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【短編】婚約破棄されて聖女とか言われても武器なんて使えません。黙って拳のみで戦います。

作者: 神田義一

「死ィねぇぇぇぇええええええッッ!!」


 オシャレなカフェの一角とは思えない、赤黒い憎悪の炎に燃やされたような女の怒号が響き渡る。

 その女はかつて彼氏だった"モノ"の胸ぐらを強引に掴み、右腕は怒りの鉄槌を振りかざしている最中だった。

 彼女の拳は空を裂き、周囲の音が遠のく。まるで全てがスローモーションのように感じられる。


 対する男の表情は、ゆっくりと形を変えていくように見える。最初は軽く馬鹿にしたような笑み──そして油断。次に、それが焦りに変わる──目を見開き、口を半開きにして後ずさろうとする。


 しかし、女の鉄拳はそれを許さない。

 男は逃げる間もなく汗が額を流れ、瞳が震え、言葉にならない声を喉の奥で漏らすのが精一杯だ。


「ひっ……やめ──」


 しかし、ここから語るにはあまりにも情報過多だ。

 少しばかり、時間を戻そう。



 ◆ ◆ ◆



 私、三神玲蘭(みかみ れいら)、23歳。会社員。普通の女だ。地味なメイクに、控えめな服装。

 本当は堂々とした強い女性に憧れはあるけれど、趣味は好きな配信者の動画を見漁ったり、小説を読んだり。

 そんな日陰者の私は目立つことが苦手で、むしろ少しでも波風を立てないように生きてきた。


 そんな私にも「愛してる」と言ってくれた人がいる。彼氏である坂上拓郎(さかうえたくろう)

 ちょっと楽観的すぎるところもあるけれど、明るくて社交的な彼に惹かれて、二年前から交際を始め、こないだ婚約までした。

 結婚して幸せな家庭を……そう考えていた時はどれだけ幸せだったかと、今になって思う。


 けれど。


「わり、いつ言おうか迷ってたけど、お前との婚約は破棄させてもらうわ」


 カフェの一角にて。端っこのテーブルの横に立つ私に、恋人がそう告げる。

 目の前には、テーブルに座る拓郎と、その隣に派手な服装をした若い女。目を引くほど高そうなバッグを手元に置いて、気だるそうにストローをくわえている。


「ごめんねぇ元カノさん! たっくんと私はもう愛し合っちゃってるから、あなたの出る幕はぁ、もう無いっていうかぁ?」

「……っ……」

「ホラ、今日だってこんな高いバッグもプレゼントしてくれたんだよ? 私だけのために」


 何か言いたくても何もも言えない私に、そう言ってバッグをこれ見よがしに見せつけてくれる。

 そのバッグは先ほど拓郎が彼女にプレゼントしたモノだ。私が後をつけているとも知らないで。


 浮気現場。

 私が今ぶつかっているのは、まさにその修羅場の中心点だ。


 ある日から拓郎の動きが妙だったのが気になって、友達と旅行に行くと言った彼を、悪いとは思いながらも尾行した。

 その結果がコレだ。彼は旅行なんて行かず、自宅から駅を3つほど行ったとこで浮気相手の女性と会っていたのだ。

 二人で手を繋いで、ショッピングモールで買い物をし、この女へプレゼント。そしてそのままこのカフェへ入店し、またしてもベタベタしながら私への悪口や「もうホテル行く?」なんて言葉が聞こえ、居てもたってもいられず、気づいたら突撃していた。


「……拓郎、お金に困ってたんじゃないの? お父さんの会社が経営難だって聞いて、借金までしてるって言ってたじゃない……。なのに、そんなプレゼントは買えるんだ」

「借金〜?」

「ばっ……! は? 借金とかしてるワケねーだろ!? 適当なこと言うなよ!!」


 しらばっくれる気らしい。

 一年前、私がたまたま彼のポケットから借用書が出てきたのを見て、失望した私は一度彼に別れを切り出したことがある。借用書の額面は300万円。

 しかし彼は「ごめん! 親父の会社が経営難でさ……! それで、俺も少しでも助けになればと思って! お前には心配かけたくなくて言えなかったんだ! 勝手かもしれないけど、別れないで欲しい!」と平謝りしてきたのだ。


 そう言われたら、それで別れるのも自分が嫌な奴みたいだし、私も恋人の家族の為に何か協力しなければと、バイトを増やして彼の家族の為と信じて一緒に借金を返す為にお金を渡していた。


「たっくん、借金してるの?」

「んなワケねーだろ。瑠奈(るな)を騙そうとして別れさせようとしてんだよコイツは」

「えー、マジ!? そんな簡単にバレる嘘つくとか、元カノさん必死すぎ〜! そうだよね〜、たっくん年収あるし、こないだだっていっぱいアクセサリーも買ってくれたもんね!」


 ふーん、そうなんだ。

 とどのつまり私が必死に汗かきながら得たお金は、全部この瑠奈とかいう女へと流れてたワケね。

 父親の会社の話なんて全部嘘で、最終的に別れる私からお金を出来るだけ搾り取ってやろうと。


 ……なにそれ。


 温厚だよね。

 よくそう言われる私の頭の中で初めて何かがキレた。


「ふざけないでよッ!! あなたのお父さんの会社のためだと思って、ずっと必死に頑張って来たのに!! 全部嘘だったの!? あの時はあんなに別れないで欲しいって言ってくれてたのに!」


 私の怒声は店内に響き渡り、他の客たちが何事かとこちらを見ているのがわかる。けれど、もうそんな視線を気にする余裕なんてない。


「お客様……他のお客様のご迷惑ですので、もう少しお静かに……」


 近くにいた店員が慌てて声をかけてきたが、それでも私は拳を握りしめたまま、睨み続ける。

 二人は一瞬私の大声に驚いたが、すぐに余裕そうな笑みを浮かべた。


「はぁ、お前、ホントだるいわ」

「え……急にヒス起こすとかヤバすぎなんですケド……」


 拓郎はため息をつき、瑠奈に「行こうぜ」と促す。


 彼女は「元カノさん怖〜。てか、これってストーカーじゃんね」なんて言いながらも、楽しげにバッグを持ち、彼と肩を寄せ合うようにして立ち上がる。


 ──気づけば無意識に体が動いていた。拓郎の腕を掴み、引き止めようとする。


「待ってよ! ちゃんと説明して──」

「触んなよ」


 拓郎は簡単に私の手を振り払う。その勢いで私は尻餅をついてしまった。


「あっ……!」


 痛みよりも、屈辱と絶望が胸を締め付ける。

 悔しい、悔しい悔しい。


 すぐにでも立ち上がりたかったが、次の瞬間、私の視界がグラリと揺れた。


「うっ……おぇえ……」


 同時に船酔いのような目眩と吐き気が襲いかかってくる。

 私は床に手をつきながら蹲った。


「……は? いや軽く払っただけなんだけど……」

「だよね〜。それにその程度で吐き気とかおかしいんですけど。そこまでしてたっくんのこと引き止めたいの? もう行こ」


 目の前で私が倒れても、二人は信じられないと笑いながら再び店の出口へと向かう。……こっちが信じられない。

 四つん這いになったまま酔いは止まらず、惨めさのあまり涙が出た。


 絶対に許さない。絶対に──


『どうか助けてください。あなたの力が必要です』


 感情が爆発している中、そんな声が直接脳に響き渡る。


 はは、幻聴まで聞こえ出したよ。どんだけ狂ってんだ。私の体。

 っていうか、寧ろ助けて欲しいのはこっちの方なんだけど。今の私が誰かを助けられると思ってる?


