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輝く彼女と星間飛行(スタートラベル)  作者: 鋼我
創団トラブルメモリー
56/60

アマテラス、輝く

『もう少しだ。ガラス玉も、トカゲも。諸共皆死ねばいい』


 能面のようだった表情を崩し、暗く笑う。そんな時、艦橋がやおら騒がしくなった。幾人かが走り回り、やがて従者が彼の横に立った。


「ご報告します。近衛艦隊と光輝同盟籍の軍艦が一隻、星系外縁部にジャンプアウトしました」

「……光輝同盟籍の軍艦? それも一隻とは。どういうことだ?」

「申し訳ありません。まだ情報が……」


 従者がそこまで告げた時、集まった艦隊にいる全てのヒトの意識にその言葉は届いた。


『反乱軍の皆さんこんにちは。私は光輝宝珠のアキラ。イグニシオン王から貴方たちの鎮圧を依頼されてやってきました』

「これ、は……あの時の女!?」


 ジュリアンの衝撃は大きかった。今の今まで、自分が交渉した相手は外見が良いだけの職員だと思っていたのだ。


「本当に、頂点種だったのか!? あんな密談に本人が出てくるなど、部下は何やってたんだ!」


 驚きもあり、自分の事を棚に上げて素直に驚く。そんな彼を、アキラが見つける。


『あ、いた。こんにちはジュリアン王子。このあいだはどうも。今回は私が頂点種だって信じてくれますか?』

「ふ、ふざけるな……」

『え?』

「ここは! イグニシオンだぞ!? ドラゴンの縄張りだ! なぜ光輝宝珠が入ってこれる!? ドラゴンはどうした!」

『それはね、王様が一番偉いドラゴンに許可を取ったからだよ?』

「ふざけるなぁぁぁぁぁ!?」


 思わず絶叫する。王との会話で、彼の中のドラゴンのイメージは『自分たちを支配する横暴な怪物』となっていた。だというのに、自分を排除するためにそんな柔軟な行動をとって見せる。そこまでして自分を排除したいのか、という考えが不快感とともに爆発する。


『うわあ、偏見がすごい。高度な学習環境が柔軟な思考を生むとは限らない、という具体例だなあ』

「煩い! 貴様ごときに何故そんなことを言われねばならん! 失せるがいいガラス玉!」

『種族の身体的特徴を罵倒にしてはいけないってのは、基本的なマナーだと思うんだけど』

「貴様にその対応をする必要はないという事……ぐぅ!?」


 突如ジュリアンを、いや彼だけでなく艦隊のすべての人員に身体的苦痛が襲った。骨が折れている。身体に穴が開いている。治療を受けたばかりの傷が痛い。熱がある。吐き気がある。強力な治療薬の反動で全身がきしむ。


『今感じている痛みは、私の兵士達のもの。貴方が攻撃してこなければ、こんな怪我は負わなかった。この苦しみを貴方たちに味合わせるからって、あえて痛み止めを我慢してもらったの。もちろん、本人の意思と体調を優先させたけど。気分はどうかな?』


 言葉を返すことができなかった。ジュリアンは高度な身体強化が施されている。必要となれば体の機能で痛みを消すことができる。そのシステムを起動させても、痛みが消えない。当然だ。痛いのは王子の身体ではなく、誰ともわからぬ末端兵士のそれなのだから。


『でも、痛いですんでいる兵士たちはまだましなの。命を落とした兵士達もいる。せっかく訓練を頑張って、これから成功を得ようとしていたヒトたちだったのに。それが、貴方たちによって台無しにされた。そろそろ分かってもらえると思うんだけど、私、怒ってるんだ』

「ロングシャウトを起動させろ! 今すぐにだ!」


 王子の必死の叫びに、兵士達が動き出す。もちろん彼らも彼方からの痛みに苦しんでいたが、精鋭だけあって苦痛への訓練を済ませてある。故に、覇権国家が数百年をかけて研究させた成果を軌道にこぎつけられた。


