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輝く彼女と星間飛行(スタートラベル)  作者: 鋼我
創団トラブルメモリー
43/60

訓練兵十人十色

 戦艦アマテラスが光輝同盟に帰還して三ヶ月。兵士の募兵所と訓練所はローブン4の都市ダルサンガに若干のトラブルはあったものの完成した。これには無論、ノース・ラインズ社の協力があってこそのことだった。


 業務提携が締結してから、アントニー・ブラックバーンは社をあげてアキラ達を支援した。もちろんそれは、仕事の受注という形で利益に繋がる。それが社を潤したが、当然反動もあった。


 予想通り他企業から契約を切られることになり、多くの非難を浴びた。対応部署を新設し、クレーム対応能力を強化した。過酷な仕事となっているため、担当職員のメンタルケアは厚くしている。もちろん、休みと給料も。


 新兵募兵については、大々的に宣伝を行った。素材はカメリアが持ち込んだ映像記録。完成当時のアマテラスの画像、軍服姿のアキラ、兵器、パワードスーツ、居並ぶ兵士等など。華々しく、輝かしく。この街この星で得られぬ希望と栄光を手にしよう。そのような宣伝が街中に流れた。


 疑うものは多かったが、それでも乗るものもまた多かった。アキラ達との業務提携によって明るい話題が入ってきてはいたものの、ノース・ラインズ社はいまだ他と比べれば小さな企業。会社の受け皿に対して、都市に住む人々の数は多すぎた。


 このままでは、犯罪者になるか安月給で使い潰されるだけ。傭兵家業に夢を見る若者は少なくなかった。


 新兵調査には、汎コーズ星間共同国から出向させられた諜報員が早速役に立った。一人一人念入りに素性を調べ他企業、他国の紐付きは排除される。そうして残った千名が、訓練兵として採用された。最初から陸戦隊の要求する三千名を満たすことは出来ない。訓練所側も開いて間もないのだ。仕事に慣れる必要がある。


 かくして、訓練開始から二ヶ月。様々なトラブルはあったが、訓練兵たちは厳しくも充実した日々を送っている。


 その中に、偽名を使い身分を偽ったカイトも居た。訓練兵テツオ。出身は辺境星域アウタースペース。サバイバル中にアキラ達に拾われた。そういう簡単な経歴だ。出身がそういう場所だから世間知らずである、という形で通している。


 カイトが所属しているのは、訓練兵でも特別枠とされている部隊。チームメイトは皆、自前でサイボーグ手術を受けていた者達だ。そういった者を生身の者と混ぜて訓練させるのには問題がある。能力に格差があっては集団行動は難しい。故に一つにまとめたわけである。


 サイボーグの部隊は総員100名弱。全員、戦闘用に身体を機械に置き換えた者達だ。その程度は個人によって差がある。パーツ性能、質、メーカー、全く統一されていない。だからカイトもその中で浮くことなく混ざれている。


 カイトの外観も、この部隊に合わせて変更してある。まず、長かった髪はバッサリと短くした。顔は防弾用フェイスプレートで隠してある。皮膚装甲を入れてゴツゴツした体つきにしてあるが、これはもちろん暴乱細胞レイジセルによる偽装だ。骨格や筋肉も強化されているようにカモフラージュしてあり、専門の機械で調査しない限り典型的な戦闘用サイボーグにしか見えなかった。


 これは彼の正体を隠すのと同時に、身を守るための手段でもあった。なにせ、アマテラスにいた頃のように堂々と暴乱細胞は使えない。レリックが手を伸ばせる位置にあると他組織が知ったとあれば、過激な行動を取るに違いないからだ。


 さりとて、何も持たないというわけにもいかない。彼の身体は黒い機械細胞と光源水晶こうげんすいしょうによって保たれている。その補助なくしては、半日ともたないのだ。結果、このようにサイボーグに偽装するという事になった。ボックスのあだ名になった背中の箱には輝くレリックが入っている。わざと大きくしてあるのは、いざという時の予備の機械細胞をストックするため。


