1st.G‐クラス
春も終わりを見せ始め、初夏へ突入しようとしている五月。鷺森学園に赴任して一ヶ月の新米教師・法堂小暮は、全速力で職員室へと向かっていた。
新米な俺が遅刻はやばいと考えながら、法堂はただひたすら走っていた。
“職員室”と書かれたプレートのドアを一気に開けて「おっおはようございます。」と息を切らしながらきちんと挨拶をした。
職員室にいる教職員が一斉に法堂の方を振り向いた。
「おっ、やっときたか新米君。」
上から下まで全身ジャージ姿の男、井森真司は、法堂を見てそう言った。
「よかったですね。ギリギリセーフですよ。」
白衣姿で茶髪のウェーブがかかった髪型の女・久本呉羽は、ニッコリしながら法堂にそう言った。
その言葉を聞いた法堂は「よかったぁ」と安堵すると、自分の机へと向かった。
椅子に座って、はぁっと安堵のため息をついて、だらりと机に身を預けた。
「ちょっと法堂先生、新米だからといって気を抜きすぎじゃございません?」
法堂のため息を聞いてやってきた、長いであろう茶髪の髪を後ろでだんごでまとめ、赤い縁とつりあがった端っこが特徴の眼鏡を指先で動かし、はたまた赤いスーツを来た女・浅見昌子が、明らかこっちを睨んできた。
「ちょっと、ちゃんと聞いてますの?」
「はい?」
「だから、新米だからと思って気を抜いてるんじゃございませんと聞いたんですよ。」
「あっ、いえ。そんなつもりは…。」
「全く、新米が遅刻してどうするんですか。」
「あの浅見先生、法堂先生はまだ遅刻というのはされてませんよ。」
法堂のとなりにいた久本が話に割り込んできた。
「私は気構えのことを言ってるんです。」
浅見は眼鏡をカシャンと上に上げながらそう言うと、どこかへいってしまった。
「気にするこたぁねぇよ、法堂先生。浅見先生は生活指導の先生だからな。何かと厳しいんだよ。」
となりの席の井森は、浅見に聞こえない程度の声で法堂を励ました。
「はぁ。」
「それに、G‐クラスの担任だしな。」
「えっ、浅見先生が。」
「そうだぞ。知らなかったのか。」
「あっ、はぃ。」
法堂は気の抜けた返事をした。
とその時、外からキャーと女子生徒の歓喜の声が聞こえてきた。
「噂をすればっだな。」
井森は外の方を遠目で見るように言った。
法堂は窓の方へ近づいて外を見た。
そこには、明らか他とはオーラの違う女子生徒五人が、沢山の生徒が作った道の間を清楚に歩いていた。
彼女たちが、井森の言っていたG‐クラスの生徒である。
G‐クラス、正式名称は“生徒会クラス”。
その名の通り、生徒会の仕事を請け負う、たった五人だけのクラスである。
この学園の生徒のほとんどは金持ちなわけだが、その中でも特に金持ちなのがこの五人なのだ。
親から大量の寄付金をもらっていて、そして成績上位の者達の集まりでもある。
その中でもリーダー格的存在なのが、柏木因幡。〔16〕茶髪で、肩まである髪の先が軽くウェーブがかってるのが特徴。
世界でも名を連ねる、柏木財閥という大財閥の御令嬢であって、成績は常にトップ。おまけに美人で男女問わず人気がある。まさに才色兼備のお嬢様。
石崎潤。〔17〕因幡と同じく生徒会副会長であり、陸上部の部長。
父親が大手スポーツメーカーの社長であるためか、運動神経は抜群で、学園のトップ。
男子より運動ができるためか、女子に人気がある。
秋庭歌音。〔16〕生徒会書記。コーラス部部長。
父親は世界的に有名な指揮者で、母親は有名なソプラノ歌手。そのおかげで音楽の才能に秀でており、歌を歌えば、たちまちその世界に酔いしれるらしい。
御園数葉。〔16〕生徒会会計。
母親は大病院の医院長で、父親は医療関係の研究員。そのため数学が得意で、学園でも数学は因幡と並んでトップの成績である。
千野百合子。〔18〕生徒会長。茶道部の部長。胸まである黒くてストレートな長い髪が特徴。
家は茶道の家元で、礼儀作法がしっかりしている。国語の成績がよく、因幡と並ぶトップである。
以上が生徒会クラスならぬG‐クラスのメンバーである。
全員何かの教科でトップをとる秀才クラスである。
「法堂先生、そろそろ職員会議が始まりますよ。」
「あっはい。」
法堂は久本に呼ばれたので返事をした。そして職員会議にでるために、外をちらっと見た後窓から離れた。
とここで俺・法堂小暮の自己紹介をしておこう。
俺は鷺森学園に赴任したばかりの新米教師。担当教科は世界史。まあ日本史も担当してるけどな。特徴と言える特徴は、童顔で、焦げ茶色で前だけちょっとつんつんした髪型ってトコロかな。
俺は別にG‐クラスのような金持ちではないけど、他と変わってることが一つある。
それは、他人には見えないものがみえる力があるってことだ。
みんなはこれを“霊感”って言うんだろうけど、俺が見えるのは霊だけじゃない。人間が持っているオーラや、自然が持つ潜在的な力など、いろんなものが見えるんだ。
実をいうと、この学園にも少なからずそういった類のものがある。
例えば、この学園にある庭園には、小さい人形程度の大きさの女の子がいる。いっつもニコニコしていて、頭には花飾りがついているツインテールの女の子だ。この子がいわゆる“庭園(の花)の守り神”的なものなんだろう。彼女とはなにげに仲良くなって、俺が水をあげると大いに喜んでくれるんだ。
こんな具合に、俺には他人には見えないものがくっきりと見えてしまうんだ。
ちなみに、G‐クラスの生徒全員は、なんだか他とは違うオーラを持っていた。さすがは金持ちのお嬢様。
まあこんな力を持ってたって、目立つようなもんじゃないんだけどな。
まさかこの後とんでもないことに巻き込まれるとは、この時知る由もなかった。
二話目に突入したわけですが、一気にここまで進めちゃいました。この話を読んでくれてる人は、これからも見続けてくれるとうれしいです。
次回は、G‐クラスのメンバーと小暮が出会います。