23rd.後輩の思い
更新が遅れてすみません。では、続きをどうぞ!!
俺は一瞬、女が放った言葉の意味を理解出来なかった。
俺を信じ続けてくれた人?
『それは、一体…。』
榊原は恐る恐るそう言葉を放った。
「被害者である、君の後輩だよ。」
それを聞いた途端、榊原はビクッと肩を震わせた。
『うっ嘘だ!!そんなはずない。だってあいつは、あの時、俺を…。』
俺を、冷ややかな目で見ていたんだ。
榊原は明らかに動揺していた。
「嘘じゃない。私、ここに来る前に、ちゃんと本人に聞いたんだもん!!」
はっ…!?
数葉の言葉を聞いた途端、法堂、因幡、潤の三人は口をポカンと開いた。
「ほっ…本人!?」
三人は同時に口を揃えた。
「君の後輩はね、今陸上部の顧問として、部員全員を支えているんだよ。」
数葉のその言葉で、その場の空気が変わった。
ってことは、もしかして…。
「井森先生…の事か?」
法堂は恐る恐る確認の為にそう聞いた。
「他に誰がいるの?」
「えぇーーーーーーーー。」
森の中の空気が、一気に振動した。
「井森先生って、ここの生徒だったの?」
因幡はまだ信じられないという顔をしてそう言った。
『井森!?お前ら、井森を知ってるのか!?』
「いや、知ってるも何も、この学校の体育教師だし、かつあたしら陸上部の先生だよ。」
潤は榊原の質問にそう答えた。
じゃあ、あの時ジャージ姿で立ってたのが…。
榊原は、呉竹のポールを切ったときにいた井森の姿を思い浮かべていた。
「先生、こんなこと言ってたよ。」
榊原は、数葉の方を向いた。
―数葉の回想―
『榊原先輩はさ、俺にとっちゃ憧れの存在だったんだ。それなのに、あの時、俺は先輩に対して冷ややかな目で見てしまったんだ。先輩がやるはずないって、誰よりも信じてたはずなのにさ。その後、先輩は屋上から飛び降りて自殺を図ったということを知った時、頭の中が真っ白になった。あの時、先輩をもっと信じてやれたら先輩は自殺なんかしなかったのにって、自責の念が俺の頭の中を支配した感じに陥ったよ。先輩が死んだ後も、先輩の濡れ衣は晴れなかった。だからさ、せめて、俺が先輩をずっと信じ続けることにしたんだ。天国にいる先輩に、少しでも報いるために…。』
「だから、俺は決して先輩が犯人だとは思ってないって、井森先生言ってたよ。」
榊原は黙っていた。可愛がってた後輩が、こうも自分のことを思ってくれていたなんて…。
ぽたっ
気づかぬ内に、榊原の目から涙が流れていた。
それを見て、潤はレイピアを引っ込めると、榊原の前にしゃがんだ。
「榊原…。お前のしたことは許されないことだ。だけど、お前の気持ちがわからないわけではない。あたしだって、同じ陸上部の人間として、もしあんたの立場だったら、つらいと思う。井森先生があんたを信じてくれたように、今度はあんたが先生や今の部員たちを見守ればいいんじゃないか?」
見守る…俺が?
『けど、俺はあいつらにひどいことを…。』
「きっとあいつらなら許してくれる。だって、あんたはあたしら陸上部の先輩なんだから。」
その言葉を聞いて、言葉が詰まった。
しばらくして、緊張の糸がほぐれたのか、ふっと薄ら笑いを浮かべた。
『ふっ。確かに、お前のような部長がいれば、今の陸上部の部員も、そうそう悪いもんじゃなさそうだな。今度は、悪霊としてじゃなく、さしずめ守り神としてお前らを見守るとするよ。』
そういうと、榊原は立ち上がって、斬ってくれと言わんばかりの体制をとった。
潤は少し躊躇ったが、ふうっと一息ついて、レイピアを振り上げた。
「はぁっ!!」
潤は目をぎゅっと閉じたまま目の前の榊原を斬った。
斬られた榊原は、うめき声を上げながら、白い光に包まれた。そしてしばらくすると、野球ボールぐらいの大きさとなり、そのままグラウンドの方へと飛んでいった。
それを一通り見終えた後、潤はへたっと地面に座り込んだ。
「潤!!」
因幡、数葉は同時にそう呼ぶと、潤の元に駆け寄った。
法堂も後に続いて潤の元へ駆け寄った。
「潤、大丈夫?」
数葉は心配そうな顔でそう聞いた。
「平気平気。そんなことより、因幡、傷の方は平気なのか?」
潤は因幡の方を振り返って、そう聞いた。
「大丈夫。ただの掠り傷よ。それに、先生がハンカチで傷の手当てしてくれたし。」
因幡の右腕には、青いハンカチが巻きつけてあった。
「そっか。まあとりあえず、みんな無事でよかったよ。」
「それにしても潤、とってもかっこよかったよ。」
数葉は抱きつきながらそう言った。
「ははっ。ありがとな。」
「それにしても、まさか榊原が井森先生の先輩だったとは…。」
法堂は、未だにそのことに驚いていた。
「私も正直驚いたわ。数葉、よくそこまで調べたわね。」
因幡は数葉の情報収集に感心していた。
「へへっ。まあね。」
数葉は照れくさそうにそう言った。
と、その時。
『コーちゃん。こんなところで何してるの?』
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
法堂はぱっと振り返ると、そこには桜の姿があった。
「國末。なんでここに?」
いつも桜の木の下にいるはずの國末が、なんでこんなところに?
「桜ちゃん。」
因幡も桜の姿を捉えると、そう呼んだ。
「えっ何?先生と因幡の知り合い?」
数葉は、桜の顔を見るなりそう言った。
「知り合いと言うか、彼女は中庭の桜の木にいる幽霊よ。」
「幽霊!?」
因幡の説明に、潤と数葉は驚いた。
「國末、どうしてここに?」
『この憩いの森の方から、なんだか騒がしい音がしたから、様子を見に来たのよ。そしたら、コーちゃんたちがいて…。』
桜は憩いの森にいる理由を話し、法堂たちの所へ近づいた。
「そうだったのか。」
『ところで、そちらの二人は初対面よね。もしかして、因幡ちゃんと同じG-クラスの…。』
「そうだよ。私は御園数葉。で、こっちが石崎潤。」
「よろしくな!!」
数葉と潤は桜に自己紹介をした。
『私は國末桜。こちらこそよろしく。もしかして、ここには幽霊退治に来たの?』
桜の質問に、そうだと法堂が答えた。
『やっぱり…。』
「なんだ、そのやっぱりって?」
法堂は桜の言葉に疑問符を浮かべた。
『だって、仕事投げ出してまですることっていえば、幽霊退治しかないなと思って。』
「その、仕事投げ出すってのは、どっから仕入れた情報だ?」
嫌な予感を感じつつ、恐る恐る桜にそう聞いた。
『ここに来る前、浅見先生が機嫌悪そうにコーちゃんのこと探してたから、多分そうじゃないかと…。』
それを聞いた途端、体中の血がサーッと引くのが分かった。
その後、急いで職員室へ戻ると、眉間にシワを寄せた浅見が待ち構えており、二時間程説教された法堂だった。