつけます。」
法堂は少し顔を青ざめていた。
そんな話聞いたら食欲が無くなったなどと考えつつ、自分の健康についてちょっと考えたりもした。
「法堂先生はまだ若いんですから、健康には気を使ったほうがいいと思いますけど。」
「どっどうしたらいいんですかね。」
法堂は浅見におずおずと聞いてみた。
「バランスの取れた食生活をすることですね。」
「バランスの取れた食生活…。」
思えば、今まで不健康な物ばかり食べてて、あまり健康に気を使ってなかった気がする。バランスが取れた食生活と言われても、急にはピンと来ないものである。
そんな法堂の姿を見た浅見は、一つため息をついて、そして口を開いた。
「なら、私がそれを教えて差し上げてもよろしいですわよ。」
「えっホントですか。」
法堂は浅見の言葉に目を輝かせた。
「ただし。」
と、浅見は強調するように言った。
「ただし?」
「私の今日の仕事を手伝うというのであれば、の話ですが。」
「えっ!?」
と、素っ頓狂な声を出してしまった。
浅見の机の上には、沢山のファイルと紙の束がずっしりと置いてあった。
法堂は苦笑いを浮かべながら、その先に待ってる地獄を予見した。
放課後、法堂は自分の机で黙々とパソコンとにらめっこをしていた。
「はぁ、なんでこんな事になっちゃうんだか…。」
法堂はボソッとそう呟きながら指先を動かしていた。
「大変そうだな、法堂先生。」
隣に座っている井森は、法堂の姿を見てそう言った。
「なんか良いようにこき使われてる気もするんですけどね…。」
「まぁ、先生の食生活の為だから、仕方ないな。おっと、そろそろ陸上部の練習を見に行かないと。それじゃ、頑張れよ法堂先生。」
「はい、ありがとうございます。」
そう返事をすると、井森は急ぎ足で職員室から出て行った。
井森が出ていく所を見た後、法堂は仕事を再開した。
もうひと頑張りだと自分で気合いを入れた。
一時間後。
「よおし、やっと終わったぁ。」
そう呟くと、法堂は勢い良くのびーをした。
「後は、浅見先生のとこへ持ってけば終わりだな。」
そう言うと、法堂は立ち上がってプリントの山をまとめ始めた。
確か、浅見先生はG‐クラスにいるって言ってたっけなぁ…。
そんな事を考えながら、法堂はプリントの山を抱えて職員室を後にした。
法堂は、“生徒会クラス”と書かれたプレートの前に立ち尽くしていた。
初めてきた訳だけど、明らか他のクラスとは違った感じがする。
オーラなどとは違う、第六感的な感覚でそう思った。
とりあえず中に入ろう。
法堂は生徒会クラスの扉をコンコンッとノックした。
中から、「どうぞ」という浅見の声が聞こえてきた。
法堂は「失礼します」といいながら、ドアノブを回して扉を開けて中へ入った。
入った途端、G‐クラスのメンバー全員がこっちを振り向いた。法堂は少しギョッとしながら、あることを考えた。
朝も彼女達を見たけど、こうやって近くにいると、はっきりわかる。ただのお金持ちが持つオーラとは違う、全く別のオーラを放ってる。
「ちょっと法堂先生。」
「はい!!」
いきなり呼ばれて、びっくりした声で返事をした。
声のした方を振り返ると、浅見が法堂の方を睨んできた。
「何を驚いてるんですの?それより、仕事は終わりましたの?」
「あっはい。なのでこれ全部持って来ました。」
法堂は手に持ってるプリントを、浅見の机の上に置いた。
「ご苦労様。これで仕事は以上です。もう自分の持ち場についてもいいですよ。」
「あっありがとうございます。」
そう礼を述べて引き返そうとしたが、法堂はあるものに目がついた。
「ちょっと、法堂先生どうしたんですの?」
浅見は、立ち止まったままの法堂の様子を見てそう聞いた。
G‐クラスのメンバーもそんな法堂の様子を見ていたが、法堂はそれらの事を気にしていない。そんな事よりも、気になる物を見つけたからだ。
法堂が見ているのは、だだっ広い教室の端に置いてある、水晶のような石であった。
あの石…凄まじい程の力が潜んでる。
普通、ああいった石は教会だとかに置いてあるはずなんだけど。
「あの、浅見先生。」
「なっ何ですの?」
「あの石って、元々ここにあった物なんですか?」
法堂は石を指差しながら浅見にそう尋ねた。
「さぁ。詳しくは知りませんけど、何でもあの石は現理事長が置いた物なんだそうですよ。」
「そう、なんですか…。」
「それがどうかしたんですの?」
「いえ、なんでも。それでは、失礼します。」
法堂は軽く頭を下げて、教室を後にした。
「全く、何なんですの。」
法堂が出て行った扉の方を見ながら、浅見はそう呟いた。
そんな中、G‐クラスのメンバーはさっきの法堂の様子を見てヒソヒソと話し会っていた。
「なあ、あの先生、何か気がついたみたいだぞ。」
「そうね。それにさっき私達…。」
「あの先生、一体…。」