虫災の中で輝いて
シュテイン大尉は、不調を抱えた巨大戦艦の操舵を見事にこなしていた。カメリアの調整もあるが、本人の感性と努力の成果だった。今も、アキラが引いたルートに沿って巨大戦艦を航行させている。
ここまで、宇宙空間は静かだった。視認はできないが、すぐそばに凶悪な頂点種の巣があるなどとは思えないほどに。このまま何事もなく移動できればいいと、すべての乗員たちが思っていた。
しかしそうはいかないだろうと理解していたから、アラートが鳴っても驚くことはしなかった。
「後方、複数の跳躍を確認。船影も……データに照合あり。っ! これは、ラヴェジャーの船です!」
『想定していた中で、最悪のパターンが来ましたね』
レーダーをチェックしていたクルーの報告に、カメリアは淡々と告げる。ミリアム副長もまた、予定していた行動をよどみなく行う。
「作戦中止。ただちにこの宙域から離脱します。撤退プランAに移行。跳躍機関に動力伝達開始。目標座標の設定、急いで……」
「敵船団発砲! コース無視で突っ込んできます!」
「シールド出力を後方に集中! 跳躍まで耐えてください」
惑星食らいが飛び出てくるであろうと予測できる今、作戦に固執しても意味はない。被害を抑えるために離脱作業に入る。
「ラヴェジャーに告げる。こちら戦艦アマテラス。現在我々は、惑星食らいのテリトリーにいる。戦闘は頂点種を呼び寄せる。至急攻撃を停止せよ」
『ならば即座に降伏せよ! 我々にすべてを明け渡せ!』
「やはり、ラヴェジャーは話にならない……」
無駄な事だと分かっていたが、それでもと呼びかけてみた。案の定な返答にミリアムはめまいを覚えた。
「跳躍が可能になるまで、距離を取ります。推進器、出力最大」
「了解、出力最大。テリトリーから離れます」
シュテインが舵を切り、ラヴェジャーと縄張りから離れようとする。速度が足りない分は、アキラのパワーを借りる。滑るように宇宙を進むアマテラス。追いすがる敵の攻撃は苛烈となる。
『止まれ! 死ね! 寄こせ!』
「ラヴェジャーとの通信を切りなさい」
何の情報も得られない相手との会話など不要である。ミリアム副長は改めて状況を把握する。ともあれ、縄張りからラヴェジャーを引き離せれば危険は去る。
「艦長。跳躍終了後、ラヴェジャーを撃滅します。よろしいですね?」
「うん。私も頑張るよ」
何をしでかすか分からぬ連中など、処分するに限る。逆に、ほかの者達ならば遊覧飛行作戦は再開可能だ。この機会に倒せるのであれば、プラスと考える事さえできた。
ラヴェジャー艦からの攻撃は苛烈だが、アマテラスのシールドは健在だ。ダウンする前に跳躍できる。まだリカバリーは可能。副長と主計長はそう判断した。
いくらラヴェジャーでも、自殺確定のバカはしない。そう信じていた。
「う、ん? あれ? 今なにか、変なのが……」
『いかがなさいましたか、艦長』
「えっと。私でも、惑星食らいでもない何かが、ラヴェジャー艦隊に……」
「艦隊に動きあり! ……は? こいつ何やって……」
「報告は正確にしなさい!」
ミリアムの叱咤に、担当者は悲鳴のように告げる。
「船団から、偵察機が発進しました! 目標は、惑星食らいのテリトリーです!」
「なんですって!?」
その偵察機は、矢のように飛び去った。ラヴェジャーは止めない。そもそも何が起きているのか把握していない。アキラも止められない。ここで能力を使ったら、惑星食らいを呼び込むことになる。アマテラスに砲撃能力はない。カイトも甲板には居ない。つまり、どうしようもなかった。
次の瞬間、この宙域にいるすべての知的生命体にその声は届いた。
『Gyrrrrrrrrrrrrrrrrッ!』
甲高い、ガラスをかきむしるような咆哮。多くのものが顔をゆがめる。異質な精神による念話。多くものが耐えられず不快感に吐き気を覚える。例外はスケさんカクさんの二人だけだった。
「……あ、新たな船影……船影? アンノウンの出現を確認。跳躍の痕跡はありません。空間跳躍です! 複数……いえ、多数!」
「跳躍、間に合いません!」
「総員、衝撃に備えて! 来るよ!」
