21st.作戦
その翌日。
授業が終わったその放課後、法堂は因幡・数葉と一緒に、陸上部の練習が行われる第一グラウンドへと来ていた。
因幡と数葉は、手に大きなバッグを持っている。
「そういえば、秋庭と千野は?」
法堂はこういう時にいつもいるはずの二人がいないので、そう聞いてみた。
「歌音は部活。百合子は生徒会長としての仕事があるから来れないみたいよ。」
因幡の話を聞いて、法堂はそっかと言った。
「それより大丈夫なのか?今日も昨日と同じぐらいの生徒が見に来てるけど。」
法堂は辺りを見回してそう聞いた。
「ああ、それなら…。」
と因幡が何かを言おうとしたその時、グラウンドの方から「因幡ぁー。」と呼ぶ声が聞こえた。
その声の主は、ユニフォームを着た潤である。
そしてでっかい鞄を背負っていた。
「ゴメン、準備で遅れた。」
潤は、ははっと軽く笑いながら法堂達に謝った。
「別にいいわよ。そんな事より、あの作戦は大丈夫なの?」
作戦??
因幡の言葉に法堂は疑問を抱いた。
「なぁ、なんだ作戦って?」
法堂は気になって聞いてみた。
「ああ、実は…。」
潤はこいこいと手で合図をした。
とりあえず法堂は潤の所へ近づいた。
すると、今度は耳を貸せと言ってきた。
法堂は潤の言う通りに動くと、潤は法堂の耳元でゴニョゴニョとなにやら話し始めた。
法堂の顔は、みるみるうちに険しくなっていった。
「それ、本気で言ってるのか!?」
法堂は少し声を荒げてそう聞いた。
その言葉に、潤はマジだと言った。
「けど、危険すぎる。」
「分かってるよ。けど、これ以上奴を好き勝手にさせとくのは堪えられない。だから、あたしはやるよ。」
潤は、真っすぐな瞳を法堂にぶつけてそう言い放った。
法堂は、潤の決心に思わずたじろいてしまったが、きちんと気を取り直した。
「分かった。けど、無茶だけはするなよ。」
法堂はそう言った後、潤は分かってると言い返した。
「それに、いざって時は私達がついてるし。」
因幡は横から割り込んでそう言った。
「そう、大丈夫だって!!」
潤はそう言うと、法堂の肩をポンッと叩いた。
法堂は心底心配していた。生徒が危険な事をしようとしてるのに、それを黙ってみてるなんて…。
そんな事を考えていると、今度は因幡が肩をポンッと叩いて、大丈夫よっと言った。
「潤を信じて。私は潤を信じてるから。」
その言葉に、呆気に取られてしまったが、法堂はそうだなと言った。
「ただし、何かあったら俺も何とかするから、無茶するなよ。」
「それさっきも聞いた。」
潤は法堂の言葉を聞いて、ははっと笑いながらそう言った。
「じゃ、あたしもう行くから。」
潤はよろしくと言うと、法堂達がいる所から離れた。
三人は、その様子をじっと見ていた。
そしてしばらくすると、数葉が口を開いた。
「それにしてもさぁ、本当なの?その男子生徒が今回の騒動を起こした霊って。」
「可能性はあるわ。昨日、先生のとこに電話した後、その生徒についてもっと詳しく調べてみたわ。自殺した生徒の名前は、榊原駆。元は陸上部の部員で、しかもそいつ、棒高跳びで優勝した実績があったみたいで、当時は期待の星だったそうよ。」
へぇーと話を聞いている側の二人は同時に頷いた。
「けど、腑に落ちないよな。」
「何が?」
法堂の言葉に数葉はそう聞いた。
「自殺した生徒…榊原駆はやってないって否定し続けたんだろ?もし本当にやってないんだったら、自殺なんてする必要なかったと思うんだけど。」
それを聞いた数葉は、それはと口を開いた。
「誰も信じてくれなかったって事なんじゃないの?ほら、よくサスペンスドラマなんかであるじゃん。」
それを聞いた法堂は「ああ、知ってる。」と言った後、
「なぜか知らないけど現場に居合わせて死体を発見して、そして何故かやってもいないのに自分が犯人にされる。」
と言った。とその後に因幡が続いて、
「それで、誰にもそのことを信じてもらえずに自殺…。でしょ?」
と言った。
「そうそう。まさか、今回のがサスペンスドラマのパターンみたいだったらうけるよね。」
あははと笑いながら数葉はそう言った。
「ははっ、御園、いくら何でもそんなベタがあるわけ…。」
法堂は笑いながら数葉の冗談を流そうとした。が、その後三人の間には妙な空気が流れた。
そして…。
その妙な空気を因幡が破った。
「数葉!!榊原が起こした事件をもっと詳しく調べて!!」
「ラジャ!!」
数葉は敬礼をすると、走って校舎へと向かった。
「おい、まさか本当に…。」
法堂は驚いた顔でそう呟いた。
「新たな可能性が出てきたわね。もし本当に榊原が犯人じゃないとしたら、榊原は無実の罪を着せられた事になる…。けど、それだと色々と辻妻が合うのよね。」
「どういう事だ?」
「怪我を負わされた生徒…実は榊原がかなり可愛がってた後輩だったのよ。実力も相当なもので、榊原2世とまで呼ばれてたのよ。」
「成る程…。つまり、自分が可愛がってる後輩に怪我を負わせるはずはないと。」
「そう。榊原は後輩思いで有名だったらしいし、仮に実は妬んでたとしても、怪我を負わせる理由なんてないと思うのよ。」
「それも一理あるな。っで、どうすんだ?」
「そんなの、本人に直接聞いてみるのが一番手っ取り早いんじゃない?」
因幡は笑みを浮かべながらそう言うと、グラウンドの方へ視線を移した。
そこには、既にスタンバってる潤の姿があった。
ふと法堂は、あることに気がついた。
潤が持ってるポールに、何やらお札のようなものが貼ってあるのだ。
あれは一体…。
そう考えてるうちに、ピーッとホイッスルが鳴った。
ワァーと生徒が白熱する中、法堂と因幡はじぃぃっと潤の事を見ていた。
二人と潤の間に緊張が走る。
そしてバーに近づき、潤はポールを支えに宙に舞った。
とその時、
『切ってやる…。』
昨日と同じ声が聞こえてきた。
法堂、因幡、潤はその声をバッチリと聞いた。
そして、何やら素早く動く物がポールを貫通しようとしていた。
その時、
ポールに貼られていたお札が急に光を発し、バチバチっと火花を散らした。
『うわぁぁぁぁぁー。』
その悲鳴と共に、一人の少年が姿を現した。もちろん他には見えていない。
少年の身体には、稲妻のようなものが纏わり付いており、少年は苦しそうな顔をしていた。
「つっかまえた!!」
潤はそう言うと、バーを楽々乗り越えて巨大マットの上に着地した。
その瞬間に歓声が沸き起こったが、潤は少年の方へ目を向けていた。
『くそっ。こんなことでやられてたまるか!!』
そう叫ぶと、少年は痛みをこらえて潤がいる場所から颯爽と逃げた。しかし痛みが身体中を支配しているため、いつものようにはいかない。
「こらっ、待て!!」
潤は少年に向かってそう叫ぶと、巨大マットから飛び降りて少年を追いかけた。
「私達も追うわよ。」
因幡は法堂にそう言うと、少年と潤の後を追いかけた。
法堂もそれに続いて走りだした。