『あなたは聖女として選ばれました。望むものをなんでも一つだけ与えられます』


 聖女? 望むもの? いきなりなんなんだ。

 そんなの決まっている──あのクソ男をぶっ飛ばしてやりたい。

 こんなクソみたいな理不尽すらも、ぶっ飛ばせる力が欲しい。他は何もいらない。


 そう願った瞬間、先ほどまであった耐え難い酔いが急に消えた。

 重たかった体も、ふわりと風のように軽い。


 次の瞬間、私は考える前に立ち上がり、走り出していた。

 支払いを終えて出口に向かう拓郎を背後から掴み、無理やり振り向かせる。


「は!? いい加減にしろ──」


 再び彼は私の腕を振り払おうとするが、なぜだかまるで蚊が止まったような力に、私の腕はビクともしない。

 私はその勢いのまま彼の胸ぐらを掴み、もう片方の手を硬く握りしめ、振り上げる。

 もう振り回されるのはうんざりだ。これからは言いたいことはハッキリ言って生きてやる。


 この一撃は、過去の私との決別だ──


「死ィねぇぇぇぇええええええッッ!!」

「ひっ……やめ──」


 拓郎の声を無視し、私は人生で初めて人を殴った。

 拳が拓郎の頬にめり込む。皮膚を押し潰し、その衝撃で肉が波打つ。


『契約完了』


 そんな声が脳に聞こえると、私の視界は白くぼやけていく。


 一発殴っただけでは到底腹の虫が治らない中、私が最後に見たのは、まるで突風を受けた紙人形のように空中に浮き上がる"元恋人"の姿だった。



 ◆ ◆ ◆



「──ん?」


 気づけば私は、全然知らない場所に立っていた。

 拳を振り下ろしたまま。


 足元には奇妙に光る魔法陣。消えかかっているけど、どう見ても現実離れしている。それを囲むように広がるのは、豪華絢爛な大広間。金ぴかのシャンデリアや柱、壁の装飾、どこを見ても「金かけました!」って感じの部屋だ。


 正直、状況が全然わからない。けど、一つだけ確かなことがある。

 イライラする。ものすごくイライラする。


「ふむ、これが聖女か」


 目の前で、金髪碧眼の男が私をジロジロと品定めするように見ている。鎧姿で、明らかに偉そう。なんだこの男。


「はぁ……聖女と聞いて期待していたが、胸がでかいだけで特別美人でもないじゃないか。まぁいい、最低限の基準は満たしてるようだな」


 ──は? いきなり何?

 怒りがこみ上げてきて、拳を握りしめる。こいつ、拓郎よりもイラつくかもしれない。


「ラ、ランス……! それはさすがに失礼じゃ……!」


 隣に立っているのはローブ姿の男。こっちはなんだか頼りなさそうだ。でも一応、金髪男──ランスって呼ばれたそいつを止めようとはしてくれている。


 周囲を見渡せば、大広間の奥には王座に座った偉そうな中年の男──多分王様。そしてその周りには、見た目からして高貴な人たちがずらりと並んでる。みんなして「成功だ!」「さすがだ!」とか勝手に盛り上がってるけど、私のことなんてお構いなし。


(あ〜……もしかして、異世界召喚ってやつ?)


 ようやく少し落ち着きを取り戻すと、過去に読んだweb小説と情景が似ていることを思い出す。

 現実なのだろうか? にわかには信じ難いが、確かここに飛ばされる前も聖女がどうだのと声がした気がするけど……。


「おい、聖女!」


 金髪男──ランスとやらが、私に話しかけてくる。


「俺はこの国の王太子であり、選ばれた勇者だ! そしてお前は俺に仕える聖女として召喚されたのだ。感謝するんだな」


 ……感謝? 召喚? 私を? 誰に? しかも偉そうに命令してくるとか、頭大丈夫?


「この俺に同行できるんだ。ありがたく思えよ。それで、名前は? お前は何という?」


 正直、いつもの私なら萎縮して素直になんでも答えていただろう。

 しかし、拓郎を殴ってから私の心に変化があった。

 それに限界だった。こいつの態度は拓郎に輪をかけてムカつく。口が勝手に動く。


「は? 人に名を尋ねる時は自分からってお母さんに教わらなかったの?」


 一瞬で場が静まり返った。ランスの顔が驚きで固まる。


「な、なんだと?」

「耳が悪いの? 名を聞くならまず自分から名乗るのが礼儀って言ったの。私は聖女だかなんだか知らないけど、召喚されたからっていきなり偉そうにされる覚えはない」


 はっきり言ってやった。

 周りは「なんて無礼な」とか「勇者様に向かって……」など言いながら、視線が私に集まる。

 そんなのどうでもいい。だってイライラが収まらない。


 ランスは顔を真っ赤にして拳を震わせたが、怒る前にさっきの魔術師らしき男が間に入り、一歩踏みとどまったらしい。


「ラ、ランス! 聖女はこの国にとって非常に重要な存在だ! あまり横柄な態度を取ると、国王陛下にもご迷惑が──」

「黙れ、ウィルズ。俺はお前みたいな村出身とは違って、この国の王子であり、国王に正当に選ばれし勇者だ! 民衆も俺に全幅の信頼を寄せている! 聖女といえど、俺の指示に従うのが筋というものだろう」


 ランスは一歩前に出て、未だいけすかない態度で私を見下ろしてくる。そしてその視線は、なぜか私の胸に固定され、ニヤリと笑みを溢した。


「ふっ、やれやれ。美人でもないと言ったのが癪に触ったのか。いやぁ悪かった。しかし聖女としての価値はある。それにせっかく召喚されたのだ、国を救った暁には、俺の妻候補の一人として迎えてやらなくもない。どうだ!? 光栄だろう!?」


 ランスは「まさに妙案! これで解決!」とでも言うかのような雰囲気で私に手を伸ばしてくる。その瞬間、体がカッと熱くなるのを感じた。

 なにこいつ。私を完全に見下して、勝手に物扱いして、挙句の果てには妻候補? ……バカじゃないの?

 思わず、頭の中で理性が吹き飛び、再び拳を固く握りしめる。


「光栄? ……ふざけないでよッ!!!」


 とにかく触られたくなかったので、私はその手を払い除ける為に腕を振るった…だけのはずだった。


 ゴオッッ!!


