表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

13th.本条紀斗

時は少し遡る。


法堂達と別行動を取った百合子と潤は、一階の居間に来ていた。


「なっなんだこりゃ!?」


潤は部屋に入ると、そう言葉を漏らした。


部屋には、辺りの壁に血が飛散していたり、床に敷かれてる絨毯には、大量の血がついていた。部屋の中も目茶苦茶である。


「恐らく、さっき白石さんが言ってた強盗事件の現場がここだったのでしょう。ほら、そこによくドラマなんかに出てくる、テープが人の形を作ってますでしょ。そこにこの家の誰かが、死体となってそこに転がってたって事ですよ。」


百合子は絨毯に貼られたそれに手持ちのライトを当てた。


「じゃあソファーのこれもか?」


潤はソファーに貼られてる白いテープを指さした。


「ええ。どうやら背後をザクッといかれたようですね。」


百合子はソファーの背もたれに、垂直に凝固している血を指しながらそう言った。


「にしても、居間って割には狭いな。」


潤は部屋を見渡すとそう言った。


ちなみに、どっちかと言うとこの居間は広い方である。さっきの因幡の発言と同じようなものである。[12th.参照]



百合子は部屋の中を調べ始めた。


だがこれといって、呪いと関係あるであろう強盗事件の手掛かりは出てこない。


すると、百合子は棚の上に置いてある写真立てに目を向けた。


写真立てに収められている写真には、この洋館をバックに夫婦とその息子が写っていた。息子は高校生ぐらいの少年だ。


「三人家族だったみたいですね。」


百合子は写真を見てそう呟いた。


「それにしても、おかしいですわね。」


突然の百合子の呟きに、潤は何が?と聞いた。


「息子さんですよ。この保存された現場の状況からして、強盗が入ったとするなら、私たちが入って来たあのドアからしか考えられません。このソファーに座ってたなら、あのドアが開いた時点で気が付くはず。なのにどうして、一歩も動かず座ってたんでしょう?」


「強盗って気がつかなかったとか。」


「強盗というのは、暴力や脅迫で金品を奪う行為の事を指します。手口としては、普通銃等で“動くな!!”と脅すはず。だとしたら、のんびりソファーに座ってなんかいられません。」