レーダーに、点が現れる。それが増える。瞬く間に、数多く。レーダーの反応が画面を埋め尽くす。それは虫だった。群れだった。大軍だった。宇宙を自由に飛び回る、虫の群れ。それがひと固まりとなって襲い掛かってくる。
アキラが、側面に向けて念動力で障壁を作り上げる。いままで、いかなる攻撃も防いできた強固な防壁。それに、土石流のごとく惑星食らいが体当たりしてくる。
「ううううううううっ!」
画面に、宇宙を埋め尽くすかと思うほどの虫の群れが映し出される。障壁にぶつかる虫が、仲間と壁に挟まって潰れていく。一匹や二匹ではない。数百単位でそれが起きている。だというのに、数が全く減らない。濁流は勢いを弱めることなく、巨艦を飲み込もうとする。
耐えるのに、アキラの力が必要な暴威。それに守られない者の末路は決まっていた。
「何だこれは! どうしてこうなる! 逃げろ! 撃ち落せ!」
大型輸送船の艦長席で、船団長は狼狽えていた。完璧なトゥルーマンはミスをしない。こんな事が起きるはずがないと。実際、確かに彼はミスをしていない。抜け駆けし、ベストなタイミングで強襲を仕掛けた。自組織の利益のために、間違った行動はとっていなかった。
彼の間違いはただ一つ。ラヴェジャーという存在に生まれてしまった事。使い捨ての操り人形である彼らに、自由などないのだから。
シールドが消滅する。惑星食らいが船体に取り付き、手あたり次第噛みつき始める。ブリッジの外壁にも取り付く。強靭な顎が、強化ガラスを食い破る。
「私は、私は! 間違ってなぁぁぁい!」
真空の宇宙に吸い出された船団長は、ほどなく惑星食らいのエサとなった。
「ラヴェジャー艦隊、壊滅! 惑星食らい、全てこちらに向かってきます!」
「跳躍機関のチャージは……間に合いませんね。撤退プランをBに移行します。チャージ中止。エネルギーはシールドに回してください」
撤退プランAは損害を受ける前に安全圏へ逃げる計画。それが叶わないと判断された場合のプランB。惑星食らいに打撃を与え、撤退できるルートを確保するための計画。
「シュテイン大尉、それではお願いします」
「了解。艦内に、対ショック体勢を指示してください」
『こちらブリッジ。これより、アマテラスは戦闘機動を開始します。総員、対ショック体勢を取ってください。繰り返します……』
アナウンスが流れる中、シュテインは懐から私物を取り出した。それは、ベンジャミンに依頼して作ってもらった多機能デバイス。その見た目はサングラスに似ていたが、デザインが尖っていた。
まるで路地裏のチンピラがかけるような、挑発的な姿。彼には似合わぬと思いきや、それを身に着けたシュテインの雰囲気が一変する。多機能サングラスから、情熱的なサウンドが流れ出す。
カイトが聞けばこう思っただろう。何でこの人、いきなりヘビメタ聞きだしたの? と。
「ヘビィメタルは絶望への特効薬……さあ、ぶん回すぞ!」
シュティンは鮫のように笑うと、操縦桿を限界までひねった。船体が、回転しだす。さながら、鰐が噛みついた敵の肉を引きちぎるように横回転。
「え、は? わわわっ!?」
ついていけないアキラが、障壁の位置を変更しようとするが操舵手が止める。
「艦長、障壁そのまま! 回してぶん殴る!」
「うえぇぇぇぇ!?」
アキラは初めて、頂点種である己の性能を呪った。感情は混乱しているが、理性はそれをわかってしまった。船体の動きに連動させて、障壁を加速させる。その運動エネルギーを、まとわりつく虫たちに叩きつける。
ごっそりと、虫が掃き散らされる。箒で力いっぱい吹き飛ばしたように。もちろん、こんな乱暴なやり方をすれば惑星食らいは船体まで到達する。まだ突破はされないが、シールドに負荷がかかる。
しかし操舵手は獰猛に笑う。
「艦長! コアルームから拡散ビーム! 切り刻め!」
「うわぁぁん! シュテイン君が無茶ぶりするよう!」
「根性見せろ頂点種!」
障壁を張ったまま光線攻撃までしろという。それでなくてもアマテラスに動力供給しているのに。いまだかつてないマルチタスクに目が回るが、それでもアキラは頑張った。確かに、ここが根性を見せる時だからだ。