「ぐっ……うぉおああああ!?」


 目の前にいたランスが、まるで爆風に吹き飛ばされたように空中で回転し、そのまま大広間の床に2~3メートル先まで転がった。


「……は?」


 私は自分の手を見下ろす。たしかに軽く振り払っただけだ。それなのに、あの鎧を着た男が簡単に飛んでいく。

 大広間全体がシーンと静まり返り、誰もが目を丸くして私と倒れたランスを交互に見ている。


「お、おい! 大丈夫か!? ランス!」


 慌てて駆け寄るローブの男──ウィルズがランスを起こそうとするが、ランスは頬を真っ赤に染め、歯を食いしばりながら起き上がった。


「な、なんだ今のは!?」


 ランスの声は震えながらも、その目には驚きと警戒が混じっていた。


「いや……ただ手を払っただけなんですけど」


 私は正直に答える。けれど、その言葉がさらにランスの癇に障ったらしい。


「貴様…! 聖女ごときの分際で、この俺に恥をかかせるとはいい度胸だ!」

「ランス! 待て!」


 ウィルズが必死に止めようとするが、ランスは聞く耳を持たずに剣を抜く。

 きらりと光る剣先が私の目の前で揺れる。

 いやいやいやまって、本当に軽く払っただけなんですけど。

 っていうか仮にも勇者を名乗っておいて、弱すぎない?


「黙れ! 俺に逆らった罰をその身体に受けさせてやる!」


 ランスが剣を構えて一歩踏み出したその瞬間。


「静まれ!」


 威厳ある声が広間に響き渡り、場が一瞬にして静まり返る。

 王座に座る中年の男、恐らくこの国の王様が、重々しい目で私たちを見下ろしていた。


「ランス、これ以上余の前での無礼は許さぬ」

「……っ、申し訳ございません。陛下」


 ランスは明らかに不満げな表情を浮かべながら頭を下げる。

 そんな彼を横目に、王は次に私へ視線を向けた。


「異界の聖女よ。息子の非礼を詫びよう。我が名はフィリーディア国王、カルザード三世。この国を治める者である。そなたをこの場に呼び寄せたのは、余の命令によるものだ。感謝するがよい」


 感謝しろ? 詫びたと思ったらなんだそれ。

 一瞬気を許しかけたけど、コイツもコイツじゃねぇか。


「我が国──フィリーディアは今、魔物どもの脅威にさらされておる。故に勇者とともにこの国を救う存在である異界の聖女召喚の儀を行なったのだ」


 重々しい声が大広間に響き、場の空気が一層引き締まる。王の視線には威厳がありながらも、どこか偉そうで鼻につく。


「隣にいる彼らは、貴殿と共にこの国を救う為に選ばれた二人の勇者だ。我が優秀な子息であるランス、それと家柄は無いが優秀な魔術の才能を持ったウィルズ」


 促されるようにして、一歩前に出たローブ姿の男──ウィルズがぎこちなく頭を下げた。


「今回この召喚を執り行った勇者ウィルズだ。よろしく……」

「……よろしく。三神玲蘭よ」


 とりあえず形だけの挨拶を返しておく。

 てっきり宮廷お付きの魔術師かなんかかと思ったけど、コイツも勇者だったのか。

 この男が召喚したってことは、あの時の声は彼のものだったのか。ウィルズの態度は一応丁寧だが、ランスのクズっぷりが強烈すぎて、彼がまともに見えるだけかもしれない。


「ではレイラよ。まずは『ステータス』と唱えるのだ。異界の者にしか扱えぬ魔術と聞いている。それにより、自身の能力が明らかになるだろう。聖女としての能力や情報が書かれているはずだ」

「……ステータス」


 王の言った通りに、ぼそっと聞いたことあるような言葉を声に出してみると、目の前に半透明に光るウィンドウが出現した。


(わ! 本当に出た!)


 --------------------------------


 名前:ミカミ レイラ

 種族:人間

 職業:聖女

 レベル:100

 体力:3,001,275

 魔力:9,206,834

 備考:制約あり(詳しくはコチラ)


 --------------------------------


(…………ほえ?)


 なんか、思っていたものとずいぶん違った。

 魔力とかはなんとなくそういう世界っぽいから受け入れれるが、それぞれの数値がバグなんじゃね? と思えるほど高すぎる。

 え? 何? もしかしてこれが普通とかじゃないよね?


 っていうか制約ってなんだろう。web広告にあるような『コチラ』部分をタッチすると、詳しい解説が表示された。聖女としての能力と、その制約など。


(ふむふむ、へぇ、なるほど……)


「……見れたようだね」


 ウィルズが尋ねてくる。どうやらこの画面は私にしか見えていないらしい。


「ええ……それで?」


 なんとなく嫌な予感がする。どうせこの後、ろくでもないことを言い出すんだろう。

 王は私の表情を無視して、手を叩いた。兵士が大きな箱が運んでくると、その中には剣や杖、メイスにフレイルなど、おおよそ僧侶が使いそうな装備品が詰められていた。


「これは『聖女の武具』と言われる物である。この国に代々伝わる、異界より来た聖女のみが使いこなせる神聖な装備だ。剣、杖、メイスにフレイル……どれでも構わぬ。触れてみるがよい。それを扱える者にこそ、聖女たる地位は与えられ、聖女召喚の儀は完成されるのだ」

「……つまり、これを私に使えってこと?」


 私が冷たく言うと、王はあからさまに鼻で笑った。


「当然だ。余の命令で召喚された以上、我々のために戦う責務がある。彼ら勇者と共に、魔物との戦いに参加し──」

「ちょ、待って待って!」


 私は王の話を遮った。っていうかなんなんだ。さっきから一方的に「これをしろ」「あれをしろ」みたいに決めつけて。


「そもそも私、勝手に召喚されたんですけど。あんたの国の都合に巻き込まれる理由なんてないんだけど」


 私がピシャリと言い放つと、大広間の空気がピリッと張り詰めた。ランスがすぐさま食って掛かる。


「な……お前は聖女だろう!? 召喚に応じた時点でこの国の使命を背負ったのだ!」

「はぁ? おかしくない!? 私に従えって言うなら、それなりの理由と見返りを見せてもらわないと納得できない」

「聖女は見返りも求めず尽くす存在だろう!? 貴様が働かなければ、この国の民は魔物の災害にさらに苦しむことになるんだぞ!? 見殺しにする気か!?」

「どこに無償で知りもしない国の為に働くバカがいるのよ! それに、あなた勇者なんでしょ!? 自分で解決しなさいよ! それとも何? 聖女の力を借りないと何もできないの?」


 私がランスを睨み返すと、彼は顔を真っ赤にして、拳を握りしめた。


「貴様……! 聖女でなければ、今すぐ切り捨ててやるところだ!」

「やれるもんならやってみれば? でもいいの? 召喚された聖女が無抵抗なまま勇者に切られたって噂でも立つんじゃないの?」

「ぐ……ぬっ……」


 挑発すると、ランスは痛いところを突かれたのか、急におとなしくなった。

 あんだけ言っておきながら、簡単に論破されるんかい。

 しかし、こいつらにとって『聖女』の基準がおかしすぎる。そんな都合の良い存在が居てたまるか。


 一方で、ウィルズは私とランスの間でオロオロしている。


「あ、あの、レイラの言うことはもっともなんだけど……ただ、この国の現状を考えると、聖女の力がどうしても必要で──」


 ウィルズが慌てて頭を下げる。うーん、正直この人に悪い印象はないんだよね。

 でもさ。


「必要なら、それ相応の待遇を用意してよ。私は勝手に召喚されたし、命を懸けるなんてもっと無理。報酬がないなら私、働かないわよ」


 冷たく言い放つと、今度は王が「はぁ」と深々とため息をついた。


「異界の者は皆、このように無礼なのか……」

「無礼って何ですか。そちらが勝手に呼びつけたんでしょう? 私を必要だって言うなら、それなりの報酬を出すべきだと思いますけど」


 王は一瞬口をつぐんだ。これまで召喚された聖女たちは黙って命令に従ったのだろうか。そうだとしても、私は違う。ここで譲ったら、彼らは好き勝手に私を扱うに決まっている。