「バイオブレイン、覚醒、よしっ」

「じ、人工サイコパルス……発生、かくにん」

「サイ・ブースター、エネルギー伝達……完了っ!」

「ロングシャウト、起動準備完了ですっ!」


 兵士たちの叫びに応えるべく、王子も吠えた。


「アンチテレパシーシステム・ロングシャウト! 起動!」


 見えない波動が、旗艦より放たれた。それが艦体全てに広がると、身体に届いていた幻の痛みは大部分が消え去った。わずかに不快感があるが、先ほどと比べれば天と地の差だった。


 艦橋のみならず、多くの兵士が歓声を上げる。ジュリアンもまた大きく息を吐いた。従者が彼の汗をぬぐう。


「光輝同盟と戦うということで、万が一に備えて手に入れた国家機密。まさかここで使用することになるとは。そして、見事な性能ですな」

「うむ。我が方の科学者もやるものだ。事が済めばこの結果を伝えてやるとよいだろう。実地試験などできなかったであろうし……少々強引に供出させたしな」


 部隊を送り込んだあげく銃を突き付けて奪ってきたという事実を彼は過少に表現した。王子にとっては些細な事だからだ。


「巨大戦艦より、通信が入っています!」

「つなげ。負け惜しみを聞いてやろうではないか」


 映し出されたのは広々とした艦橋。宇宙船にとって、広さは力と金額の証。己の艦が明らかに負けているのを理解し、王子は心の中で舌打ちする。


 映像の中で、彼の知る姿とは幾分か幼いアキラが笑顔で語る。圧のある、敵対者への笑みだった。


『すごいね。人工的に念話テレパシーを妨害する手段を確立したんだ。流石は覇権国家イグニシオン。光輝同盟が知ったら大騒ぎになると思う』

「ずいぶん余裕だな。やせ我慢はよくないぞ? 貴様ら光輝宝珠が我らヒトに絶対的な優位に立てているのは、精神への干渉能力があるからだ。思考を読めず、攪乱もできん。そんな貴様が、我らを鎮圧する? ここから一体どうするつもりだ?」

『それはもちろん、この戦艦アマテラスを使って』

「はっ! 寝言をほざくな。少々大きい程度の戦艦一隻で、一体何ができるというのだ」

『それじゃあ、私の傭兵団の凄さを見てもらおうかな。覚悟してね』


 アキラは通信を切らせると、敵への念話を終わらせた。代わりにただ意識を伝えるそれを医務室に送る。痛みに耐える兵士達へ。


『みんなー、ご苦労様ー。連中にたっぷり、痛みを伝えたよー! ありがとうね!』

『艦長すげぇ! イケ好かねえエリートざまあみろ!』

『ひ、ひひ。この痛みを連中も味わったとか最高だぜ』

『仲間の仇だ! もっと苦しませたかったぜ』


 協力してくれた兵士たちが思念で歓声を上げる。全員、本来ならば喉から出るのは呻きだけというレベルの怪我人たちである。それなのに、今回の作戦に協力してくれた。彼らの苦痛を味合わせたいというのは、ほかならぬアキラの思いだった。


『これから連中をボッコボコにするから、みんなは痛み止め使ってゆっくり休んでね。結果は治ってから教えるから楽しみにしてて』

『がんばってください、艦長!』

『ぶちかましてくだせえ!』

『一生ついていきますアキラ様ぁ!』


 兵士達の治療をカメリアに伝えると、アキラは意識を艦橋へと戻した。


「近衛艦隊に連絡。これより作戦を開始する」


 アキラの指示に従い、通信士が作業する。それを見届けてから、アキラは残りの指示を飛ばす。


「艦内放送。これより戦艦アマテラスは戦闘機動を開始する。各員、所定の位置で慣性に備えよ」


 艦内に、カメリアによる放送が鳴り響く。こういった事態に対する訓練は何度か行われていたが、完熟したとは言い難い。案の定、いくつかの部署に遅れが出る。カメリアはそちらにドローンを送り、数の力で対処する。


 機器トラブル、混乱、知識不足、予想外の事故に怪我。諸々の事態を解決するには若干の時間を要した。カメリアと、充足した物量があったからこそこの時間で片付いた。そうでなければ発進に数時間を要しただろう。


