16th.お礼
呪いの洋館騒動から翌日。
法堂は朝早くから理事長室に来ていた。
「そうですか。協力してくださいますか。」
鷺森は法堂の話を聞き、嬉しそうな顔をした。
法堂は、鷺森に答えを出す為に、こんな朝早く来たわけである。
「はい。どれぐらい力になれるかは分かりませんが…。」
「大切なのは、力になれるかどうかではなくて、力になろうという気持ちです。法堂先生は、その気持ちがあったから、この件にOKしてくれたんでしょう?」
「えっ、まぁ…はい。」
法堂は照れ臭そうにそう返事した。
「本当に、ありがとうございます。」
鷺森は深々と頭を下げながら礼を言った。
「いえっ。用件はそれだけなので、僕はこれで失礼します。」
法堂は鷺森に深々と頭を下げると、理事長室から出ていった。
法堂は庭園の花に水をあげていた。
『小暮』
法堂の横にいるサキは、法堂の名前を呼んだ。
「何?サキちゃん。」
『なんかいいことあったの?』
「えっ!?どして?」
『だって、なんかいつもよりニコニコしてるんだもん。』
「そっそう?」
『うん。でも、小暮はそれぐらいニコニコしてた方がいいと思う。』
サキは満面の笑みを浮かべた。
「ありがと。」
法堂はサキに礼を言った。
とその時、
「あれっ。先生なにしてんの!?」
と声が聞こえた。
法堂はびくぅと肩を震わせた。
振り返ると、潤がユニフォーム姿で法堂の後ろに立っていた。
「なんだ、石崎か。」
「何そんなに驚いてんだよ。それより、何してんの?」
「見れば分かるだろ。花に水をあげてんだよ。」
「ふーん。なんで先生が水やりなんかしてんの?」
「それは…。」
と何かを言おうとした時、サキが横からひょこっと出て来た。
『小暮、この人誰?』
サキは潤を指差して法堂にそう聞いた。
「うわぁ、かわいーな。もしかして、この庭園の守護神?」
「まぁ、そんなとこ。名前は“サキちゃん”っていうんだ。」
「サキちゃんかぁ。あっ、あたし石崎潤。よろしくね。」
潤はサキに自己紹介をした。
サキは急に恥ずかしくなったのか、法堂の後ろに隠れてしまった。
『よっよろしく…。』
そして少し顔を出して潤に挨拶した。
「??。どうしたんだ?」
「たぶん、俺以外に見える人物に初めて会ったんで、照れちゃってるんだと思う。」
「そっか。あっ、もしかして先生が水やりしてるのって、この子の為?」
潤はにたつきながらそう聞いた。
「まぁ、違うって言ったら嘘になるけど…。」
「どっち!?」
潤は、曖昧な返事しかしない法堂に少しイラッとしていた。
「別にどうでもいいだろ。そういえば、石崎は朝練か?」
法堂はユニフォーム姿の潤を見てそう聞いた。
「あっうん。今、朝練終わったんで、部室に戻ろうとしたら、庭園に先生がいたんで、声掛けようと思ったんだ。」
「そうだったのか。そういや、石崎は陸上部だっけ?」
法堂はふと思いだして、そう聞いた。
「そうだけど…。」
陸上部かぁ…。確か顧問は井森先生だよな。
「ちょっと、なに急に黙ってんの?」
「あっ、わりぃ。陸上部っていえば、そろそろ大会があるんじゃなかったっけ。」
法堂にふっと思い出したので、潤にそう聞いた。
「ああ、そうだよ。来週大会があって、あたしは棒高跳びに出ることになってんだ。」
「へぇー、棒高跳びを。棒高跳びって難しくないか?」
「いや、そんな事ないよ。コツさえ掴めば誰でもできるって。先生もやってみるか?」
「いや、遠慮しとく。」
法堂は顔を青ざめながら、そう即答した。
「それじゃ、授業は終わります。」
法堂は終わりの合図をすると、クラスの男子が「起立、礼。」と号令をかけた。
2-C組での授業を終え、職員室に戻る準備ををしていた。
「あの、法堂先生。」
と、つい最近聞いたような声が聞こえてきた。
ふっと見てみると、そこには白石の姿があった。
「白石か。どうした。」
「あの…昨日は本当にありがとうございました。」
白石は深々と頭を下げながら礼を言った。
「先生のおかげで、女性の声が聞こえなくなりました。」
「そっか。よかったな、白石。」
「はい。あの、それで、是非ともお礼がしたいと思いまして…。」
白石はなぜか頬を赤らめながらそう言った。
「お礼?いや、いいよ別に…。」
「いえ、よくありません!!」
法堂は白石の勢いに圧倒されてしまった。
「私、あの時気絶してて、何が起きてたのかは知りません。けど、あの時先生達が頑張ってくれたっていうのは分かるんです。だからせめて、お礼をさせて下さい!!」
こうまで言われると、逆に断りづらい。法堂はふぅっと一息つくと、「分かったよ。」と言った。
そう言った瞬間、白石の目がぱぁぁと輝いているのが分かった。
「よかった。じゃあ、ちょっと待ってて下さい。」
そう言うと、白石は一旦自分の机に戻ると、紙袋を持って再び法堂の所に来た。
「これ、どうぞ。」
と白石は紙袋を差し出した。
法堂はちょっと気まずそうに「ありがとう」と礼を言うと、紙袋を受け取った。
何が入ってんだ?と紙袋の中身が気になったので、紙袋の中身をそーっとのぞこうとするが、はっと時計を見てヤバイと思い、白石に再び礼を言うと、急いで教室から出た。
「ふぅー。」
法堂が出た後、白石は安堵の息を漏らした。
とその時、「麻衣子」と白石の名を呼ぶ女子三人が白石の所にやってきた。白石と仲の良い友人達である。
「よかったね、麻衣子。無事に渡せて。」
短髮の女子が喜びながらそう言った。
「うっうん。」
白石はこくんと頷きながらそう言った。
「もう、ヒヤヒヤしたんだから。でも本当によかったね。大好きな法堂先生にきちんとお礼ができて!!」
ツインテールの女子生徒はにたつきながらそう言った。
「なっ!?べっ別に好きとかじゃ…。」
「あっれぇ~。赤くなってるわよ。」
眼鏡をかけた女子生徒は白石を冷やかした。
ちっ違うと顔を真っ赤にさせて、友人の冷やかしを否定していた。
その光景を、一人の男子生徒がじっと見ていた。