 それに、私も多分あんな場面で召喚されてなかったら、「小説の世界みたい!」とか言って大人しく従っていたかもしれない。

 でも、拓郎を殴る時に決めたのだ。言いたいことはハッキリ言うと。


 大広間の空気が一層緊張感を増す中、王は顔を顰め、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「異界の聖女よ……言いたいことは分からぬでもない。だが、我はまだ貴殿の聖女たる力も知らぬ」


 王はそう言いながら聖女の武具の方を見る。周囲の視線が私に集まる中、私は武具が収められた箱の方に向き直った。


(まぁ、聖女としてまずは認められろってことか……)


 私は面倒な気持ちと共に頷いて見せた。ちゃんとした待遇があるなら悪くないのかもしれない。

 今まで地味な生活しかしてこなかった私が、「聖女」としてちやほやされる。小説の中のような待遇を享受できるなら、それもアリかもしれない。


 私は箱の中にある最も目についた剣に手を伸ばした。


 その瞬間──


 バチィッ!!


「わっ!」


 黒い閃光が剣から弾け、私の手をはじき返した。予想外の強い衝撃に思わず後ずさる。杖は、まるで自分を守るかのように周囲に黒い稲妻を散らしながら震えている。


「え?」


 手に少し痺れを感じながら呟くと、周囲が一気にざわめき始めた。


「なんだ……?」

「聖女が武具に拒絶されるなんて……」

「まさか、召喚が失敗したのでは」


 ひそひそと交わされる囁きが広間に広がる。王も一瞬動揺を隠せない様子だ。


「ふむ、聖女の武具が拒むとは……どうやら貴殿は聖女ではないらしいが……」


 王が重々しい声でそう呟くと、大広間にいた全員が一斉に私を注視した。その視線は先ほどまでの期待に満ちたものとは違い、どこか冷たい。

 ウィルズは慌てて頭を抱える。


「そ、そんなバカな!? 召喚魔法は間違いなく成功したはずです! 魔法陣も正確に発動しましたし、異界から彼女が来たことは紛れもない事実です!」

「だが、聖女の武具が拒むようでは、聖女ではない証拠ではないか」


 王の言葉に、周囲の貴族たちも口々に非難の声を上げる。ランスはその様子を見て口角を吊り上げると、今にも崩れ落ちそうなウィルズを横目に、私を指差して高笑いを始めた。


「ハハハハハッ!ということはつまりだ。 こいつは聖女でもなんでもないってことだ! ただの無能女を召喚したんだな! ウィルズ、お前の失態だな!」


 その笑い声があまりにも癪に障った。私の心の中で、ぐつぐつと怒りが煮えたぎるが、一旦堪える。

 ランスの高笑いが広間に響き渡る中、私は静かに深呼吸をした。怒りで拳を握りしめそうになるが、少しだけ冷静さを取り戻す。


(いや待て、確かステータスにあった制約って……)


 私はステータスを開き、制約の欄を再度注視する。


 ・聖女レイラの制約

 全ての武具の使用不可

 異界の聖女として召喚されし者は、本来、聖女の武具を用いて聖なる力を発揮するが、対象者の最終的な願いに基づき、全ての武具は使用不可となる。

 その代償として、聖女として本来強化される身体能力・魔力量のさらなる強化。

 尚、本来聖女として扱える魔術などは付与済。


(……そういうことか)


 対象者の最終的な願いってのは、たぶん拓郎を殴る前に願った「どんな理不尽すらもぶっ飛ばしたい」とか思ったせいなのだろうか。

 私は瞬時に理解した。その願いが、聖女の通常の仕様を無視して私を作り変えたのだ。

 武具が拒むのは当然だ。なぜなら私は、そのすべてを超越した『自分自身が最強の武器』なのだから。


 広間には、ランスの嘲笑と、貴族たちのざわめきが続いている。私は心の中で静かに思案を巡らせた。


(私の力が普通じゃないのはわかった……けど今ここでそれを明かしたら……)


 ランスや王の態度、貴族たちの冷たい視線。すでに「聖女召喚は失敗だった」とでも言わんばかりの空気だ。もし今、自分が異常な力を持っていることを明かせば、また『都合のいい駒』にされる可能性が高い。


(それに、私の力がどれくらいのものなのか、まだちゃんと試したわけじゃないし……)


 そう判断した私は、あえて黙ることを選んだ。ただ、ランスの笑い声だけはどうしても癪に障る。


「ハハハハッ! 父上、こいつはただの無能女ですよ! 武具を使えないどころか、聖女でもないかもしれません! 一体どうするおつもりです? そもそも協力的でもないですし、追放してしまうのがよろしいかと」


 ランスが王に向き直り、わざとらしく肩をすくめながら話す。広間全体の視線が再び私に集まり、冷たい雰囲気が肌に刺さる。

 追放!? 勝手に呼び出しといて条件が合わなければ追放とか、どんだけクソなんだ。


「……確かに、力の使えぬ異界の者など置いておく価値もないか」


 王の低い声が広間に響き渡る。周囲の貴族たちが同調するように頷き、「これでは国の未来が危ぶまれる」だの、「魔物の脅威にどう立ち向かうのか」だのと囁き始める。


(どこまでも自分勝手だなぁ……)


 なんか、もうどうでもよくなってきた。

 ツッコミどころ満載のやりとりに私は呆れていた。待遇が良ければ悪くないとは思ったが、どれだけ待遇が良くても同じ職場の人間がこんなヤツらばかりなのであれば、ストレスは溜まるばかりだ。


「勝手に召喚しといて失敗? どんだけ勝手なの」


 私は呆れて吐き捨てるように言うが、王も貴族たちもどこ吹く風。むしろ私の反論に辟易したような顔をしている。


「異界の者よ。もはやこれ以上、余の国にとどまる理由はないだろう。さっさと立ち去るがよい」


 王が冷たく言い放つ。『聖女』という呼び方はいつの間にか消えていた。貴族たちはそれに同調するように頷き、ランスはこれ見よがしに肩をすくめてにやついている。


「……陛下、それはあまりにも……!」


 ウィルズが慌てて何かを言いかけたが、王は一瞥するだけでその声を封じた。


「ウィルズ、余にこれ以上失望させるでない。貴様の召喚の失態がこの結果を招いたのだ。そもそも勇者の器すら無かったというわけか……」


 ウィルズは唇を噛みしめ、うなだれる。その姿を見て少し胸が痛むが、私は大きくため息をつき、肩をすくめた。


「……あっそ。わかった。じゃあ出ていくわ」


 私はあっさりとそう言い放った。大広間全体がざわつき、ランスは呆気に取られた顔で私を見ている。


「ふ…ハハ!! 聖女ではなかったと分かれば今度は開き直ったか!? 異界の者が追放されるなんて聞いたことも無い! どうだ? 今からでも土下座して俺専属の荷物持ち程度ならば──」


