20th.住み着き爺さん
その夜。
法堂は帰路についていた。
歩きながら、今日あったことを回想していた。
幸い、呉竹にはこれといった外傷は無く、大会には支障はないそうだ。
陸上部は予定より早く練習を切り上げた。
あの後俺は柏木と共にグラウンドを調べたが、結局何もなかった。
ホントにあれは一体何だったのだろう?
そうこう考えてる内に、法堂は自分の家に着いた。
法堂の家は、ログハウスのような外見のアパートで、法堂は2階の205号室に住んでいる。
ちなみに、このアパートの家賃は月10万。法堂には到底払えないような金額なのだが、法堂は訳あって月5万で済んでいる。
なぜかというと…。
ガチャ
『なんじゃ小暮、遅かったのう。』
この爺さんがいるからだ。
「仕方ないだろ。仕事があるんだし。」
『わしゃ退屈で死にそうじゃったわい。』
「もう死んでるだろ。」
そう会話を交わしながら、法堂は部屋の奥へと進んだ。
この爺さんの名前は武田源三。薄い頭が特徴である。この爺さんは、この部屋の前の住人だったんだが、この部屋に引っ越してきたその日に、頭を打って死んだらしい。相当この部屋が気に入ったのか、この部屋へ引っ越して来ようとした人達に嫌がらせをして、追い払ってきた訳だが、俺は爺さんの弱みを握っているため、なんとかしてこの部屋に住んでいる。
『そうじゃ、今日テレビでやってたドラマなんじゃがな…。』
「って、また勝手にテレビを点けたのか!?」
『まぁまぁ。それより、そのドラマでじゃな、人気モデルの芹沢唯ちゃんが出とったんじゃよ!!』
「ふーん。」
法堂は興味なさ気な声でそう返事をした。
ちなみに芹沢唯とは、じーさんが妙に入れ込んでいるモデルの名前である。
じーさんは長々とそのモデルの話をしているので、法堂は無視してキッチンの方へ向かった。
とその時、
RRRRR…
と、ポケットに入れてた携帯電話が、ぶるっと震え出してありがちな着信音を鳴らしていた。
法堂はポケットから携帯電話を取り出し、ぱかっと携帯を開いてディスプレイを見た。
開いた途端、法堂は眉をひそめた。
知らない番号だな…。
法堂はとりあえず通話ボタンを押し、「もしもし」と言って電話に出た。
『あっ先生、私だけど…』
出たのは女性だった。しかも、ものすごく聞き覚えのある声だった。
法堂はすぐにピンときた。
「柏木か!?」
『何そんなに驚いてるのよ。』
「いや、驚くも何も…。」
何で俺の携帯の番号知ってんだよ。
そんな疑問が思い浮かんだが、因幡の「そんな事より」という言葉で聞くことができなかった。
『実は家に帰った後、先生が聞いたっていう「切ってやる」ってのと関係がありそうな事を調べてみたんだけど、そしたら、ある事が分かったわ。』
「ある事?」
『陸上部が練習で使ってる第一グラウンドで、昔、一人の男子生徒が問題を起こして、その後自殺したみたいなの。』
法堂は因幡の話を聞いて、「えっ!?」と声を上げた。
「それで、その問題ってのは?」
『その男子生徒、元は陸上部だったみたいなんだけど、その男子生徒が部員の一人の子のポールに切り口を入れて怪我を負わせたみたいなの。本人は頑なに否定し続けたみたいなんだけど、結局最後は自殺を図って死んじゃったのよ。』
法堂は黙って因幡の話を聞いていた。
そして一つ間を置いた後、ようやっと口を開いた。
「もしかして、今回の騒動はそいつのせいだって事か?」
『断定は出来ないけど、可能性としては十分有り得るわ。』
因幡の話を聞いて成る程なっと言った。
「だとしたら、そいつが今回の騒動の犯人だとして、そいつはまた次も棒高跳びの練習中にポールを切って怪我を負わせる可能性があるな。」
『そうね。そいつ、相当怨みを持ってるみたいだし、なんとかしないといけないわね。潤の話だと、明日も棒高跳びの練習があるみたいだし、事が起きる前に、私達の力で何とかして防がないと。』
「そうだな。俺も放課後は特に仕事はないし、付き合うよ。」
『当たり前でしょ。先生がいないと防げないじゃない。』
「それもそうだな。」
法堂は、ははっと笑いながらそう言った。
『じゃあ明日の放課後、私達の教室に来て。』
「分かった。」
『じゃあ、また明日ね。おやすみ。』
「おやすみ。」
そう言うと、法堂は電話を切って、携帯をポケットにしまった。
『小暮、誰と話とったんじゃ?もしかして彼女か?』
「生徒からだよ。つか彼女いないし。」
『なぁんじゃ、つまらんのう。わしが小暮ぐらいの歳の頃には、町一番のべっぴんさんと付き合っとったぞ。』
「はいはい、それはよかったな。」
『冷たいのう。小暮は女には興味ないのか?』
「別に。ただ、そういうのにあまり関心がないだけだよ。」
法堂はそう言い放つと、キッチンの方へと入っていった。