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22nd.真実

鷺森学園憩いの森。


生徒達が心の憩いを求めに来る場所。


森の中心にはテラスがある。


少年はこの森の中へと逃げ込んでいた。


『くそっ。何故取れない。』


少年は身体に纏わり付いている稲妻を、身体から外そうと悪戦苦闘していた。


「いくら足掻いても無駄だよ。なんてったって、百合子お手製のお札だからね。」


突然の声に少年は驚いた。


ばっと振り返ると、自分が先程ポールを切って怪我を負わせようとした人物…潤の姿があった。


「まぁ、何はともあれ作戦は大成功ね。」


潤がいる向かい側からは因幡が出て来た。


「作戦って割には危険だったけどな。」


潤から見て左方から法堂が出て来た。


「でも、結果オーライって事でよかったんじゃない?」


法堂の向かい側からは数葉が出て来た。


少年は、完全に囲まれた状況となった。


『くっ、挟み打ちか。』


「もう逃げられないぞ。観念しろ!!榊原駆!!」


潤は少年もとい榊原駆に対して、ビシッと人差し指で指差しながらそう叫んだ。


「よくも大事な部員に手を出してくれたな!!」


潤は怒鳴り声に近い声でそう言った。


『大事な部員?ふっ、笑わせる。どうせ最後は裏切られて終わるのがオチさ。』


「あんたの時はそうだったかもしれないけどな、少なくとも今は違う。部員全員、自分の持つ目標に向かって日々頑張ってんだ。それを踏みにじるような真似は、陸上部部長であるあたしが許さない。」


