18th.幼なじみ
「全く、私達に内緒でブランピエールのケーキを食べようなんて、いい度胸よね。」
因幡はぶつぶついいながら、シフォンケーキをパクっと口に入れた。
放課後のG‐クラスは優雅にBlanc Pierreのケーキを食べていた。
約一名を除いて…。
「先生、なんか不満そうだね。」
法堂の隣に座っている数葉は、法堂の様子を見てそう聞いた。
「…別に。」
そうは言っているが、明らか不満顔である。
昼休みに、白石から貰った高級ケーキを潤に見られ、結局G-クラスのメンバー全員と法堂で分ける事になったのである。
まぁ、元々一番活躍してたのはこの子達だし、俺だけ独り占めすんのはよくないか。
開き直った法堂は、自分の皿にあるチョコレートケーキをパクっと口に入れた。
「そういえば、石崎の姿が見えないな。」
ケーキを飲み込んだ後、法堂は辺りを見回してそう言った。
「たぶん部活だと思いますよ。陸上部はもうすぐ大会がありますし。」
紅茶を運んでいる百合子は、法堂にそう言った。
「先生、紅茶です。」
「ああ、ありがと。」
百合子は全員に紅茶を配った。
「潤は棒高跳びに出場するんでしたわね。」
歌音は紅茶を飲むとそう言った。
「呉竹くんも出るんだったよね。」
数葉も続いてそう言った。
「呉竹って、白石さんと同じクラスの?」
因幡は食べるのを止めてそう聞いた。
「うん。白石さんとは幼なじみなんだよ。」
「そうなのか?」
法堂はまさに寝耳に水というように、数葉に聞き返した。
「そうだよ。幼稚園から一緒なんだって。」
へぇーと言うと、法堂はケーキを口の中に入れた。
白石と呉竹は幼なじみなのか。
「ねぇ、この後潤の練習見に行かない?」
数葉は突然そう提案した。
「いいわね、行きましょ。」
因幡は賛成をした。
「私はパスしますわ。この後、コーラス部の練習がありますので。」
歌音は右手をすっと挙げてそう言った。
「私も、茶道部の方を見なくてはなりませんので。」
百合子もそう言った。
「そっか…。先生はもちろん行くよね!!」
数葉は法堂に振った。
「いや、俺これから仕事…。」
「行くよね!!」
数葉は顔を法堂に近づけた。
「…あっああ。」
そう了承すると、数葉はやったと言って喜んだ。
なんで俺は強制的なんだよ。
法堂は、はぁっと深いため息をついた。
因幡は黙々と残りのケーキを食べていた。
鷺森学園第一グランド。
そこで陸上部の練習は行われていた。
「結構練習を見に来てる生徒多いな。特に女子が。」
法堂は因幡と数葉と共にグラウンドにくると、生徒の多さに驚いた。
「まぁ、目当ては潤と呉竹って奴でしょうけどね。」
因幡は冷静にそういった。
「ねぇ、あれ潤じゃない?」
数葉は指を差しながらそう言った。
数葉が指している方を見ると、そこにはユニフォーム姿でなにやら長い棒を持った潤の姿があった。
「どうやら次は潤の番みたいね。」
因幡は潤の姿を見てそう言った。
石崎先輩頑張って下さいというような声が、見学している生徒たちから聞こえてくる。
「俺達も、近くに行ってみるか。」
「そうだね。行こっ」
法堂たちはグラウンドへと近づいていった。
「次、石崎。」
ジャージ姿の井森は、手に何やらボードを持っていた。
潤が呼ばれた途端、生徒の歓喜がわぁーと上がった。
「まずは4mいくぞ。」
「はいっ。」
潤は返事をすると、スタート準備をしていた。
「いきなり4m。すごいな。」
法堂はいきなりの高さに驚いていた。
そして、ピッという笛の合図が聞こえた。
潤は長い棒を持って走り出した。
三人はじぃっと見ていた。
そして…。
棒を支えにして一気に体が宙にまった。
4mのバーを越えると、ぱっとでっかいマットの上に着地した。
わぁーっと歓声と拍手が巻き起こった。
「すごいなぁ。」
法堂は拍手をしながら感心していた。
「じゅーん、カッコよかったよぉ!!」
数葉は潤に向かってそう叫んだ。
潤はその声に気づき、法堂達にVサインをした。
「さすがね。けど、あの調子だとまだまだいけちゃうわね。」
因幡は潤を見てそう言った。
すると、潤がタオルを首にかけて法堂達の所にきた。
「潤、すごかったよ。」
数葉は再び潤の事を賞賛した。
「ありがとう。先生も見に来てたんだ。」
「ああ、まぁな。」
法堂はそう返答した。
「先生、潤の練習が見たくてしょうがなかったんだよね。」
数葉はニッコリしてそう言った。
「いや、それは…。」