 言い終わる前に、私の拳が彼の腹部に炸裂した。

 鈍い衝撃音が大広間に響き渡る。


「ご……ぉお……!」


 ランスの瞳が一瞬見開かれ、そのまま体がくの字に折れる。私の拳が彼の腹にめり込む感触を確かに感じた。ランスはその場に倒れ込み、床に膝をついたまま肩を震わせている。


「こんな国、こっちから願い下げだから」


 そう言い捨て、私はくるりと踵を返して大広間を出た。背中越しに貴族たちのざわめきが聞こえてくるが、もう気にしない。



 ◆ ◆ ◆



 城を出ると、眼前には広がる石畳の街並み。人々が行き交う活気のある城下町だ。

 市場には色とりどりの果物や野菜が並び、屋台の呼び込みの声が飛び交っている。


「ふぅ……」


 さて、これからどうしようか。

 勢いで出てきたはいいけど、金も無ければ家もない。

 だからと言って、あのランスとかいう勇者と働く気にもなれない。あんなやつといたら何をされるか分かったものじゃない。


(それに……)


 先ほどランスを殴った時の感覚。

 あれは勘違いではない。ムカついたのは確かだが、殴りやすかったので実験のつもりで軽く殴ってみた。だが、その一撃は仮にもこの国の勇者と呼ばれる者が膝をついて悶絶するほど効いていたのだ。

 本当に私の『聖女の力』はまさにチート級のものなのだろう。


 考えながら、城下町の喧騒の中を歩き始める。香ばしいパンの匂いや、焼き立ての肉串を売る屋台の呼び声が耳に入るたびに、胃が音を立てて抗議してくる。

 そういえば今日は朝しか食べてない。拓郎をつけていた時はカフェに入ったが、食べるどころではなかった。


「うぅ……」


 しかし、財布はあれど、この世界の通貨なんて持っているはずもない。

 ぼやきながら市場の通りを進んでいると、背後から息を切らす声が聞こえてきた。


「……レイラ!」


 振り返ると、案の定ウィルズが慌てた様子で走ってきていた。ローブを翻し、肩で息をしている。


「……なに?」


 私は少し警戒しつつも、あからさまに迷惑そうな顔をしてみせる。だけど、ウィルズはそれに動じることなく、頭を下げた。


「その……すまない。俺が未熟だったせいで、こんなことになってしまって……」


 あ、そうか。ウィルズも聖女召喚に失敗したと思っているのか。

 しかしランスたちと違って彼だけはずいぶん律儀だな。


「別にいいよ。聖女に認められたとしても、あんな奴らの言いなりにはなりたくなかったし」

「それでも、女性が一人で何も持たずに出歩くのは危険だよ。 召喚したのは俺で、罪悪感だってあるし、よかったら力にならせて欲しい。寝泊まりや食事も必要だろう?」


 その一言で、私の警戒心は一気に薄れる。今まさに空腹に悩まされていた私にとって、彼の提案は非常に魅力的だった。

 正直こんなところに連れてきた彼に対しても若干嫌な気持ちはあったが、奢ってくれるというなら話は別だ。


「えっいいの? ちょうどお腹減ってたんだよね!」


 思わず勢いよく答えると、ウィルズは少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。


「あ、あぁ、じゃあ宿に案内するよ。あ、その前に食事かな?」

「ほんと? 助かる!」


 私は喜んで彼についていくことにした。どうせ金もないし、当面の生活の目処が立つまでお世話になるのも悪くない。



 ◆ ◆ ◆



 数日後


 ウィルズに世話になり始めてから、早くも数日が経った。あの日、彼が提案してくれた宿は清潔で居心地が良く、食事も抜群だった。何より、腹を満たしながらこの世界のことをいろいろ教えてもらえるので、非常に助かっている。

 この世界には元の世界のようなスマホや娯楽も少ないが、ウィルズの魔法研究を手伝ってみたり、たまにチェスのようなボードゲームで遊んでくれたりもするので、今のところ飽きはない。

 ちなみにウィルズは魔術の才能があるからなのか頭が良く、ゲームに関しては一度も勝てたことがない。ムカつく。


「それで、聖女召喚って結局なんなの? 説明足りなさすぎるんだけど」


 朝食の焼きたてパンをかじりながら、今日もウィルズに質問攻めだ。

 ウィルズは苦笑しながらも、持っていた分厚い本をめくり、私に見せた。


「これが聖女召喚の魔術理論。魔法陣や詠唱文、それから過去の聖女についての記録も含まれている。もともとこの国には、強大な魔物が現れる時期に合わせて国が勇者を選び、その勇者がパートナーである異界の聖女を召喚するという伝統があって……」


 彼が指差したページには、複雑な魔法陣と難解そうな文字列がぎっしり詰まっている。読める気がしない。


「へー、つまり、勝手に異世界から引っ張ってきて、国の問題を押し付けるってわけね?」


 皮肉を込めて言うと、ウィルズは気まずそうに目をそらした。


「う…そう言われると返す言葉もない。ただ、本来は召喚される聖女には儀式の段階で神聖な力が与えられ、国からの手厚い支援も約束されるはずだったんだけど。今回は……」


 ウィルズはため息をついて頭を抱える。


「聖女の武具が拒絶反応を示したことで、国王や貴族たちが完全に失望してしまったんだ。俺の未熟さゆえに、レイラを聖女に出来ず、余計な負担を……」

「うーん、まぁ何も変化はないってことはないんだけど……」


 まだ私の聖女としての力は隠したままにしている。

 ウィルズには言ってもいいかもしれないが、下手に言うとまたバカ親子に目をつけられそうで面倒くさそうだし。

 実際、ここ数日で自分がどれだけ規格外なのかを確認する機会が何度かあった。


 リンゴを食べながらウィルズとゲームをする際、挑発されたのにムカつき、手に力を少し入れただけでリンゴが木っ端微塵に弾け飛んだり、ウィルズの研究用の重たい本の山を動かすときに20キロはくだらないくらいの量をひょいと持ち上げてしまったり。


 ウィルズは毎度驚きはしたが「ぐーぜんぐーぜん! 鍛えてるから! あはは!」と適当に誤魔化した。


「っていうか、ウィルズの方だって大丈夫なの? 一応勇者なんだし、こんなところで私に時間使ってないで、使命とかあるんじゃないの?」

「いやいや! ランスはともかく俺が勇者なんてそんな…。ただの形式的な称号みたいなものだよ」

「どういうこと?」

「俺、もともと魔術の研究が好きなだけで、貴族の家柄でもないし、普通に田舎村の出身なんだ。けど、たまたま才能を見込まれて勇者候補に選ばれただけで、正直、勇者としての活動なんてほとんどしてないんだよね……」

「そうなの?」

「今回の聖女召喚の儀式を担当したのも、勇者である立場上仕方なくというか、実際には戦闘経験なんてないし、俺の魔術も戦闘向きじゃないものも多いし…」


 ウィルズは苦笑しながら肩をすくめる。その態度からは、どこか自分に自信がなさそうな雰囲気が伝わってくる。


「ふーん、じゃあ私は『形式上仕方なく』呼び出されたんだ」


 ウィルズはその言葉にハッとして、慌てて手を振った。


「ち、違う! あの時は本気で成功させようと思ってたし、召喚に必要な手順は全部慎重にやったんだ。ただ…結果がこうなってしまったのは、俺の力量不足で……」


 冗談のつもりで言ったのだが、俯きながら弱々しく言うウィルズを見て、少し申し訳なくなった。確かに結果として私は迷惑を被ったけど、彼が悪意を持ってやったわけじゃないのはわかる。


