11th.呪いの洋館
そして5日後。
魚の少女…アユの一件から、何もおきず平穏に時間は過ぎていった。
法堂は、いまだに決断をしていなかった。
「っはぁ。なんかしょーもないことで悩んでる気もするんだけどなぁ…。」
法堂は廊下を歩きながら深ーいため息をついた。
「あの、法堂先生。」
歩いていると、突然女子生徒から声をかけられた。法堂は歩くのをやめた。
「白石か。どうした?」
法堂は目の前の生徒を白石と呼んだ。
茶色の短髪で、背の低い子だ。
「なんか悩みとかあるんですか?」
「へっ!?どっどうして…。」
「だって、辛気臭い顔してるんですもん。」
そんな顔してたのか俺と思いながらも、法堂は苦笑いを浮かべて、
「別に、何もない。」
「ホントですか?」
「ああ。ホントだ。」
「ならいいんですけど…。」
全く、生徒にまで心配かけさせてどーすんだ。
彼女の名前は白石麻衣子。法堂が教えている2-C組のクラスの生徒だ。クラスの中でも大人しい性格で、かつ真面目な子だ。
「それより、用件はそれだけか?」
「いえっ。実は、先生に相談したいことがあって…。」
「相談したいこと?」
「はい…。乗ってもらえますか?」
「ああ、いいよ。でっ、なんだ相談って?」
「呪いの洋館!?」
法堂たちは、学園の中のカフェテラスにいた。
「はい。私の家の近くに、古びた洋館があるんですけど、最近その洋館で奇妙なことが起こってるんです。」
「奇妙な事?」
「はい。あれは数日前のことでした。」
最初は、その洋館に対して別に気にも止めてはいなかったんですけど、その日、たまたま洋館の前を通りかかったんです。
それで、どこからか好奇心が湧いてきて、洋館の中に入ったんです。
なかには何にもなかったので、洋館の外に出ようとしたら、突然女の人の声が聞こえてきたんです。
「女の人の声?」
はい。いや…、いや…。て言ってた気がするんですが、それが気になって、声のする二階へ上がったんです。
そして、一番奥の部屋から声がしてたので、私は一番奥の部屋に入ることにしたんです。
部屋に入ると…。
「キャァーーーーーーーー。」
ビクッと、突然自分の後ろから悲鳴がしたので、法堂はおもいっきり肩を震わせた。
後ろを振り返ると、ニコッとした数葉がいた。
「きっ君か。おどかさないでくれ。」
「君とかやめてよ。私には御園数葉っていう名前があるんだから。」
「じゃあ御園、なんでここに?」
「なんでって、昼食を食べに来たんですよ。そうしたら、たまたま先生が白石さんと話してるのが見えて。」
てへっと数葉はいたずらの笑みを浮かべた。
「ったく。悪いな白石。で、話の続きは…。」
「はい。」
「私も同席してもいい?」
「ああ、どうぞ。」
法堂は面倒くさそうにそう言った。数葉はそれを聞くと法堂と白石の間に座った。
話を戻しますけど、私は一番奥の部屋に入ったんです。
そしたら、女性どころか誰もいなくて。
「誰もいなかった?」
法堂と数葉は同時にそう言った。
「はい。一応部屋中探したんですが、誰一人いないんです。私の聞き間違いかとも思ったんですけど、
その日からずっと、あの洋館から女性の声が絶えず聞こえてくるんです。」
「えっ!?」
「何度も何度も聞こえてくるんで、意を決してもう一度洋館の中に入ることにしたんです。そして、あの部屋に入ったんです。そしたら、辺り一面血の海だったんです!!」
「血の海!?」
法堂と数葉はまたしても同時に言った。
「それだけじゃありません。他にも、前見たときは何にもなかったのに、ぐちゃぐちゃに散らかってたんです。それで怖くなって逃げ出して、私の父にそれを伝えたんです。私は、父と警察の人と一緒に問題の部屋へ入ったんです。そしたら、部屋はなぜか元通りになってたんです。」
「元通りになってたって、血の海とか散らかってたりがなかったってこと。」
数葉は顔を真っ青にしてる白石にそう聞いた。
「はい。父は夢でも見たんだろうって言うんですけど、あれは絶対に夢なんかじゃありません。あの洋館はきっと呪われてるんだ…そう思うと、いてもたってもいられなくて、それで法堂先生に相談することにしたんです。」
「どうして俺に?」