御園が強制的にと言おうとしたが、
「なんだそうだったのか。先生、素直なとこあんじゃん。」
このこのっと肘で突かれた。
「いや、だから違…。」
違うと言おうとしたが、法堂先生と自分を呼ぶ声が聞こえた。
ぱっと振り返ると、白石と女子三人がこっちに向かって走ってきた。
「白石。もしかして白石も陸上部の練習見に来てたのか?」
「はい、真子たちと一緒に。」
白石は法堂にそう返答した。
「私達、呉竹くんの練習を見に来たんです。」
眼鏡をかけた女子は法堂にそう言った。
「そっか…。白石と呉竹は幼なじみなんだってな。」
「はい、そうですけど…。どうしてそれを?」
白石はなんで?と首を傾げた。
「あっ、御園から聞いたんだ。」
「そうだったんですか。」
「そうだ、あのケーキおいしかったよ。」
「えっ、ホントですか!?」
「ああ。まさかブランピエールのケーキを食べられるなんてな。」
法堂はニッコリしながらそう言った。
白石はそれを見て頬を赤らめた。
「ホント、おいしかったよ。」
数葉はニッコリしながらそう言った。
「えっ、御園さんも食べたんですか?」
「うん、G-クラス全員プラス先生と。」
そうなんですかと、少し気を緩めてそう言った。
「まあ、あたしが見つけなかったら、先生一人で食べてたんだろうけど。」
潤は横目で法堂を睨みながらそう言った。
「っ、悪かったな。」
法堂はぶっきらぼうにそう言った。
「実はあのケーキ、麻衣子が作ったんですよ。」
白石の横にいる短髪の女子はそう言った。
「えっ、そうなの(か)?」
法堂たちは驚いてそう聞き返した。
「ちょっと、真子!!」
「いいじゃん、作ったのは本当なんだしさ。」
いたずら笑いを浮かべながら真子と呼ばれた子はそう言った。
「すごい!!白石さんケーキ作れるんだ。」
数葉は目の前にいる白石の顔を見てそう言った。
「あっ、はい。あまり上手くできませんでしたけど。」
白石は照れ臭そうにそう言った。
「そんな事ないよ。凄く美味しかったぞ。」
法堂は自信なさ気な白石を励ました。
「あっありがとうございます。」
顔を真っ赤にしながら白石は礼を言った。
「あれぇー。麻衣子赤くなってるよ。」
眼鏡をかけた女子が顔を真っ赤にしてる白石をからかった。
「先生もすみに置けないわね。」
ふっと笑いながら因幡はそう言った。
はっ!?と法堂は首を傾げた。
とその時、
「麻衣子。」
と、白石を呼ぶ男の声が聞こえた。
全員ぱっと振り返った。
そこにはユニフォーム姿の呉竹がこちらへ走ってきた。
「俊一。」
白石は呉竹の姿を見た途端にそう呼んだ。
「来てたのか。」
「うん。真子達と一緒にね。」
そっかと言うと、呉竹と白石はなにやら話始めた。
「ねぇ潤、彼もしかして…。」
因幡は横目で潤を見てそう聞いた。
「ああ、あれが呉竹だよ。あたしと同じく棒高跳びに出場するんだ。あいつ、男子棒高跳びの選手の中でも上位でさ、いろんな選手にマークされてんだ。」
潤は呉竹の事について説明をした。
法堂は黙って潤の話を聞いていた。
とその時、数葉が白石達の所に歩み寄った。
「白石さん、来週の大会は見に行くの?」
「えっはい。見に行くつもりですけど…。」
「そっか。私も潤が出るから見に行こうって思うんだ。」
数葉はニッコリしながらそう言った。
「…あの笑み、なんか企んでるわね。」
因幡は数葉の顔を見てそう言った。
「そうなのか?」
法堂は因幡にそう聞いた。
ええ、とぎこちない笑みを浮かべてそう言った。
「だから、一緒に見に行かない?」
「え!?いいんですか?」
白石は数葉の提案に驚いた。
「もっちろん!!」
数葉はニッコリとしながらそう言った。
「じゃあ、お願いします。」
白石はペこりと頭を下げた。
「もちろん、先生も行くよね!!」
数葉はまた突然法堂に振った。
法堂はまた突然ふられたのではいっと驚いた。
白石はそれ以上に驚いていた。
「いや、見に行ってやりたいのは山々だけど、俺仕事が…。」
「行くよね!!」
「……はい。」
数葉の勢いに圧倒されて、思わずそう返事をしてしまった。
「やっぱりね。」
因幡は二人のやり取りを見てそう呟いた。
白石は法堂を見て頬を赤に染めていた。
そんな白石の姿を見た呉竹は、ムスッとしだした。
「じゃあ俺、そろそろ戻るから。」
「あっうん。頑張ってね。応援してるから。」
白石は呉竹の方に向き直って、笑顔でそう言った。
呉竹はじゃあっと言うと、練習場へと戻っていった。