「まあ、確かにそうかも知れないけど。」


本当、こういうの詳しいよな。


潤は百合子の話を聞いて、ある意味で感心していた。


「それに、あと一人いるはずなのに、この部屋には二人ぶんの遺体があったという形跡しかないのはどうしてなんでしょう?」


「…別のとこで殺害されたんじゃないの?」


潤は少し考えてそう言った。


「その可能性はありますけど…。」


百合子は絨毯の遺体があったであろう場所を見た。


写真で見た、父親と思われる男性の身長は、恐らく180cm前後。これはどう考えたって、160cm程しかない。これは母親の方の身長ですね。


百合子は冷静にそう分析した。


「にしても、さっきの百合子の話をまとめると、本当に入ってきたのは強盗なのかって感じだな。」


「えっ!?」


潤の言葉に少し驚いた後、はっとあることに気付いた。


「潤、ナイスです。」


「はぃ!?」


「そうですよ。どうしてそんな単純な事に気がつかなかったのでしょう。」


「えっ何?何か分かったの?」


「ある可能性が出てきました。潤の言ったとおり、これは強盗の仕業ではないかもしれません。」


「えっそうなの?」


「ええ。どうやら、もう少しこの屋敷の事を調べる必要がありそうですね。そうとなれば、次の部屋に行きますよ。」


そう言うと、百合子はドアの方へ向かった。


「えっちょっ、待って百合子。」


潤も百合子に続いてドアへ向かった。










一階の書斎。


「本がかなり多いですね。」


書斎に入った百合子と潤は、あまりもの本の多さに驚いていた。


「蔵書家だったみたいだな。」


潤は多くの本を見ながらそう言った。


「どうやら、ここの家主は推理作家のようですね。」


百合子は、たくさんある本の内容が殆ど推理小説を書く際に必要な資料ばっかなのと、机の上に置かれた原稿用紙を見て、そう考えた。


「名前は本条紀斗ほんじょうのりと…。えっ!?本条紀斗!?」


「どうした百合子?もしかして知ってんのか?」


「ええ、とっても有名な推理作家ですよ。私、とてもファンだったんです。死んだとは聞いてはいたんですが、まさかここの家主だったとは…。」


百合子は今だに驚きを隠せずにいた。


百合子、ホントにこういうの好きだもんな。


潤はそんな百合子を見て、心の中でそう思った。


「そんなことより、強盗の仕業じゃないっていうのを探さなきゃならないんじゃないのか。」


潤は目をキラキラと輝かせている百合子にそう言った。


「そっそうでしたね。ともかく、この人の机を色々と調べてみましょう。」


そう言うと、百合子は机の引きだしをパカパカと開けて、中を物色し始めた。


すると、あるものが目に止まった。


「これは…、日記ですね。」


「えっ何だって?」


潤は興味を持ったのか、百合子の傍にきた。


「ええっと、2008年9月1日。“大丈夫だ。まだ佳子にはばれてない。”…何なんでしょうか?」


「この佳子ってのは、一体誰だ?」


「たぶん、本条紀斗の奥様だと思います。」


「えっ。ってことは何、こいつ奥さんに隠し事をしてたのか?」


「そうみたいですわね。」


そう言うと、百合子は次のページを開いた。


「2008年9月2日。“今日は仕事が忙しくて楓に会いに行けなかった。”…楓って一体誰なんでしょう?」


百合子はどんどんページを開いていった。どのページにも書かれているのは、楓という人物の事だけ。楓と食事にいったとか、楓と買い物にいったとか。


潤は日記を見ているうちに、ある事に気がつき始めた。


「なあ百合子、もしかしてこの男、浮気してたんじゃないか?」


「考えられますわね。どのページにも、その楓という方の名前が出て来ますし。最初のページに出てきた、“ばれてない”っていうのも、頷けますし。」


「妻子がありながら、とんだ最低男だな。」


「ファンでしたのに、幻滅です。」


二人とも本条紀斗に失望していた。


そして百合子はさらにページをめくった。


「2008年10月7日。“とうとう佳子にばれた。まさかあの場に佳子がいたとは…。佳子には物凄く引いた目で見られたけど、俺は本気で楓のことを愛してしまったのだ。抑制などできない。”…ここで浮気がばれたみたいですね。」


「同情する気もないけどな。」


そして次のページをめくった。


「2008年10月8日。“今日は楓と別れた。妻子持ちがばれたからだ。いきなり呼び出されて、急に別れを告げられた。本気で愛してたのに。これもすべて、あいつらのせいだ。”…あらま、人のせいにしてますよ。」


「最低だな。」


百合子はさらにページをめくった。


「2008年10月9日。“あいつらは明後日この家を出て行ってしまう。その前に、あの計画を明日実行するとしよう。この日記も、今日で最後だ。”」


「何だ最後って?」


潤は日記の内容に首を傾げた。


「さあ。それより、この“計画”というのが気になりますけど。」


百合子はそう言いながら、とりあえずページをめくってみた。


するとそこには“THE END”の文字が。


「何なんだ?“THE END”って。」


潤はますます何だか分からなくなってきた。


ばれた…あいつらのせい…計画…最後…。


百合子は顎に手を当てて、ひたすら考えを巡らしていた。


計画…最後…。強盗じゃなく、そして気付かない…。


「まさか!!」


百合子はある考えが浮かんだのか、思わずそう叫んだ。


「どうした、百合子。なんか分かったのか?」


潤は百合子の様子を見てそう聞いた。


「潤、一端外に出ますよ!!」


「えっ何で!?」


「いいから早く!!」


そう言うと、百合子は潤の手を掴んで、玄関へと向かった。










外に出た二人は、洋館のベランダの下に来ていた。コンクリートが草に隠れていたので入った時は気がつかなかったが、コンクリートには血痕がついていた。



そして…。


「ここに、遺体があったっていうのか。」


潤はコンクリートを見てそう呟いた。


「けど何で。」


「本条紀斗の日記に書かれていた“計画”というのは、このことだったんです。」


百合子は下を見ながらそういった。


「どういうこと?」


「つまり、これは強盗が入って来たのではなく…










本条紀斗によって計画された、無理心中ということです。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