 とはいえ、いろいろと不便ではある。


「背中が邪魔だぞ、ボックス野郎」


 訓練を終えての夕食時。後ろを通った訓練兵に、動力箱を叩かれる。背負う形になったそれに衝撃を与えられると、どうしても身体の芯へ衝撃が入る。


 そのきついショックに耐えつつ後ろを見やれば、ニヤニヤと五名ほどの訓練兵が笑っていた。同じ地元出身らしいとどこかで聞いた。こういった小グループがあちこちで出来ている。惑星の外からきたカイトは浮いていた。


「そうだと思って、わざわざ外側に座っているのに何で近づいてくるかな」

「はっ。なんだその言い草は? お前は黙って出て行けば……」

「黙るのはてめえらだ、ザコども」


 カイトの隣に座っていた青年が立ち上がる。彼もまたサイボーグ。ハンマーチームのリーダー、ロバートだった。極めて剣呑な空気を醸し出しながら、訓練兵たちを睨みつける。男たちを一歩下がらせるのに、十分すぎる気迫だった。


「お? 喧嘩か? メシ食ってる最中なんだけどなあ」


 などと言いつつ席を立つのは、ロバートよりもさらに一回り大きい大男アイゼン。チームでの呼び名はハンマー3。ちなみに、ロバートより一歳若い。


 二人の戦闘用サイボーグに睨みつけられては、数の多い訓練兵も顔を引きつらせる。彼らもまた、それなりの強化をしているが二人よりは生身に近い。同じ訓練兵であるが、戦闘力に圧倒的な差があった。


「お、おいロバート。そんなよそ者をかばうってのか? 同じ街出身だってのに?」

「何が同じ街、だ。お前らはクリーン、こっちはジャンクだ。お前らがお行儀よく人生送ってた頃、俺が何してたか教えてやろうか?」

「ハイスクールでキャアキャア言われてなかったのは間違いねえよな、あっはっは」

「ギャングをギャアギャア言わせてたな」


 訓練兵たちは分が悪いと悟り、周囲を見渡す。いつの間にやら囲みができていたが、その視線は様々だ。楽しみ、嘲り、侮蔑、嫌気。色々あるが、それらが双方に向けられている。しかし一つはっきりしているのは、積極的に訓練兵に味方しようとする者はいないという事。


 舌打ち一つして、より積極的に動く。近くのテーブルで食事していたサイボーグ兵、ネイルチームへ。


「おい、あんたらもクリーン出身だろ!? こいつらに身の程を教えてやってくれよ」


 声をかけられたネイル1は、心底嫌そうに鼻に皺を寄せた。


「こっちを巻き込まないでくれ。あと、クリーンというがな。あんたらはスーツ、こっちはワーカーだ。同じじゃないってのは、あんたらがよーく知っているだろう?」


 田舎扱いされるダルサンガであっても格差はある。ノース・ラインズ社が置かれる都市中枢は美しく見栄えの良い街並みをしている。それ以外の部分、商品生産や資源の処理を行う部分はどうしても汚れる。


 収入やサービスにも違いがあり、住民たちはそれぞれクリーンとジャンクと呼び表している。そしてネイル1の発言通り、クリーンの中にも上下がある。エリートは背広を着てオフィスで仕事を。それ以外は作業服を着て現場で作業をしている。やはりそこにも差というものがあり、このように隔意を生んでいる。


「お前ら、そんな態度でいいと思っているのか! 街に戻ったら……」

「戻ったら、なんだ? ん?」


 虎に似た獣人が騒ぐ訓練兵の目の前に、ぬっと現れた。彼らをのけぞらせるのには十分な迫力だ。加えて、彼の腕には憲兵であることを示す腕章がしっかり巻かれていた。


「食事時に、変な騒ぎを起こして良いと誰に教わったのかな? ん?」

「な、なんでもない! 騒ぎでもない! おい、行くぞ!」


 足早に、騒ぎの大本たちがその場から離れていく。虎憲兵はふん、と鼻を鳴らすと集まっている者達に散るよう手で促した。彼はジョウの下で働いていた陸戦隊の一人である。なのでカイトを見て軽く頷いて見せる。彼もまたそれに同じように返した。