「まぁいいけど。でも、それなら最初からランス一人でやらせれば良かったんじゃないの? あいつ、同じ勇者であるあなたにも容赦しないって感じじゃない」


 私の言葉に、ウィルズは少し困ったように笑みを浮かべた。


「それができたら苦労しないよ……ランスは父親である陛下の強い後ろ盾があるし、俺みたいな田舎者には到底逆らえない相手だし。だからって、彼にすべて任せるのも国の期待を裏切るようで、できるだけ協力しないといけないかなって……」


 ウィルズは視線をテーブルに落とし、弱々しく肩をすくめる。その姿に、なんとも言えないイライラがこみ上げてきた。私だって、昔…というかここに来るまでは人に逆らうことが怖くて、いつも空気を読んでばかりいた。自分を押し殺してでも周りに合わせるのが一番だと思い込んでいた。


 でも、その結果がどうなったかは、身をもって知っている。


「……そんなことで、これからずっとやっていけるわけ?」


 思わず口を突いて出た言葉に、ウィルズが顔を上げた。私の表情を見て、少し驚いたように目を見開いている。


「え……?」

「ウィルズが優しいのはわかるけど、あんたがずっとそんな調子でランスや王様の言いなりになってたら、結局、全部あいつらの都合のいいように使われるだけじゃない。自分でも嫌だってわかってるんでしょ?」


 少し言いすぎたかもしれない。でも、私はあえてそのまま続けた。


「国の期待って言うけど、それであんた自身がボロボロになったら意味ないじゃん。ランスみたいに威張り散らすのが正しいとは思わないけど、自分の意見くらいちゃんと持ちなよ」

「……」


 ウィルズは何かを言いたそうに口を開きかけたが、結局そのまま閉じてしまった。私はため息をつきながら、軽く肩をすくめる。


「まあ、別にあんたの人生だから、好きにすればいいよ。ただ、見てるこっちがもどかしいってだけ」


 そう言うと、ウィルズは少し黙り込み、しばらく考え込むように視線を落とした。


「……レイラは、すごいな」

「ん?」


 突然の言葉に驚いて顔を上げると、ウィルズは苦笑いしながら言った。


「自分の意見をはっきり言えるし、相手が誰だろうと臆せずにぶつかっていける。それが正しいのかどうかは別として、俺にはそんな勇気はないよ」


 その言葉に、少し胸がチクリとした。ウィルズの言う通り、私は最近ようやく自分の意見を言えるようになった。でも、それは拓郎との一件があったからであって、それまではウィルズと同じように周りに合わせるだけだった。


「……別に、すごくなんてない。私だって、前はあんたと同じだったから」

「え?」

「自分を守るために、何も言えなかっただけ。それで結果的に損をしたことも、失ったものもある。でも、それで学んだことが一つあるよ」

「……何を?」

「誰かの期待を気にして自分を犠牲にしても、結局、誰もちゃんと感謝なんてしてくれないってこと」


 その言葉に、ウィルズはまた黙り込んだ。私は残りのパンを一口で食べ終え、椅子に深く座り直した。


「まあ、あんたがどんな道を選ぶかはあんた次第だよ。私がとやかく言う話じゃないしね」

「……うん。ありがとう、レイラ」


 ウィルズは静かにそう言って、小さく微笑んだ。その顔にはまだ迷いが残っているように見えたけれど、少しだけ決意が滲んでいるようにも思えた。

 ま、簡単に変わるワケないか。



 ◆ ◆ ◆



 さらに数日が経った。


 王城の門前には、朝から大勢の人々が集まっていた。


「聖女様がついに降臨されたらしいぞ!」

「魔族の手先がいたなんて驚きだよな」

「やっぱり勇者ランス様は違うわ! 彼こそ真の勇者だ!」


 ざわざわとした声が空気を震わせ、人々は一様に何かを期待しているようだった。


(何だろ……?)


 私は『聖女』だの『ランス』だのという単語に少し嫌な予感をしつうも、人混みをかき分けて前へ進んだ。群衆の中央に見えたのは、見覚えのある金髪碧眼の男──ランス。そして、その隣にいたのは──


 あの日、元恋人の隣で常に勝ち誇った顔をしていた──瑠奈。


「……は?」


 私は目を疑った。瑠奈は光を放つ剣を高々と掲げており、周囲の人々が歓声を上げている。


「ご覧あれ! これが真の聖女、ルナ様である!」


 ランスが声を張り上げ、人々の興奮をさらに煽る。瑠奈は勝ち誇ったように微笑み、剣を振るってみせた。


「皆様。私こそが聖女の武具に選ばれた真の存在であり、この世界を救うべく選ばれた聖女――ルナと申しますわ!!」

「……ルナ?」


 なんか、元の世界ではギャルギャルしてたのに、随分お嬢様みたいな話し方をしている。

 大方聖女だのなんだの囃し立てられて、その気にでもなったのだろうか。

 近づいて眺めていると、ランスが私に気づき、にやりと笑った。


「おお、これはこれは! 偽聖女まで現れたか。良いところに!!」


 ランスのその言葉と同時に、周囲の視線が一斉に私に向けられた。


「偽聖女……?」

「これが偽者なのか!」

「魔族の手先が召喚したという……」


 ざわざわと囁く声が次々に私の耳に飛び込んでくる。ランスは満足そうに腕を組み、声を張り上げた。


「皆の者! 聞け! ついに私は聖女の召喚に成功した! しかし、その前に現れた偽聖女──この女は、魔族の手先によって召喚された存在だったのだ!」


 群衆が驚きとざわめきで応じる。私は拳を握りしめ、怒りを必死に抑え込んだ。


「この女を召喚した魔族の手先、それが……奴だ!」


 ランスが指差した先──そこには、地面に倒れ伏して動かない黒焦げの塊のようなものがあった。近くでよく見れば、それがウィルズだとわかる。彼のローブは所々焦げ、体からは煙が立ち上っている。


「……ウィルズ!」


 思わず叫んで駆け寄ろうとした私を、二人が阻む。ランスは剣先を向けながら薄笑いを浮かべた。


「ちょっと!!」

「おっと、行かせはしない。そいつは魔族の手先であり、お前のような者を偽聖女として召喚した張本人! 私とルナが、その罪深き魔法使いを討ったのだ!」


 ランスの言葉に群衆が歓声を上げ、さらにルナが高々と剣を掲げて煽る。


(なんなんだ……イカれてる……)


「この光輝く聖剣こそが、私が真の聖女である証。偽聖女とその召喚者は、正義によって裁かれるべきですわ!」


 人々が熱狂的な歓声を送る中、ルナがこちらを見て微笑む。その笑みにはかつてのギャルらしい意地の悪さが滲んでいる。

 しかし、その手には確かに『聖女の武具』の一つにあった剣を手にしている。

 ……なるほど、ウィルズが召喚失敗したのを見て、今度はランスが召喚の儀を行なったってワケね……。で、このクソ女が出てきたと。


「あらあら、誰かと思えば元カノさんじゃない。私の前に偽聖女が居たとは聞いてたけど、まさかあなただったなんて! たっくんにも見限られ、聖女としても出来損ないなんて、ホント、何も手に入れられない女っているのね〜!」

