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輝く彼女と星間飛行(スタートラベル)  作者: 鋼我
第一章 星の世界へ
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諸行無常

 ラヴェジャーの軍事衛星は、混乱の最中にあった。まず、通信システムが不調に見舞われた。その対処に追われていると、警備部門が監視映像の不調があると騒ぎだす。メンテナンスのできる奴隷とドローンに調査させてみると、どちらもプログラムの改ざんがされていた。これらはフェアリーの妨害工作なのだが、この時点のラヴェジャーは知る由もない。


 これへの対応を始めた矢先、貴重品を収めた保管庫が襲撃される。対応部署はもとより、基地司令すら気色ばむ事態だった。保管庫は、基地の奥深くにある。この基地を手に入れてから十数年、他組織の船が接近した事はない。誰かが侵入するなど、ありえないのだ。


 となれば、反乱という事になる。だがそれもおかしな話だった。この基地は、二つの勢力で成り立っている。あの巨大船を確保した『基地派』と、おこぼれを預かるために寄ってきた『船団派』である。そして、反乱を起こすなら非主流である船団派なのだが、これらは主力のほとんどを率いて物資調達に赴いている。


 大量の物資と人員を抱えた基地に、船無しで反乱を起こして勝てるはずもない。そこまでの愚か者はトゥルーマン(ラヴェジャー)にいるはずもない。あまりにも不可解な事件だった。


 即応して到達したチームは全滅。保管庫からは数々の貴重品が失われた。彼らにとって最も大事な物である調査記録だけでなく、銀行船から奪った高額クレジットや高級パーツがごっそりと持ち出されていた。


 それに加えて、よりにもよって秘宝中の秘宝であるレリックまで消失していたのだ。到底許容できない損失だった。彼らの権力の象徴の一つであり、大事な釣り餌でもあった。あれらを所持しているだけで、様々な仕事がやりやすくなった。失う事は、絶対に許されない。


 基地司令は、緊急事態を宣言。全ての人員に、強奪犯の調査を命じた。すると見つかる、基地内のあちこちに仕掛けられたトラップの数々。それの解除もまた手間取り、調査が進まない。


 さらに、今まで放置していた部屋に明らかな使用の跡が残っていたのも発覚。組織的犯行であることが見えてきて、警戒度を上げた所に追加の凶報が飛び込んでくる。


 巨大船に、襲撃者が現れたというのだ。これには、基地司令も青くなった。


「全戦力を船へ向かわせろ! あの船のコアルームには、一歩たりとも近づけるな!」


 彼が血相を変えるのには相応の理由がある。現在の基地派の栄光は、あの船の発見から始まっている。かつて彼らはトゥルーマンのグループの中で、何処にでもいる小グループだった。


 当てのない探索行の最中、偶然見つけたのがかの巨大船。広範囲の破壊の痕跡があり、それを調査した結果宇宙を漂う船を見つけたのだ。大きなエネルギー反応を検知できたのも大きかった。


 実際不可思議な船だった。エネルギー反応はあるが、接近するこちらに対するリアクションがない。試しに通信を試みても無反応。接近してのドッキングも容易にできてしまった。


 内部には、破損したドローンが大量に転がっていた。戦闘の痕跡も存在した。この船に一体何があったのか。


 しばしの探索の後に、船の由来は分かった。この船は、頂点種ハイランダー光輝宝珠こうきほうじゅの所有船だったのだ。輝ける巨大な多面体。自在に宙を舞い、空間跳躍もいかなる補助なく軽々こなす。既知知性体が束になっても勝てぬ頂点の一つ。


 かの頂点種は、比較的穏やかでコミュニケーションが取りやすい存在でと記録されている。奉仕の栄誉を賜る種族がおり、色々な仲立ちをしているという話もある。


 しかし、それらはトゥルーマンにとっては些末事。大事なのは、光輝宝珠がとてつもないエネルギー生産力を保持しているという点だ。


 銀河の既知知性体のあらゆる組織が作るエネルギージェネレータが、足元にも及ばない生産量。光輝宝珠に奉仕する種族は、下賜されるエネルギーの売買だけで覇権国家の一つに列席していると言われるほどなのだ(かの国が覇権国家とされる要因は他にもあるが割愛する)。