「ったーく、あのエリート面した連中は面倒くさい事この上ねーな」


 アイゼンはうんざりとそういって席に戻る。そして少々冷めてしまった料理の攻略を再開する。ロバートもまた苛立ちが残ったまま口を開く。


「ノース・ラインズの面子の為に送り込まれてきた連中だろ? あいつら、俺らたちより上になるって信じ切ってやがる。……ボックス、お前なんか知ってるか?」

「えー……? 少なくとも、あいつらを特別扱いするって話は出てないよ?」


 食事を終えていたカイトは、お茶を飲みながら答える。訓練兵には解放されていない内部ネットワークに質問を投げかけるが、返って来た答えはNOだった。


 そんな話をしているのが耳に入ったのか、他のサイボーグチームも寄ってくる。ネイル1が呆れぶりを隠さずにぼやく。


「企業の名声が、こっちでも通じると思ってやがるんだよ。自分たちは上に立って当然だってな。はっ。だったら何でおれたちと訓練してんだよって話だ」

「実際、俺たちは出世とかあるのか?」


 核心を突く質問をロバートが放つ。サイボーグだけでなく、近場の訓練兵の意識がカイトへと向けられていた。


 顔が少々引きつる。


「……何でおれに聞くの」

「お前が宇宙組だからだよ! えらい人から色々聞いてんだろ! な?」


 大柄なアイゼンに詰められて、大きくため息をつく。


「まず言っとくけど。これは、みんながアクセスできる情報に普通に乗ってるからね? で、出世はできるよ。訓練兵を卒業して、技術試験を受けて資格とって。昇級試験通れば上がるから」

「そういうおためごかしじゃねえ。上の意向を聞いてんだよ」


 ロバートの目は真剣だった。どれだけ制度が整えられていても、上位者にその気がなければ一生下っ端のまま。ダルサンガはそういう環境だったのだ。


 上かあ、とカイトは仲間内の会話を思い出し返答する。


「そういうのなら……とりあえず、下士官はなるべく早く揃えたいって言ってたよ。現場でチームを率いれる人は絶対必要で、数が足りてないってさ。みっ……俺たちは一期生だから、後から入ってくる人よりなれる可能性は高いね」


 みんな、と言いかけたがすんでの所で言い直し、答えきる。おお、とざわめきが起きた。これは彼らにとって大きな関心事だった。しかし調べるすべがなかった。上についてコネのある人間など、訓練兵にはいない。宇宙からやってきた、カイト以外は。


 その本人は信用できるのか。皆が注意深く観察していた。訓練兵たちに比べて浮いてしまうほどの真面目さと勤務態度。そして上官たちとの気安いやり取りを見て、やっとこの質問をするに相応しいと目星をつけられたのだ。


 喜色を浮かべる者たちが多い中、ロバートの視線は鋭いままだった。


「……だがよ、ボックス。俺は疑問なんだ。こんな訓練所を作って兵士を育てる手間をかける理由は何だ? 宇宙は広い。優秀な兵士なんて山ほどいるだろう。そいつらを雇わない理由は?」

「その人たちがどこかの勢力と繋がっているから」


 淀むことなくはっきりと答える。驚きの視線が集まる中、カイトは冷静に伝えていく。


「頂点種はすごい力がある。権力もお金もたくさん集まる。だからお近づきになりたい国も企業も一杯だ。そういう連中に繋がっている兵士じゃあ、いざという時に頼れない。アキラ……艦長は、自分の傭兵団のために戦ってくれる兵士が欲しいんだよ」

「……なるほど」


 瞑目し、たった今聞いた情報を吟味する。ロバートは戦闘用のサイバーウェアを入れている通り、荒事で生計を立ててきた。舐められたら食い物にされる。利益のために騙される。それが彼とサイボーグ部隊の常識だった。