潤は榊原を睨みつけながら、鞄に入れていたレイピアを出した。


因幡、数葉も鞄からそれぞれ武器を取り出した。


『やるのか?ふっ、いいだろう。相手してやる!!』


榊原はどっかから取り出した、でっかく、切れ味最高のハサミをチョキンチョキンとカニのように動かしていた。


「こっちは四人でそっちは一人。勝負はついたも同然ね。」


因幡は勝ったと言わんばかりの言い草でそう言った。


『ふっ、それはどうかな?』


榊原がそう言った途端、周囲の木の枝がスパンッと勝手に切れた。


一瞬の事で一体何が起こったのかは、全員分からなかった。その隙をついて榊原は次の行動に出た。


榊原は因幡に向かって猛スピードで突進してきた。


因幡は反射的に銃を発砲した。


榊原は瞬時に弾を避けようとしたが、完全には避けきれず、脇腹を掠めた。


う゛っとうめき声を上げながらも、榊原はさらに因幡に襲い掛かろうとしていた。


「柏木!!」


法堂は近くにあった石ころを拾い上げ、真っ先に石ころを榊原に投げつけた。


石ころは榊原の後頭部に激突し、榊原はそのまま落下した。


その反動で、ハサミが因幡の右腕を掠めた。


「痛っ!!」


因幡は痛みのあまり、反射的に右腕を押さえ、顔を少しばかり歪めた。


「大丈夫か?柏木。」


法堂は心配顔をしながら因幡の所へ駆け寄った。


「平気。ちょっと右腕を掠めたけど。」


「ごめんな、俺が石を投げつけたばかりに、怪我を負わせて…。」


「何言ってんのよ。先生が石を投げてくれなかったら、私今頃あのハサミの餌食になってたわ。」


因幡はそう言うと、ありがとうと礼を言った。


『っくそ。』


榊原は後頭部を摩りながら立ち上がろうとした。


…が、目の前には、既に潤がレイピアの刃を榊原に向けていた。


榊原は潤の顔を見てギョッとした。


物凄い目つきでこちらを睨んでいるからだ。


「部員だけじゃなく、因幡にまで傷を付けるとはねぇ…。あたし、ますますあんたを許せなくなったよ。」


潤は低いトーンの声で、榊原にそう言い放った。


法堂はそれを見て、身体中に戦慄が走った。


「どうやら、潤を本気で怒らせたみたいね。」


因幡は冷や汗をかきながらそう言った。


「本気で怒った潤って、身体中に戦慄が走る程怖いんだよね。」


法堂と因幡の所へ来た数葉は、因幡同様冷や汗をツーっと垂らしていた。


『くっ、まさかここまで追い詰められるとはな。』


「観念しな。」


『ふっ、そう簡単に観念する訳にはいかない。俺は、長年の恨みを晴らさなければならない。』


「長年の恨みって、もしかして罪をなすりつけられた事?」


数葉は榊原の話を聞いて、そう聞いた。


『ああ、そうさ。あの日、俺が可愛がってた後輩が、棒高跳びの練習中に、ポールが折れて怪我を負った。やっと出られるはずだった大会に、後輩は怪我を負ったせいで出られなくなった。後輩は涙を流しながら、ただひたすら悔しいとだけ俺に話していたよ。俺はそれを見て、胸が締め付けられる程に痛くなった。その数日後、ポールに誰かが切り込みを入れたということが判明した。俺は後輩の無念を晴らす為、必死に犯人探しをした。だが、なかなか犯人は見つからなかった。だがある時、ポールに切り込みを入れたのは俺だって事になっていた。俺は否定したさ。だけど、それを誰ひとりとして信じてくれない。俺の両親も、陸上部部員も、そして後輩までもが俺を疑った。そして、そんな絶望の淵にたった時、ついに俺は屋上から飛び降りた。俺は死んだ後、この姿になってある真実を知った。あれは、俺がずっと信じてた部員によって仕組まれた事だったんだって事が!!だから、俺は、その事が憎くて、悔しくて、奴らの練習中にポールを切った。』


法堂達は黙って榊原の話を聞いていた。


『だが、奴らのポールを切ったところで、俺の恨みが晴れるわけでも無かった…。だから、再び目覚めた今、俺はこうして棒高跳びに出場する奴らのポールを切ることで、自分の恨みを完全に晴らそうと…。』


再び目覚めた今?それは一体、どういう…。


法堂は、榊原が放った言葉に対し、疑問を抱いた。


「あんた、バカだろ。」


突然の潤の言葉に、榊原は驚いて潤の顔を見た。


「誰も信じてくれなかったからって、死んだら何もかも終わりなんだぞ。あんただって、必死に頑張って足掻いて、棒高跳びで優勝を手にしたんだろ?あんたが怪我を負わせようとした呉竹だって、来週の大会の為に今の今まで一生懸命練習して、必死に足掻いて来たんだ。あんたは、そんな呉竹の頑張りを全て水の泡にしようとしたんだ。それがどういう事か、あんただったら分かるだろ。」


潤の言葉に、榊原は思わず黙ってしまった。


別に、目の前にいる女の話に感動した訳ではない。ただ…。


彼女はどうして、こうまでして自分を叱ってくれるのだろうか?


「たとえ死んだ後に真実を知ったとしても、誰も恨む事なく、広い心さえ持っていれば、あんたは悪霊なんかにならずに済んだのに…。」


『そう簡単に言うな。奴らは自分の欲だけの為に後輩に怪我を負わせ、俺を陥れた。それを許せというのか!!』


「確かに、あんたが信じてたっていう部員たちがしたことは許せない事だと思う。もし、あたしもあんたの立場だったら、そいつらを恨んだかもしれない。」


『だったら…。』


「けどな、あんたがしてることは、所詮そいつらがした事と同じなんだよ。あんたは怒りの感情に身を任せ、それを行った。それは、いくらあんたの恨みが晴らせるとしても、絶対に許されない事だ。」


榊原は茫然と潤の話を聞いていた。


奴らと同じ…。


榊原は、その言葉を頭の中で繰り返し、そのまま俯いた。


『…っあ。』


榊原は唇を震わせた。


なぜだろうか。身体は既に冷えきっているのに、何故か懐かしいような温もりを感じる。それは、生前に遺していったはずなのに…。


「あんたは許されない事をした。たとえ、誰ひとり怪我を負ってなかったとしても、あんたが犯した罪は決して軽いものじゃない。その罪は、絶対に償わなきゃならない。だから、あたしはこのレイピアで、あんたを断罪する!!」


そう言った途端、レイピアが白く光りだした。


『ふん。それで俺を切るというのか?』


榊原は潤を強く睨んでそう聞いた。


潤もそれに負けずに睨みつけ、ああとだけ返事をする。


二人の間には、相変わらず緊迫した空気が張り巡らされていた。


もう、ここまでか…。


やがて、榊原は何かを諦めたかのように、ふぅとため息混じりに一息つき、気を緩めた。


『切れよ。もう、この際どうでもいい。結局、俺はこんな姿になっても悪役だってことか。』


その言葉を聞いた途端、突然数葉が、「その事なんだけど…。」と口を開いた。


「君は誰ひとりとして信じてくれなかったって言ってたよね?」


『ああ。それがどうした。』


「実はね、いたんだよ。一人、ずっと君の事を信じ続けてくれた人が。」


「えっ!!」


『なっ何だと!?』


数葉の言葉に、全員が驚きの声を上げた。


俺を、ずっと信じ続けてくれた人、だと?

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