確かに俺はそういった類は得意だが、この学園の者は(理事長とG-クラスの生徒以外)誰もそのことを知らないはずだ。
「私が教えたの。白石さんはうちの病院にくる患者さんの一人でね、前来た時になんか辛気臭い顔してたから、どうしたのかなって思って声をかけたら、信じてもらえないような悩みを抱えてるって言ってたから、そういうことは法堂先生に相談するといいよって言ったの。」
法堂は数葉に対して冷ややかな眼差しを送った。
「だよね、白石さん。」
「はい。でも、それだけじゃないんですけど…。」
白石はなぜか頬を赤に染めて、下を俯いてしまった。
法堂は頭に?マークを浮かべて首をかしげた。
「先生、一度私と一緒にあの呪われた洋館へ行ってくれませんか?」
「へっ?」
「私、あれ以来眠れない夜が続いてるんです。なんだか私にまで呪いが降りかかりそうで…。」
白石の目は、明らかに怯えていた。
目の前で怯えている生徒を、ほったらかしになんかできない。
法堂は心の底からそう思った。
「先生、面白そうだし行ってみようよ。」
数葉は能天気に行く意欲を見せた。
「おい、御園。」
「それに、これって私たちの出番だと思わない?」
数葉は小さな声で法堂にそう言った。
「っ分かったよ。」
「ホントですか!?」
白石の目は、さっきの怯えた目と違ってとてもきらきらとしていた。
「あっああ。」
法堂は白石の迫力に圧倒されていた。
「じゃあ、今日の7時。時計台公園の時計台の下集合で。」
それではっというと、白石はさっさとカフェテラスから出て行った。
二人はその様子をじっと見ていた。
また妙なことを引き受けてしまったもんだ。
法堂は一人そんなことを考えていた。
だが生徒が怯えてるというのに、教師の俺が生徒をほったらかしになんかできない。
『コーちゃん。なにをそんなに意気込んでいるの?』
法堂の隣にいる桜は、法堂の様子を見てそう聞いた。
「あっ、いや別に。」
『そう?それより、決心はついたの?』
「えっ?」
『G-クラスの子たちの力になるって話。』
「いや、まだ。國末はどう思う?」
『私?私は別にいいと思う。だって、コーちゃんがいるだけで、誰かの手助けになるなんて、とっても素敵なことだと思う。』
「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、けど、ホントに力になれるのか…。」
「ちょっと、何そこで辛気臭い顔してるのよ。」
と突然、後ろの方から声が聞こえてきた。
振り返ると、因幡が立っていた。
「君、どうしてここに?」
「君はやめなさいよ。私には柏木因幡っていう名前があるんだから。」
「御園と同じこと言ってるし。」
「何よ。」
「いや別に。で、どうしてここにいるんだ、柏木。」
「いちゃいけない理由でもあるのかしら?」
因幡はぶっきらぼうにそう言った。
『二人とも、喧嘩はよくないわよ。』
桜はそんな二人をなだめた。
「別に喧嘩してるわけじゃないよ。」
『そう?』
「ねえ、もしかして彼女が前先生と話してた子?」
因幡は桜の方を見てそう言った。
「前って、もしかしてあの時俺を見てたのはやっぱり…。」
「私柏木因幡。よろしくね。」
因幡は法堂を無視して桜に自己紹介をした。
『私は國末桜。もしかして、あなたがコーちゃんの言ってたG-クラスの子?』
「ええ、そうだけど。もしかして、私たちのことについて何か言ってたの?」
『コーちゃんが、俺じゃあの子達の力にはなれないんじゃないかって…。』
「おい國末。なにも本人がいる前で…。」
「へぇー、先生がそんな事を。まだ悩んでたんだ。」
因幡は悪戯の笑みを浮かべながらそう言った。
「悪かったな。」
因幡の言葉で、法堂はそっぽを向いた。
「別に、私は歓迎するけど。」
「えっ?」
「そんなことより、今日呪われた洋館とやらに行くのよね。」
「あっまあ。」
「詳しく教えてくれない。数葉、今会計の仕事してるから聞くに聞けなくて。」
「柏木も行くのか?」
「当たり前でしょ。私だってG-クラスの生徒なんだから。」
「あっそう。聞いた俺が悪かった。」
「そんなことより、早く教えてよ。」
因幡は急かしながらそう言った。
やれやれと思いながらも、法堂は呪いの洋館について話し始めた。