 わずかにでも残っていれば儲けもの。そのつもりで探索を進めた彼らは、驚くべきものを発見する。船の中心部近くに山のごとく、しかし無造作に積み上げられた輝くたくさんの鉱石。検知したエネルギー反応の正体はこれだった。


 大国が生産するコルベット艦と同じ価値があるとされるエネルギーの凝縮体、明力結晶めいりょくけっしょう。光輝宝珠しか作ることができぬとされぬ物質。あらゆる組織が研究開発しても到達できない、最高品質のバッテリー。


 探してはいた。しかしまさか、このようにぞんざいに放置されているとはトゥルーマンたちも思わなかった。


 思わぬ発見に沸き立つ一同。しかし、それ以上の驚きが彼らを襲った。コアルームを調べた結果、事もあろうに光輝宝珠そのものが封印されていたのだ。頂点種の自由を奪うなど、可能なのだろうか? 情報収集を至上とする種の本能が、トゥルーマン達を調査に駆り立てた。


 数日にわたる不眠不休の努力の成果が実った。暴乱細胞レイジセル、いやこの場合は暴乱城塞レイジフォートレスと呼ぶべきか。船内に残ったログを調べた結果、頂点種同士の争いに敗北したという記録を発見した。


 不意の遭遇。クルーの練度不足。内部への進入。防衛戦の敗北。コアルームへ進入されて封印。一連の記録を調べ終えて、トゥルーマンの知的好奇心は満足した。次は物欲である。


 大量の明力結晶があった理由。それは封印された光輝宝珠から抽出されたものだった。エネルギーを枯渇させて動けなくしているのだ。金の元が、無限に湧いて出てくる。これを利用しない手はない。


 それからの彼らの躍進は、種族の歴史に乗せるべきものだった(と、本人たちは思っている)。明力結晶をちらつかせるだけで、下等種族はいくらでも物資を用意した。光輝宝珠のエネルギーは、大国であっても喉から手が出るほど欲しいもの。秘密裡に接触してくる勢力はいくらでもあった。それらはすぐに船や物資を送り付けてきた。


 いくつかの明力結晶と一緒にそれらの物資を上位グループに納め、トゥルーマンを生み出すマザーユニットを譲り受けた。これによって、彼らは種族の中で一つの勢力として躍進していく。


 その後も、無重力空間で物を押すように物事が運んだ。下等種族はエネルギー欲しさに貢物をしてくる(相手側としてはご機嫌取りのための前払いだった)。拠点として使える軍事基地の位置情報さえ、簡単に聞き出せた。


 物資はどんどん増え、かつては自分たち以上だったグループも傘下に加わっていった。後に『船団派』などという第二勢力を作られたのは正直予想外だったが。


 しかしそれは些細な事。圧倒的なアドバンテージを巨大船は基地派に与えていた。何もかもが思うがまま、望むがままだった。……永遠の栄華を約束する巨大船に、何かがあっては取り返しがつかない。増長が極まって茹り切っていた基地派の脳が、液体窒素をかけられたかのように一気に冷えた。巨大船を失えば、破滅なのだ。


 基地司令すらも含む、あらゆる人員を動員して巨大船に向かった。途中で、トラップに引っかかったが構わなかった。船を失う事に比べれば、許容すべき損害だった。


 そうして犠牲を払ってまで巨大船に向かったが、彼らの努力は報われなかった。


(お前らなんか、大っ嫌いっ!)


