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輝く彼女と星間飛行(スタートラベル)  作者: 鋼我
第一章 星の世界へ
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強襲ドラゴンシェル

 ドラゴンと聞けば、カイトは羽の生えた巨大なトカゲを思い浮かべる。あるいは、角の生えた空飛ぶ巨大な蛇を。ドラゴンシェルは、どちらかといえば前者に似ていた。


 大型推進器を四つも背負った、鋼の赤竜。それが一直線に船に向かってきている。カイトは砲塔を旋回させ、迎え撃った。


「目標捕捉、迎撃開始!」


 こっちくんな、と気合を込めてトリガーを引く。ディスプレイに、連続発射される赤い光の線が表示された。命中したのは最初の数発のみ。即座に転舵して回避行動を取り始める。


「なんだあのえっぐい旋回。あんなに早く曲がって船大丈夫なの?」

慣性制御機関ベクトルコントローラーによるものです。一般的に軍用品とされるそれよりも高性能ですね。エネルギーも相応に使うでしょうが、コンデンサも同等の品質であると仮定すれば……」


 二人の会話中も、ドラゴンシェルは軽快に軌道を変える。移動先が予測できない為、射撃もまた当たらない。曲線というよりは、角度が付いているように見える進路変更。


「……あのように、連続的に方向を変えて見せます。流石は覇権国家ですね」

「UFOは実在した! 嬉しくない!」


 悪態を交えながら、引き金を引き続ける。わずかな間、命中弾のなかった迎撃射撃。それが唐突に当たるようになる。


「よっしゃ! でも、なんか変!」


 カイトも、素人ながら戦場にいる身。相手の動きが変化したことを肌で理解した。それを具体的に説明できる能力がカメリアにはある。


「推測ですが、被弾をある程度許容して接近することを選択したと思われます。さすがのレリックといえども、この船を落とすのは相当の苦労を強いられます。であれば目的を次にシフトするのも当然です」

「次って!?」

「それは……」


 カメリアの発言は、ドラゴンシェルからの砲撃によって遮られた。強烈な荷電粒子が船に向けて放たれる。しかしそれは、射線上に現れた「壁」によって防がれた。一かけらたりとも、船に到達することはなかった。


「出航の妨害。アキラ様の能力を防御に集中させることで、この場に釘付けにすることが狙いでしょう。船団が到着すれば、火力不足は解消されますから」

「それってやばいよね!」

「やや危険です。そして朗報です。基地からの撤退が完了しました。現在点呼による確認中ですが、アキラ様の知覚能力から基地内に知性体の反応はないとの事」

「って事は後はアイツを引っぺがせば、逃げられるってことだけど……」


 カイトは砲塔のステータスを確認する。エネルギー、問題なし。放熱システム、問題なし。設定を変更し、火力を向上させる。レーザーの連射が加速する。ドラゴンシェルへの命中が増える。しかし、推測されるシールド容量はまだ70%以上。本体にダメージはない。


 再び荷電粒子砲が放たれる。アキラの船の装甲は軍用の高品質、直撃を貰っても簡単には貫通されない。通常であれば。相手が覇権国家の保有するレリックで、高出力の砲を持っているため油断はできない。


 それゆえ壁、アキラの念動力が船を守る。火力が足りない、とカイトは唸る。もっと決定的な一発が必要だ。加えて、しっかりと当たる奴が。


「アキラのビームで何とかならない!?」

「わたしもそーしたいんだけど、カメリアがダメだって……」

「なんで!?」

「かのレリックの元の所有者は、覇権国家イグニシオン。頂点種であるドラゴンを奉じる国です。加えて、あれを操縦するのは王族。アキラ様の攻撃では撃破してしまう可能性が高く、それが露見した場合ドラゴンが出撃してくる可能性があります。頂点種同士の戦闘は、星系規模で壊滅的被害を発生させます。何を置いても避けなければなりません」

「この状況でも!?」

「この状況でも、です。覇権国家と頂点種の意思はイコールではありません。たとえ王族が死亡しても、ドラゴンが動かない可能性の方が高いと言えます。事実、ラヴェジャーに誘拐されたままになっていますし。ですが、ドラゴンシェルはレリック。竜に縁深き価値ある物です。これを破壊し、王族を死亡させる。ドラゴンの財産を潰したとあっては、万が一が起こる可能性が高まります。なので穏便に撃退、叶うならばレリックごと救出する必要があります」

「ちくしょう! そんなに大事な人と物だったらさっさと探しに来いよドラゴンと覇権国家!」

「広い宇宙で探し物をするのは、覇権国家であっても困難を極めますから」


 この会話の最中も、荷電粒子砲が幾度となく放たれて船を脅かしている。そのたびにアキラが防いでいる為被害はない。移動は阻害されている。レーダーの表示を見れば、船団は刻一刻と近づいていた。タイムリミットは遠くない。


 カイトは再度考える。アキラのビームは使えない。しかし彼女の能力を使わなければ勝てない。この砲台ではドラゴンシェルを止められない。止められる可能性があるとすれば接近戦。だけど相手にシールドが残っていては接触ができない。


 近づいて、殴って、削り切るまでに逃げられる。あの速度はこちらの推力を全開にしても追いつけない。一瞬接近するのが精一杯だ。


「……作業を分担する必要がある。シールド削りと、足止めだ」

「具体的には?」

「爆弾でもなんでもいい。アキラにアイツのシールドを剥がしてもらう。そこに俺が飛び出して張り付く」


 ビームが使えないなら、それ以外で殴ってもらえばいい。収集所からそういった物騒なものが回収されたと聞いている。そしてシールドがないなら、接触できる。荷電粒子砲を破壊するなり、妨害方法はいくらでもあった。