 ともあれ、すべての準備は整った。各部署の報告を聞いた艦長は、いよいよもって号令を下す。


「シュテイン大尉」

「はい、艦長」


 操舵席に座るシュテイン・アンカー8・グリーン大尉は落ち着いて答える。アキラも、静かに伝える。


「れっつ、へびめた」

「アイアイサー、キャプテン!」


 胸ポケットより、挑戦的な多目的ゴーグルを取り出す。刺激的なサウンドが流れ出し、シュテインは鮫のように笑った。


「機関長! 全推進器、スタート!」

「了解。コアルームよりエネルギー伝達。全推進器、起動開始」


 修復、あるいは入れ替えられ新品同様となったアマテラスの推進器。巨大な艦体を動かすに相応しい、ビルのごとき大きさのそれ。メイン二つ、サブ四つ。噴射口に光が灯る。


 ミリアム副長も、艦のシステムを戦闘へと動かしていく。


「艦底シールドユニット、シールド・ラム、稼働正常。砲雷長、飛行長、報告を」

「全砲門、ミサイル、迎撃システム準備よし。空間振動砲ブランクインパクトキャノンを除き、すべて問題なしです」

「戦闘機、護衛船、共に準備よし。パイロットは機体に搭乗済です」

「よろしい。艦長、いつでもいけます」

跳躍機関ジャンプユニット起動。目標、敵艦隊前方五千Km。跳躍完了と共に全速前進!」

「アイアイサーイエッサァ!」


 跳躍機関だけでなく、あらゆるシステムがアキラよりエネルギーを受け取って稼働する。都市が一日かけて消費するような量を、瞬く間に消費していく。それに見合うだけの力を、アマテラスは得ていた。


 座標計算が終了し、機関長が秒読みを進める。そして時が来る。


「3、2、1、跳躍」


 浮遊感、一瞬の意識の断絶。移動が完了すれば、敵艦隊は目の前。居並ぶ覇権国家の大艦隊を前に、シュテインは鮫のように笑う。


 アキラが吠える。


「戦艦アマテラス、発進!」


 推進器の出力操作レバーが、最大まで押し上げられる。コンデンサーから送られたパワーが、艦体を推し進める力に変換される。噴射口から、光が放たれる。吹き出し、のびる。それは止まらず、長く長く伸びた。まるで彗星の尾のように。


 巨大な戦艦が進む。数の差は馬鹿馬鹿しいまでに歴然。しかし誰も臆することがない。当たり前の事だ。この艦の長はアキラなのだから。


「まもなく、敵射程圏内」


 船務長が報告する。彼我の距離、敵のレーダー出力、技術レベル4艦船の性能。それらを勘案しての情報である。ミリアム副長は頷き、新たな装備の作動を命じた。


「シールド・ラム、起動」


 アマテラスの船首より伸びた、槍のような形状の棒にエネルギーが送られる。システムが起動し、アマテラスの前方に新たに二枚のシールドが形成されていく。


 現状の技術では、複数のシールドを張る事はできない。シールド同士が干渉して消滅してしまうからだ。ならば、干渉しない位置にシールド発生装置を置けばいい。極めてシンプルな答えによって生み出されたのがこのシールド・ラムである。


 ラムの先端と中ほど、二か所に機器を内蔵しておりそれぞれ強固なシールドを発生させることが可能。船の防御力を飛躍的に向上してくれる。このように画期的な装備であるが、ほとんどの艦船が装備していない。理由はいくつかある。


 まず、消費エネルギー問題だ。シールドが必要とするエネルギーは、その強度と範囲によって増大する。通常に装備されているそれも、相応に要求してくる。それに加えてシールド・ラムへエネルギーを回せる艦船は少ない。


 次に、その質量が問題となる。船から離さなければならない関係上、ある程度の長さを要求される。それに耐えられるだけの船体が無ければ装備できない。最低でも、フレーム製の大型船。あるいは巡洋艦レベル。実用ならばやはり戦艦クラスが必要である。


 他にも単純に製造やメンテナンス、維持費の問題がある。そしてこれらをクリアーして無事に装備しても、無敵の船になれるわけではない。残念ながら、いくつかの制限があるのだ。