「…………拓郎は?」

「あん? 知らないわよ。気付いたらこっちに来てたんだもん。でもま、聖女ってのも悪くないわよね。イケメン勇者様と世界を救うだなんて、なんだかロマンチックだし!」


 きゃぴ! とぶりぶりしたポーズを取るルナ。

 なんなんだろう。人をボロ雑巾にしておきながらこんな態度を取れるとか、コイツには人の心とか無いのだろうか。


「……そう」

「そういうワケだから。私だって殺すとかはちょっと怖いけど〜、この世界ではこれが普通? な感じだし、あなた、この聖剣に触れられもしなかった偽物らしいじゃない。だから悪いけど、殺されてくれない? 私の物語の一ページの為にね☆」


 ルナの言葉に怒りが頂点に達しかけたその時、ランスがさらに追い討ちをかけるように声を上げる。


「そしてこの偽聖女もまた、我らによって断罪してくれよう! 聖剣に選ばれた真の聖女ルナ様と、真の勇者によってな!」


 群衆の歓声がさらに高まる中、私は静かに拳を握りしめた。


(……なんなんだろう、この茶番は)


 ランスもルナも、どこか勝ち誇った表情を浮かべ、私を見下すような態度だ。だが、今ここで私が言葉を重ねても、この熱狂した群衆の前では無意味だろう。


 目の前でルナが聖剣を構え、わざとらしい仕草で挑発してくる。


「あら、どうしたの? 武器も持てない偽聖女さん。もしかしてまた、たっくんの時みたいに殴るつもり? 無駄よ。真の聖女の力の前ではね! 《神の聖盾(ディバインシールド)》!!」


 ルナが聖剣を大きく振りかざすと、瞬間、眩い光が剣から溢れ、透明で淡い金色の光が、ランスとルナを守るように展開される。


「ふふん! これが聖女の力よ! これで偽勇者の魔法攻撃も傷一つ付かなかったんだから! この力を前に、あなたの拳なんて無力だわ! さぁ、殴ってみなさいよ! でも、殴った方が痛いかもね! おっほっほっほ!」


 ルナは高らかに笑い、勝利を確信した表情を浮かべる。シールドの光はまるで私を閉じ込める檻のように輝き、群衆の歓声がさらに大きくなる。

 群衆は彼らの言うことをただ正義と信じており、疑う余地すら無い。

 自分たちがウィルズを勇者に選んでおいて、ずいぶん勝手なものだ。


 ……腐ってる。


 私はただ無言で構え続けた。拳を握りしめ、深く息を吐きながら、冷静に力を込める。


 ふと、ウィルズの方を見る。彼は惨たらしい姿で倒れたままだ。

 痛かっただろうな。私がしっかり聖女の力を言っておけば、彼はこんなことにはならなかったのかもしれない。


 隠しておかなければよかった。なんて考えるのは後の祭りだ。


「本当に、殴っていいのね……?」


 私は低い声で問いかけながら、拳を軽く握りしめた。周囲の空気がピリッと張り詰め、人々の歓声が一瞬止まる。


「殴る!? 聖女の力など本当に持たぬ証拠だなぁっはっはっは! 偽聖女の無様な姿を拝ませてもらおうじゃないか!」


 ランスは嘲笑を浮かべ、剣を肩に担ぎながら声を張り上げる。


「偽聖女の拳など、この聖剣とシールドの前ではただの羽毛に過ぎん! 貴様の末路を群衆に見せつけてやるのだ!」

「……じゃあ、遠慮なく」


 私は静かに呟いた。瞬間、私の体から淡い光がふわりと漂い始める。それはすぐに広がり、眩いオーラとなって周囲を包み込んだ。


 群衆がざわめく中、ランスは「ただのハッタリだ!」と言わんばかりに聖剣を掲げ、ルナは余裕そうな笑みを浮かべる。


 しかし、私の内側に秘めた力が爆発的に膨れ上がるのを、私ははっきりと感じていた。力の流れが全身を駆け巡り、それが拳に集中していく。目には見えない圧力が、私の拳を中心に渦巻いていくのがわかる。


「ふん! あなたの無様な拳なんて、この聖盾の前では──」

「オォオラァアアアアッッ!!!!」


 私は地面を蹴り、拳を引き絞った。そして、ルナとランスから距離を保ったまま、その拳を一気に振り抜く。


 ゴオォォオオオッッ!!!


 音を置き去りにして空気が震える。拳から放たれた衝撃波は、地面をえぐりながら2人に向かって直線的に突き進む。


「え、ちょ…まっ──」


 ルナの声も虚しく《神の聖盾》とやらは一瞬で砕け散り、さらに彼女の手に握られていた聖剣にも衝撃が及ぶ。聖剣が高音を鳴らしながらひび割れ、ついには粉々に砕け散る。


「ひぃぃいいぎゃぁああああああッッ!!!」

「きゃあああああッッ!!!?」


 情けない断末魔と共に、二人は同時に吹き飛ばされ、背後にあった城の外壁に激突した。石造りの壁が崩れ落ち、瓦礫が彼らの上に覆いかぶさる。


 ガラガラガラガラ……!!


 静寂が訪れる。群衆は誰もが言葉を失い、ただ崩れた城壁と立ち尽くす私を交互に見ている。


「……」


 私は拳を軽く振り下ろし、溜まっていた力を抜くように深く息を吐いた。さっきまで自分を嘲笑っていた連中が、今はただ沈黙するばかりだ。


 ランスたちが埋もれている瓦礫の山に、一歩遅れて慌てて兵士たちが走り出す。私は一瞥をくれただけで足を止めず、ウィルズの元へと向かった。

 彼は地面に横たわり、煙を上げるボロボロのローブ姿のまま微動だにしない。その顔は血の気を失い、見るからに危険な状態だった。


(どれだけ酷い攻撃を受けたら、こんなに……)


 膝をつき、そっと彼の胸に触れる。微かに脈を感じた瞬間、胸が詰まる思いがした。

 まだ助けられる──そう確信した私は、聖女としての力を呼び覚ました。


「お願い……」


 目を閉じると、私の体から再び光が溢れ出し、空中にいくつもの魔法陣が幾重にも浮かび上がる。柔らかで神々しい光が周囲を包み込み、眩いばかりの輝きがウィルズの体を優しく覆っていく。


 その光景を見ていた群衆が息を呑む。


「美しい……」

「これが、本当の聖女の力……」


 ざわついていた群衆の声は次第に崇敬の囁きへと変わっていった。私の力に見とれているのか、それともこれまでの茶番を反省しているのか、誰も彼もが動けずにいる。

 すぐに手のひらを返すな。コイツら。


 ウィルズの傷はみるみるうちに癒えていく。焦げたローブの下から露わになった肌が再生し、浅黒い痣や擦り傷が跡形もなく消えていった。聖なる光がやがて収まり、静寂が訪れる中でウィルズの顔に安らかな表情が戻る。