コアルームの上部が開き、アキラの本体が顔を出す。細やかな光線が宇宙へ放たれる。狙いは定めない。そんな余裕はない。そしてそれで十分だった。何せ虫は周囲を埋め尽くすほどにいる。
撃てば当たるし、船体はいまだ回転を続けている。ミキサーに放り込まれた野菜のように、惑星食らいが切り刻まれ行く。わずかな時間の間に、数千の虫が宇宙ゴミとなった。
「こ、これは一体……」
「ああ。やっぱりこうなった。一体どこであのサングラス調達したんだ大尉は……」
あまりのあり様に目を白黒させるミリアム副長。その隣でハンス副長補佐が深々とため息をついた。
「あの、副長補佐? シュティン大尉のあの変わりようはいったい」
「うちの大尉、追い込まれるとブチギレるんですよ。しかもただブチギレるんじゃなくて、テンションで操舵の腕があがるとかいう面白スペックもってるんです。学生の頃は、大企業のドラ息子共相手にボートレースで一位もぎ取ったり。あの年で艦長で大尉になったのだって、戦闘で大暴れした結果ですからね」
「……なにか、特別な訓練でも?」
「本人曰くニッチジャンルの音楽が好きな軍人一族の息子なだけ、だそうですよ」
それであんな能力を得られれば苦労はない、と改造を受けた少女は呆れた目線を操縦席に送った。当の本人はそれに気づかず、絶好調で仕事をこなす。
「副長! キレ散らかした虫共が群がって来たぞ! そろそろどうだ!」
「え、あ、はい! 艦長、レーザー攻撃中止です。短距離空間跳躍の準備を。主計長、特殊機雷投射準備!」
「はーい! ああ忙しい!」
『特殊機雷、準備よし。いつでもどうぞ』
プランBの骨子ともいえる攻撃の瞬間、新しい報告が飛び込む。
「跳躍反応! 照合データあり! いままで追ってきた連中です!」
「艦長! そっちに飛べますか!」
「いけるよー!」
「特殊機雷投射! 短距離空間跳躍、実行!」
一瞬の違和感。それが消えた後には、外の景色は一変していた。巨艦を覆いつくす虫の群れは消え去り、代わりにいくつもの艦船が近くにあった。シュテインは艦の回転を止め、アキラは一息つく。
「船団との回線を開きます」
『い、いきなりこんなに近くに現れて通話などいったい……』
次の瞬間、漆黒の宇宙に恒星が生まれた。もちろん、実際のそれとは比べ物にならぬほど小さいが、その熱量と威力は近しいものだった。
『な、なあ!?』
「ニスラ伯爵家私兵艦隊、聞こえますか? こちらは戦艦アマテラス。副長のミリアムです」
『ミリアム上級兵だと!? 何故生きている!』
画面越しに見る、怨敵アンテロに怒りがこみ上げる。しかしミリアムは己の役職を忘れていない。なんとかそれを押し込み、話を続ける。
「頂点種様に助けていただきました。さて、現状は見ての通り。惑星食らいの襲撃を受けています。これに対抗するために、我々は特殊な機雷を用意しました」
『特殊な機雷、とは?』
通信に新たな人物が現れる。ギラッド合一連邦の軍服を着た男。気分的にはそちらと話をする方がはるかに楽だった。
「明力結晶を燃料とした、プラズマ機雷です。おそらく、既知宇宙であれ以上の威力をもつ機雷はないでしょう。値段もおそらく最上です」
『なんと、もったいない! 売ってくれ!』
蛇の獣人が吠えるが、ミリアムは取り合わない。そんな時間の余裕はない。
「我々も、数多くそろえることは時間的な都合でできませんでした。なので効率的に使用する必要があります。惑星食らいを限界まで引き付けて、頂点種様の空間跳躍で撤退。その場に群がった虫を焼き尽くす。その第一回目がアレです」
さしもの惑星食らいも、恒星は食べられない。先ほどまでアマテラスの周囲にいた者共は、まとめて焼却された。
「安全に撤退できるまで、我々はこれを繰り返します。頂点種様は貴方たちに二つの道を示します。ひとつ、アマテラスの周囲に密集し砲台となって戦う。二つ、我々に頼らず自由に戦う。一分だけ待ちます。返答がない場合は後者とみなします」
事前の準備中、船団をどのように対応するかで意見が分かれた。無視するか、助けるか。特に後者には大きく反対意見がでた。他ならぬ、ミリアムがその一人だった。間違ってもアンテロや私兵団を信じることなどできない。