 一つ目は、シールドの範囲だ。棒の中に仕込めるような大きさの装置では、船体を覆いつくすことはできない。その範囲は前方方面に限定的に発生させる程度だ。二段重ねの盾、と表現してもよい。前方には大変強固な守りとなるが、側面および背面への防御力はない。


 二つ目は、稼働時間である。機械を稼働させれば熱が出る。熱が溜まれば作動不良を起こす。宇宙世界であっても、こればかりは変わらない。故に放熱や冷却のための機器がある。シールドラムにもそれは搭載されている。棒部分のほとんどがそれだ。


 しかしそれでも、発生するすべての熱を問題なく逃がし切れるわけではない。技術テックレベル4の砲撃を想定しているのだから仕方がない。なので、長時間の使用は不可能だ。タイミングを見計らって起動する必要がある。


 そして三つ目。衝角ラムと謳っているが、そのように使用できるだけの強度がない。より正確に説明するならば、戦艦の大質量とその加速によって発生する運動エネルギーの負荷にラムが耐えられないのだ。普通にもげる。


 アマテラスにとって、この三つの問題点はシールド・ラムを導入しない理由にはならなかった。まず、エネルギーについては言わずもがな。アキラが乗っている限り、これを気にする必要はない。


 二つ目については、それこそ使用タイミングを計るだけでいい。修理しアップグレードしたアマテラスのシールドは強固だ。加えてアキラの念動力サイコキネシスもある。リミットがあっても問題はない。


 そして三つ目の問題点。敵に突貫しない限り気にしなくてもよい(ただしシュテイン大尉にはハンス副長補佐が釘を刺した)。


 かくして、戦闘態勢が整った。総勢二十二万の敵艦隊へむけて、アマテラスは単艦で突き進んでいく。それを侮るものはいない。つい先ほど、念話による広範囲攻撃を仕掛けてきた相手だ。ここで油断するのは健忘症の疑いがある。


 彼我の距離は驚くほど速く狭まっていく。アマテラスが、巨体に見合わぬ加速力を備えているためだ。もはや、流星か砲弾かと思うほど。


「敵との距離、砲撃戦可能位置まであと五分」


 船務長の報告に、ミリアム副長はアキラを見る。船長の無言の頷きを確認し、彼女が指示を飛ばす。


「砲雷長。主砲群、稼働開始。目標、敵艦隊」

「了解。主砲群オンライン。エネルギー伝達、開始します」


 アマテラス甲板上部には、多数の砲塔が並んでいる。その数は、十や二十というレベルではない。それらが一斉に稼働し、狙いを定めていく。


 攻撃はミリアムが担当する。足回りの補佐はハンスの役割だ。


「機関長。慣性制御機関ベクトルコントローラーと集中冷却室は、いつでも全力稼働できるようにしてください」

「準備完了、いつでもどうぞ」

「砲撃戦可能位置まであと三分!」

「船務長、残り一分からカウントダウン開始。ゼロになり次第、全力砲撃を始めます。よろしいですね、艦長」

「うん。それでお願いね、ミリアム副長」


 やがて、その時が訪れる。進むカウントダウン。さらに消費されていくエネルギー。敵も味方も、固唾を飲んでその時を待つ。


「5、4、3、2、1!」

「砲撃、開始ー!」


 かくて、決戦の火ぶたは切られた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 研究させた成果を軌道にこぎつけられた。 起動させる事ができた。 アキラは意識を環境へと戻した 艦橋 館内放送。 艦内 あったからこそこの時間 あったからこそ、この時間 まぁ、アホボンもドラ…
[良い点] ヒャッハー、新鮮な生贄だぜー!! [一言] シールドラムは本来こう使う!(こういう使い方もある!) あると思います(棒 あ、ニンジン要らないよ!
[良い点] 「れっつ、へびめた」は笑うしかない。アべンジャーズ一作目最終決戦でキャップがハルクに「暴れろ」と言うみたいな。 [気になる点] シールドラム、今章内では無くても先々で絶対に衝角として使うし…
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