「……ふぅ」


 私は光が完全に消えるのを確認し、ウィルズの呼吸を確かめる。彼の胸が規則正しく上下しているのを見て、ようやく肩の力を抜いた。


「ウィルズ……?」

「……うっ……」


 つぶやくように言うと、ウィルズの目がかすかに動いたが、痛みに耐え続けていた疲労のせいか、再び深い眠りに落ちた。


「ゆっくり休んで」


 私はそっと彼の髪を整え、立ち上がった。


 群衆が再びざわつき始める。誰かが口を開いた。


「本当の聖女は……この方だったのか?」

「しかし、ランス様は……」

「偽聖女なんて……なんてことを……」


 私は群衆を見渡し、深く息を吸った。


「私は勇者ウィルズに召喚された聖女レイラ!! 聖女の武具は使えない。けど、魔族の手先なんかじゃないから!」


 拳を軽く握りしめ、周囲を見回す。これ以上言葉を重ねる必要はない。人々が目にした力そのものが、何よりも雄弁に私の真実を語っている。


「私に武器なんてものは必要ない。武器は女の子らしく、『拳』のみッッ!!」


 群衆の反応は、予想していた盛り上がりとは少し違っていた。驚きと困惑が入り混じったような表情でぽかんとする人々が多数。その中で、ようやく一部の者が拍手を始めたが、まだまだまばらな感じだった。


(ありゃ……かっこつけすぎたかな?)


 ルナが堂々とした態度で振る舞っていたから、そのつもりでやったけど、なんだか自分が浮いている気がしてきた。ふと、心の中にじわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。


「そ、そういうワケだから」


 一拍置いて、私は少し声を張り上げた。


「ウィルズにはもう二度と手を出さないで。彼は彼で勇者としていずれこの国で成果をあげてくれるんだから!」


 言い終わると、私はそっぽを向いて立ち去ろうとする。すると、崩れた城壁の瓦礫の山の中から、誰かの泣き声が聞こえた。


「痛い!! 痛いよぉおおっ!!」

「くっ……おい、もっと丁寧に運べ!!」


 瓦礫に埋もれてもがくランスとルナを、城の兵士たちが慌てて救助しているのが目に入る。どうやら命に別状はないらしい。普通の人間だったら即死かと思ったけど、聖女と勇者ってのは本当に頑丈にできているらしい。痛がる姿を見ても、同情する気にはなれない。


「……はん!」


 寧ろ、二人に向かって中指を思い切り立ててやった。

 「あのポーズは?」「さぁ……」と周りから声がする。ふっ、知らないんなら私はノーダメよ。


 私はウィルズがまだ眠る群衆の中心を抜け、静かにその場を後にした。自分がここにいることで厄介なことになるのは明白だし、何よりもうこの場所にはいたくない。



 ◆ ◆ ◆



 この数日で、ウィルズが私にくれた荷物をまとめ、街の門を出た。私の力が規格外であることはわかっている。だが、それを持っていても、この世界での「立場」がどうなるかまではわからない。


(もう、好きに生きていこう)


 肩に背負った荷物を揺らしながら、私は城下町を後にした。

 しかし、しばらく歩いたところで、後ろから誰かが息を切らせて追いかけてくる音が聞こえてきた。


「待って、レイラ!!」


 振り返ると、案の定、ウィルズがこちらに向かって全速力で走ってくる。

 彼の顔には必死さがにじみ出ていた。


「……何やってんの?」

「俺も……連れて行ってくれ!」


 彼は肩で息をしながら、真剣な目で私を見つめた。


「連れてけって、別に目的があるわけでもないんだけど」

「いや、俺は君に救われた。それに、自分がどれだけ勇者として未熟なのかよくわかった。単に俺はランスに利用されてるだけで、言いたいことも言えないままで……民衆の視線を恐れて……」

「…………」


 まぁ、わからなくもない。

 私も実際そうだったし、元の世界では拓郎に利用されて、用がなくなればポイっと見捨てられた。

 だからこそ、これからは後悔しないように生きていくつもりだし。


「 勇者の使命とかはどうするのよ? 国を守るんじゃなかったの?」


 すると、ウィルズはきっぱりと言い切った。


「今はどうでもいい!」

「どうでもいいんかい……」


 私は思わず唖然とした顔になる。あの真面目そうなウィルズが、使命とか期待とかをほっぽり出して、こんなことを言うなんて。


「君に救われたんだ。だから俺は、レイラについていきたい。それがどんな道でも、どこに行くことになっても、君の力になりたいんだ!……だって俺は、助けてくれた時、君に心を奪われたから!!」

「……………!!」


 コイツ、なんの恥ずかしげもなく言ってきやがる。

 言われる方が恥ずかしいくらいだ。

 思わず顔が赤くなる。


 なんかでも聖女に救われた男は聖女に惚れるとか設定あったな。

 でも拳で城壁破壊する女のどこに惚れる要素あるんだ。


「いやいやいや感謝されるだけならともかく、惚れたの!? 私に!?」

「あぁ、勇者……いや、男として、この命、君に捧げたい」


 ウィルズが私の前に跪き、恍惚とした表情で見上げてくる。


 なんだそれ。恥っずい!!! 命とか重いし!!!

 いやでも……確かにそんなクソ真面目な顔で言われると意識しちゃう…けど。


「ごめん、たしかにあんたはカッコいいし、魔術もすごいんだろうけど、今の私には男として見れないっていうか……」


 私も今の気持ちを正直に言った。しょうがないじゃん。だって、こんな規格外な力を持っちゃった今、誰かに頼るって感覚が薄れてきてるし、ウィルズもなんか無防備だし、どちらかというと弟って感じだし。


「そっか……」


 彼が落ち込んでるのを見て、ちょっとだけ罪悪感が湧いたけど、ここで曖昧にすると後々面倒なことになりそうだから、私は肩をすくめて言った。


「でも、ついてきたいなら勝手にすれば? 別に止めないから」

「いいのか!?」


 ウィルズは途端に顔を明るくさせた。


「わかった! 恋人がダメなら、舎弟でもなんでも!」

「舎弟って……あんたね……」


 私は思わず吹き出しそうになったけど、必死にこらえた。ウィルズが真剣な顔で言ってるから余計に面白い。いや、舎弟って何よ。勇者が自分から舎弟志望とか聞いたことないんだけど。


「……いいけどさ、舎弟って普通、もっとこう……上下関係ガッチリしてるもんじゃないの?」

「それでも構わない! 何でも言ってくれ! 雑用でも荷物持ちでも」


 私は溜め息をつきながらも、なんだかウィルズのその必死さが面白くて仕方がなかった。こんな真剣に「舎弟にしてください!」とか言われたことなんてないし、この世界は惚れたらみんなこんな感じなんだろうか。


「もう、好きにすれば。あんたがそうしたいなら」

「! ありがとうレイラ! いや、姉さん!」

「姉さんって……」


 まぁ、悪い気はしないか。

 私は少しだけ口元を緩めながら、ウィルズと一緒に歩き出した。


(舎弟か……こんな勇者、聞いたことないけど、まぁいっか)


 こうして聖女レイラと、舎弟勇者ウィルズの奇妙な旅は始まった。

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― 新着の感想 ―
とても面白かったです。 もしかして長編小説の導入部なのでしょうか? だとしたら楽しみです。
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