しかし、アマテラスには火力が足りないという事実がある。船団を利用できるなら使おう。相手側も、頂点種に襲われるという切羽詰まった状態なら乗ってくるはずだ。対価として、こちらの防御力を貸し出す。連中にとっては喉から手が出るほど欲しい条件。
こちら側にメリットがある。あちら側を完全に守り切ることは不可能。どうせ潰れるならば、自分たちの利益に使うのが賢い。そんな意見もでれば、ミリアムも反対の矛を収めねばならない。
とはいえ、やはり理性と感情は別物だ。
『ま、まて! 我々に盾になれというのか!?』
どうしても、アンテロに対する敵意は押さえられない。声に怒りがにじむが、仕事を放棄することはない。
「砲台になれと言いました。防御は頂点種様がなされます。十分に引き付けきるまで、耐えなければならないのです。さあどちら? あと30秒」
『私の部隊はそちらに参加する。一番生き延びられる確率が高い』
蛇獣人が真っ先に参加を示す。軍人がその後に続く。
『我らも参加する。その後の事は生き延びてからだ』
『……い、いいだろう。ただし、必ず守れよ! 何かあったらただじゃ済まさんからな!』
いよいよもってミリアムの堪忍に限界が来た。罵倒がのどに詰まり、何も言えなくなる。彼女が感情のまま叫ぶより、ハンスの方が早く動いた。
「艦長、ニスラ伯爵家私兵艦隊は不参加だそうです。次の跳躍には入れなくていいですよ」
『ま、まて! 参加すると言っているだろう! わ、わかった! 言うことをきくから!』
情けなく懇願するアンテロの姿を見るが、今だミリアムの頭には血が上ったままだった。それもまた、ハンスがフォローする。
「副長。艦の指揮をおねがいします。連中の対応は自分がしますから」
「……よろしくお願いします」
「はっは! ハンス、君がいつもそうなら女性にモテるだろうに!」
二人のやり取りを、テンションの高いシュテインが混ぜっ返す。
「煩いですよ大尉! 自分は婚約者がいるからって!」
「今回の事で心配かけたから、プレゼント持って行かないといけないんだが何がいいだろうな!?」
「知ったこっちゃないですよ仕事してくださいよ!」
二人の間柄が知れるやり取りに可笑しくなり、やっとミリアムは冷静さを取り戻す。そしてその間にカメリアが船団に指示を飛ばす。どの船がどの位置に付けばいいか、その詳細なデータを送り付けた。
つまりこれは相手側の戦力を把握しているという証左であり、アンテロたちは肝を冷やしたが些細な事だった。
『惑星食らい、空間跳躍数増加。船団は移動を急いでください。第二ウェーブまで、時間がありません』
「ほ、砲台が増えたから少しは楽に……」
「寝ぼけた事おっしゃる! 艦長、守る相手が増えた分、より忙しくなりますよ! フィーバータイムだ!」
「うわぁぁぁん! ハンス君、なんとかして!」
「だから反対したんですよ、うちの大尉をその席に乗せるのは。俺も通った道なんで頑張ってください艦長」
「ハンス! 船団の中でシールドの薄い船をピックアップしておけ! どうせ直ぐにピンチになるからな!」
「アイアイサーイエッサ」
第二ウェーブがはじまったのは、それから少々経った後だった。船団の配置はギリギリ間に合った。各船に、カメリアからのサポートが入る。システムに侵入されているのだが、今は文句を言っている暇がない。
「各船、砲撃準備。3、2、1、砲撃開始!」
ミリアムの号令と共に、戦闘が始まった。アマテラスと船団に、惑星食らいが四方八方から群がってくる。そこに砲撃が突き刺さる。虫たちの障壁は、同サイズの戦闘船が保有するシールドと同じ程度の防御力をもつ。高品質のそれと同じなので厄介ではあるが、破壊できない分厚さではない。
群がっているということは回避に使える空間がほとんどないともいえるので、つまり撃てば当たる。コルベット艦、駆逐艦、巡洋艦の砲撃などは一撃必殺の威力で撃破できている。
「お嬢、バシバシ当たってます! 流石は電子知性のサポートですぜ!」
「ばーか! そんなこと言ってないでどんどん落とせ!」
コルベット艦レッドフレア号のブリッジで、ヴァネッサは半泣きになっていた。現状が恐ろしいというのは確かにある。だがそれ以上に、システムに侵入されているというのが致命傷だった。