 脳を殴りつけられるかのような衝撃を、基地で生きるすべての知性体が感じ取った。きわめて強力な精神感応テレパシー。これが実は力を押さえたもので、その気になれば全員の精神を崩壊させることもできた。そうしなかったのは、瀕死の状態だったカイトに配慮したから。


 唐突な精神感応に基地派は驚くが、それ以上の事態がすぐに起きた。巨大船が、浮いたのだ。推進装置は停止したまま。重力制御装置の起動音すら聞こえてこない。物理法則による動きではない。であれば、超能力に他ならない。


 光輝宝珠こうきほうじゅの超常なる力の一端だった。これほどまでに巨大な船を、能力一つで自在に動かせる。頂点種という呼び名は伊達ではない。しかしそれに感銘を受けるどころか、絶望を感じるのが基地派だった。


「や、やめろー! 行くな! 持って行くな! 我らの、私の宝が、栄光がー!?」


 基地司令が、悲嘆の声を上げて天に手を伸ばす。窓の外に見える巨大船は、どんどんその姿を小さくしていく。多くのトゥルーマンが、それを絶望のまなざしで見送るしかなかった。奴隷たちは、無感情に見送っていた。


 そして、ひときわ強い輝きが放たれた。あらゆる機械類が一斉に火花を散らした。照明が落ちて、非常灯が代わりを果たす。


「な、なんだ!? 何が起きた!?」

「推測でしかありませんが、頂点種による攻撃かと。機械類が破損した事から、電磁パルスのような何かかと。ご覧ください」


 側近の指さす先には、泡を吹く奴隷たちの姿。特に症状がひどいのは、身体に機械を埋め込まれた者達だった。なるほど、と納得する基地司令。


「……この基地にはその手のシールドが装備されていたはずだが?」

「妨害工作でダウンしておりました。建物自体にもある程度の対策は施されていますが、万全でなかったのはご覧の通りです」

「ええい、欠陥基地を掴まされたか! 下等種族どもめ、覚えておれよ! ……兎も角、頂点種を追わねばな。我らの船を準備せよ」


 基地司令は、即座に行動を開始した。絶望に浸る時間はなかったし、まだ彼なりに希望はあった。


「はい。ですが、あの様子では頂点種の封印は解除されているかと。いかがなされるおつもりで?」

「あの船は、まともに航行できる状態ではない。内部システムも最低限しか整備していないしな。捕まえて内部に入れば、再封印も不可能では……」

「報告! マザーユニットが……ッ!」


 不測の事態に対して、毅然と動き出していた矢先。さらなる凶報が飛び込んでくる。頂点種の置き土産は、彼らの最も神聖な装置にダメージを与えていた。基地の動力や生命維持系すら停止に追い込んだのだ。それが無事でいられるはずもない。


 追撃は中止された。マザーユニットの復旧が最優先事項となった。合わせて、基地の復旧にも着手する。停止した生命維持系については、彼らの船から供給することで賄った。基地全体にはとても行きわたらない為、多くの区画を封鎖した。


 奴隷の多くが、先の攻撃で使い物にならなくなった。これらの廃棄によって、多くの復旧作業に遅延が生じた。


 時間は瞬く間に過ぎ去っていく。マザーユニットは直らない。基地復旧も亀の歩み。巨大船の追跡も成果がない。一度は復調した基地司令の精神は、巨星の重力に捕まった隕石のようにじわじわと絶望へ落ちていく。


 すべてが失われる。再び、小勢力へ転落する。場合によってはそれ以下の可能性もある。とんでもない、そんなことは耐えられない。何故、私がこのような目に。


 一日に何時間も、そんな思考の袋小路に入ることが増えた。しかし、それにも終わりが来た。


「報告します! 船団派が、帰還します!」


 報告を受けた基地司令は、端末を操作した。大画面に、多数の船が接近する姿が確認できた。そして、その中に小さいながらも異形の姿を確認する。彼らの、いや船団派がもつ唯一のレリックの姿を。


 基地司令の目は、ただそれだけを強く見続けていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 種族の歴史に乗せるべきものだった(と、本人たちは思っている)。 (笑) [気になる点] 無重力空間で物を押すように物事が運んだ。 支持点や推進剤がないと難しいと思うけど… [一言] ヒロイ…
[一言] 死にそうになりながら「下等生物が!」とか言う生物が上等な生物であった試しがないとおもわれる。
[一言] 光輝宝珠は天地無用の皇家の木みたいなイメージですかね? 無責任艦長と天地無用もSFだと思います。
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