 働きは評価されるらしい。そうであるならば、雇用主は信用できる相手かどうか。極めて重要な点だった。ネイル1がおずおずと聞いてくる。


「なら、さ。お偉いさんは、俺たちを使い捨てにするかな? 利益と俺たち、天秤に乗っけてどっちを取る?」


 カイトは一瞬、呆れを覚えた。しかし、それが彼らの常識なのだと思い返す。二か月一緒に暮らしてきた。それなりに文化に触れているのだ。


 椅子から立ち上がると、カイトは周囲全員を指さしてなぞった。


「使い捨てになんてしない。なぜならば、皆にはすごくコストがかかっているから! 兵士を一人前にするまで、ずっと飯を食わせる! 寝る所に、服も! 娯楽室もあるし、休日は酒だって飲ませてる! 全部、アキラ艦長の、財布から出てるんだぞ!」

「「「うっ!」」」


 一同、呻く。心当たりがありすぎる。虫もゴミを食う小動物もいない、清潔な部屋。衣服は洗濯がされ、破損すれば交換してもらえる。食事は食べ放題。休日はそこそこ飲ませてもらえる。騒げる場所もある。ここが天国であると、改めて思いだしたのだ。


「はっきり言う。ここの建設にも、維持にも、めっちゃ金がかかっている! 君らを使い捨て? 冗談じゃない。働いて稼いでもらわなきゃ、大損じゃないか! 覚悟しておけよ、死なない程度に酷使されるからな!」

「お、おう……おおう」


 アイゼンが天を仰いだ。大体の兵士も、似たような反応だった。違う反応を示したのは、ロバートだった。彼は笑っていた。喉と身体を震わせていた。


「クックック……そりゃあ、そうだな。ああ、そうだ。今の俺たちはごく潰しか。こりゃあいけねえ、なさけねえ。仕事を片付けてクライアントを満足させなきゃ、傭兵としての名が落ちるぜ」

「あ、ああ……そうだな。そりゃあ、よくねえ。街に残ってるオフクロにケツを叩かれちまうぜ」

「分かってもらえたようで何より。はい、それじゃあ解散。メシ食って風呂はいって明日に備えてどうぞ」


 手を振って、集まった訓練兵を追い払う。三々五々と散っていく皆を見送って、カイトは席に戻った。すっかり冷えたお茶でのどを潤す。なんだかんだ、喋って渇いていたのだ。


「しかしまあ、俺たちのチームメイトは当たりだったようだな?」


 そんなカイトに、ロバートは意味ありげな視線を投げてくる。


「なにさ?」

「誤魔化すなよ。さっきの物言い、まるでクライアントみたいだったじゃないか。お前、よっぽど上と仲がいいみたいだな?」


 仮面のようなフェイスプレートをつけていてなお、カイトが顔をしかめたのが伝わった。ロバートは楽しげに笑って見せる。


 どう誤魔化そうか。と考えて、思い返す。訓練所に素性を隠して入り込む時、事前にレクチャーされていたのだ。下手に隠そうとすると、余計にバレる。一番大事なカイトの立場以外は、本当のことをしゃべってしまえと。


「はあ……。まあ、その。艦長とはよく話させてもらったよ。サバイバルしてた頃は、みんなが全力を尽くさなくちゃいけなくて。艦長、気さくな人だしな」


 とはいえ、オブラートに包むところもある。楽しさと勢いで突っ走る天真爛漫娘な辺りは、流石に語れない。士気にかかわる。実際に会えばバレると思うが。


 それを聞いて、サイボーグはますますご機嫌になった。


「そいつは何よりだ。せいぜい、俺たちのことよろしく伝えておいてくれ」

「わかった。たっぷり酷使するようにいっておくよ」

「おいおい、勘弁してくれよ! お前も巻き込まれるんだぞ?」


 アイゼンが悲鳴を上げるが、からからと笑って見せる。


「俺はとっくに覚悟決めてるからね。みんなも頑張ろうね」

「マジかよ……ロバート、なんとかいってくれよ」

「つまり、待遇は自分で勝ち取れって事だな」


 なにやら、やる気のエンジンにスイッチがはいったらしくロバートは気炎を上げる。相棒であるアイゼンは大げさに天を仰ぐ。カイトは楽しく眺めていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 将来有望ですね
[良い点] いいチームメイトですねえ
[一言] あたらがよーく知っているだろう? あんたら 避けにバレる。 余計に 今のカイトの姿を想像してみて浮かんだのはアシモだった。
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