第一話
「ん...」
あれ...俺は...。
ああ、流石に名前は覚えている...。俺は、「猫又 バロン」。何故かわからんが、今は人間だ。
...隣でいびきかいて寝てるかわいいやつは、「猫又 レオ」。俺の弟...でいいのか? まぁ、そんな感じだ。
「...朝飯、作んのだりぃな」
家に何かあったっけな。人間になってから食えるもんが増えたのはありがたいが、食わなきゃいけない量も増えたからな...。
「パンか。これでいいや」
...よくあいつも食ってたな。ご飯とパンだったら麺派とか言ってたな。第三選択肢を勝手に出していいのか...?
「あ、バロン!」
レオか。珍しく起きんの早いな。
「僕のパン勝手に食うな!」
「あー、これレオのか。すまんすまん」
...ただの食パンに拘るのか。ま、いいけど。
「今日の仕事はー?」
レオがパンを食べながら聞く。
「今んとこ来てないから、バイトかね。」
「ちぇ。つまんないのー」
レオがほっぺを膨らませている。
選択できるだけいいと思うが。
「俺は...キムチでいいか。」
レオが焼いた方は食べないと言ったから、それは俺にくれた。
「...あっ、バロン。キムチ食べようとしてるでしょ」
...鋭い。
「僕が買ってきたやつなんだから、たくさん取らないでよ?」
「レオは食べないだろ。」
圧倒的甘党なレオに言われたくない。
「う...」
図星か。キムチ旨いのに...。
「なら食べるぞ。」
...うん、旨い。
「バロン、携帯鳴ってる」
レオがそう言うと、勝手に携帯で応対した。まぁ、かけてくる人なんて五人いればいい方だからな。
「はい、わかりました。この後すぐ向かえばいいんですね?了解ですー」
「バロン、良かったね。バロンだけで仕事だよ」
レオが嫉妬を含んだ笑顔で顔を向けてくる。
「俺はレオみたいにサイコパスじゃねぇよ...。」
あぁ、だりぃな...。他に仕事がなかったとはいえ、あんまりやりたくない。
「はぁ...行くかぁ。」
「...ガンサー様ですね。マスターにお通し致します。」
あぁ、もはや ...慣れてしまったのか。
「いらっしゃい、ガンサー。ダガーと生活していてどうだい?」
マスター...いや、スノー様がそう聞いてくれた。
「楽しいですよ。非常に。」
これは本心。レオ...ダガーと過ごしていて、楽しい。
「なら良かったよ!今後も続けてみようか。」
「さて、今日の仕事だが...池袋町西にある、白百合家の執事の始末だ。」
執事?代表ではなく?
顔に浮かべたのか、マスターが説明する。
「代表は既に手のひらの上だからね。一番行動の読めない執事を頼みたかったのさ。...メイドも頼みたかったが、メイドはダガーに任せた方がいいからね。」
「つまり、執事は近接戦が得意と?」
俺は、レオとは違い、両方はできない。
「その通り。あそこは、メイドの戦力が極めて高いのさ。なんでも、両方同時に扱うこともできるのだとか...。」
...! 確かにそれは、俺にはできない。でも、銃を使えばほぼ確実に当てられる。その技術で俺はこれまでやってきた。 ...つまりは、俺の銃のリーサルよりも、そこのメイドのリーサルの方が長く広く、正確性が高いということ。
「でも、ダガーにはできないこともある。私はね、そこのメイドをうちに招きたいのさ。それはダガーには無理だろう?」
「...ええ、ダガーはそんなことできませんね。」
全く否定できない。俺は獲物を見つけたら確実に仕留める。そこに付随した条件も、なるべく...というか、確実にやりきってみせる。
レオは、悠長に弱っていくのを楽しむ。そのせいで仕留めそこなうことも多々ある。
「...だから、今日は執事だけを仕留める。いいかな?」
「わかりました。」
「ひっ...」
...ごめんなさい。こっちも仕事なんだ。なるべく痛みなく逝かせてやるから。
「...。」
「おい、あれ...ガンサーじゃないか...!? あっ」
...これで終わりか。帰ろ____「待ちなさい」
「...さもなくば、殺す」
見つかったか。これ以上、殺りたくないんだが...。
「...え?」
目の前にいるのは、見てわかるくらいには小さな____子供。なぜ、ここに何も...いや、一応手錠?ならあるか。____いや、それよりも...。
「な、なによっ。あたしだって、あの人がいなくたって、会話くらい___捕らえることくらいならできるんだから...!」
よく見れば、足も震えている。そりゃそうか。幼子に見せれる景色ではないし_____。
「ちょっと、聞いてんの...!?」
...こんなときに度胸があると褒め称えるべきか、それともこの場で殺すか____レオなら、殺すだろう。
でも俺は______。
「逃げろ。俺は、君を殺さなくてはならなくなる。今見た景色、そして俺を見たことも言っちゃ駄目だ。それから_____。」
目を逸らして話した。
「間単に人を殺すなんて言うな。捕らえる目的でも、言うな。俺みたいに、こうでもしないと生きられない人もいるし、何よりも...。」
言いかけて、喉が詰まった。目を合わせて気づいた。その子は、ボロボロの服を着ていたし、何より痣や火傷の跡が酷いからだ。
「あたし、居場所ないもん...。
せめて、荒らしたあなたについていくか、捕らえるかして居場所を確保しないと...。」
...はぁ。めんどくさい。
「事情は家着いてからな。」
こうして、バロンは家に連れ帰ることにした。