この状況に陥ったのは、ヴァネッサの作戦が発端の一つだ。一応外部からは見られないようにプロテクトを施していたが、相手は泣く子も黙る電子知性だ。ヒトからしたら強固なそれも、彼女らから見たらおもちゃだろう。
「ここで活躍しなきゃ、生き延びても明日がない! 畜生、ラヴェジャーが暴走しなきゃもうちょっと……」
「あ、砲撃にロックかかった」
「なんでだよ!?」
「いや、システム様がですね? 砲身が熱ダレ起こしそうだから冷却しろっておっしゃってまして。長丁場だから損耗をおさえるんですって」
「ああああああああっ!」
生き残れるのか。生き残った後どうなるのか。若き艦長ヴァネッサは、不安でどうにかなりそうだった。
多くの者がこの緊急事態に不安を抱いたまま対応していた。そんな感情をよそに、状況そのものは順調に推移していた。船団の砲撃はよく機能している。次々と惑星食らいが撃破される。
その分、アキラの負担は減っている。障壁も、レーザー攻撃も負担はそれほどでもない。本人は口をまっすぐに引き締めて頑張っていたが。
しかし、惑星食らいの数は減らず増える一方だった。攻撃に加われない虫が、十重二十重と船団を包囲していく。限界が来るのは、そう遠くない。機雷の使用タイミングが近づいていた。
『船団の跳躍機関、停止を確認。全体の空間跳躍に支障なし。特殊機雷も、いつでも使えます』
「ハンス副長補佐。船団に通達お願いします。艦長、よろしいですか?」
「な、なんとかー!」
艦長席に座る幻影が、ゆっくり左右に揺れている。限界が近いのか、まだ余裕があるのか。ミリアムには判断つかないが、休憩の為にも第二ウェーブを終わらせようと決断する。
「特殊機雷投射! 空間跳躍!」
再び、景色が切り替わる。しかし、先ほどとは違う点が二つある。一つは周囲に浮かぶ船団の姿。そしてもう一つ。アマテラスに轟音と異常な振動が襲ったのだ。
ブリッジに、警報が鳴り響きレッドランプが灯る。
「報告!」
『艦隊の三か所から破損信号。場所は、船首、船倉、……コアルームです』
『こちらカイト。コアルームに急行する』
誰もが驚き状況を確認しようとする中、最初に動き出したのはレリックマスターだった。カメリアは高速の思考で判断する。何が起きているか情報が出そろってから動くべきではないか。しかしコアルームに万が一があれば、アキラの身が危ないし艦も落ちる。即座の対処が必須。
そこまで考え、制止を取りやめ情報収集に全力を費やす。内部にあるドローンを操作し、破損部分に急がせる。そして、それが見えた。鋼の柱のような三対の脚。装甲のような外骨格。そしてギラギラと輝く複眼を認識した瞬間、カメリアはかつてない電子的不具合を生じた。
同時に、ドローンが破砕される。おそらくは念動力による攻撃。そしてカメリアの不具合は、惑星食らいが彼女を認識したから。たとえ一匹一匹は通常兵器で撃破できても、頂点種と定義されるだけの能力は持ち合わせている。
電子知性は、自らに高いストレスを検知した。それを不具合ごと修正しながら、状況報告する。
『艦内に侵入した惑星食らいを確認』
「そんな馬鹿な! なにがどうして!?」
「わたしの転移に、合わせた? 学習された?」
先ほどまでアマテラスがあった場所に、プラズマの大玉が生まれた。特殊機雷が起爆したのだ。
「カメリア。あの爆発で生き残ったやつをマーキングして。そいつら倒さないと、次の攻撃が失敗する」
『完了しました。残数23。突撃部隊を編成します。第三ウェーブに合流されたら、撃破不可能となりますので』
主の命令を処理するのと並行して、内部に侵入した惑星食らいの対処も行う。コアルーム以外の二か所。船首はフィオレ、船倉は陸戦隊に命令を飛ばす。
『両者の処理はこちらで行います。副長、第三ウェーブの対処をお願いします』
「……了解しました」
不測の事態に顔色を悪くしたが、ミリアムは己を立て直す。私兵時代は、こんな事がよくあった。あのころに比べればどうってことない。なにより、上官が信頼できるだけで天と地の差があった。
「船団に連絡。第三ウェーブに備えて準備を」