「また、無茶な作戦を……」


 電子知性は大いに呆れた。即座にシミュレーションすると、現状よりも作戦成功率が上がるのが彼女を悩ませた。もちろん、カイトの危険性は跳ね上がる。だが、船団が到達した場合のそれと比べるとこちらの方が低い。どちらを選択するべきかは、言うまでもない。


「と、いうわけだ。アキラ、頼めるか?」

「おっけー! ちょっとまってね!」


 次の瞬間、彼女の姿は底部倉庫区画にあった。すぐさま、目当ての人物に声をかける。


「ベンジャミン君! 基地から分捕った爆弾、どこにあるの!?」

「うわぁぁぁ!?」


 兎によく似た獣人であるところのベンジャミンは、驚いて飛び上がった。その高さ、実に1メートル。見事な脚力を披露した。


「ア、アキラ様!? 何でここに? 迎撃中では?」

「それで必要になったの! で、爆弾!」

「は、はいはい。爆弾ですね? ええっと……投擲用、工作用、対車両用と各種ございますが」

「戦闘船のシールドを吹き飛ばしたいの! 大火力で!」

「ひえ。大火力。大火力ですか……あ。あるわ」


 ベンジャミンは、物資の山をかき分けて進む。アキラもそれについていく。なお、この会話中も彼女は荷電粒子砲の攻撃を防いでいた。この程度の並行作業は苦にもならなかった。


 なお、空間跳躍テレポーテーションは別である。この能力を発動するにはまず遠視クレヤボヤンスを使って跳躍先を調査し、安全を確認しなければならない。この大型船を何事もなく転移させるのは、彼女であっても楽な事ではない。


 ほどなくして、目的地にたどり着いた。床に寝かされ、ベルトに固定されたそれは金属の柱だった。同じ長さのものが二本、周囲から隔離されておかれていた。


「戦闘船搭載用、対艦魚雷です。ミサイルと違って、ホーミング性能も低いし速度も遅い。ですが火力は今ボクたちが保有している中で一番かと」

「これ、ぶつければ爆発するの?」

「いえいえ。信管を使用可能状態にセットしなければ爆発しません。危ないですからね」

「今すぐやって! 今すぐ使うから!」

「え、ええ!? こ、ここで爆発しちゃいますよ!」

「短距離空間転移ならすぐできる! 大丈夫、私を信じて!」

「う、うう。それを言われると、弱い……」


 ベンジャミンとて、この船に救われた一人である。一生ラヴェジャーの奴隷として消費されるだけの人生になるはずだった。恩義を感じていないはずがない。頂点種の恩寵に、報いたいという気持ちは当然ある。


「わ、分かりました! 直ぐ準備しますけど、気を付けてくださいね! 数はどうされますか?」

「とりあえず一本! 足りなかったら取りに来る!」

「かしこまりました!」


 即座に、手元の端末を使って操作を開始する。その動きはよどみがない。彼はもともと、宇宙港で作業員として働いていた過去がある。そこを襲撃され、紆余曲折あってラヴェジャーの奴隷となった。


 彼が今まで五体満足で生き残れたのは、臆病者であったのとこういった作業が得意だったから。その腕はこの時もしっかりと発揮された。


「完了です、どうぞ!」

「ありがとう!」


 アキラは元気にお礼を言うと、信管が起動した対艦魚雷とともに姿を消した。ベンジャミンは彼女の無事と成功を祈った。


 そして次の瞬間、彼女はドラゴンシェルの目の前に現れた。短時間の未来予知ならば外しはしない。軌道を変えたその瞬間、鼻先に現れたのだ。


 アキラは、彼女には珍しくやや意地悪に微笑んだ。


「ぷれぜんと、ふぉー、ゆー!」


 対艦魚雷が、爆発した。アキラの船を、爆発によって発生した光球が照らし出す。軍用艦船のシールドに負荷を与える火力を持つそれの直撃である。いかに覇権国家の技術の粋を集めたドラゴンシェルでも、無事では済まなかった。


 シールドダウン、加えて衝撃によって制御系に乱れが生じたらしくふらついている。チャンスは今しかないと、カイトは覚悟を決めた。


「発進!」


 カイトは砲台を瞬時に解体した。そして即席ロケットを作り上げる。推進器、燃料の入った増槽、真っすぐのびる一本の棒、まとわりつく黒い機械細胞、そしてカイト。


 雑などという単語では表現しきれない、子供の積み木細工のようなそれがドラゴンシェル目がけて飛び立つ。コントロールはできる。考えれば、暴乱細胞レイジセルはすぐにそれを反映する。誤作動もない。


 バリーが極限状態に陥って目覚めたシステムリンク。カイトは一番初めからそれを行っていた。身体がほぼ死んでいた彼には、それ以外の方法でスーツを動かす事が出来なかったのだ。


 そして、リンクは常に無意識で行っている。途切れることはほぼない。彼の体の中に残る機械細胞がそれの補助を行っているから。故にカイトは、レリックを己の手足のように扱える。疑問に思ったりはしない。カメリアが助けてくれているのだろうと勝手に納得している。


 それは確かに、半分ほど正解ではあった。変形用のデータの選別は彼女の仕事である。それを即座に選んで実行しているのは、カイトの能力であった。


 カイトは今回、わざとロケットを脆く作った。理由はドラゴンシェルのパイロットと接触する為。先ほどの説明から、落としてはならない相手だとは分かった。それ以前に、相手も皆と同じ捕虜である。解放できるならばそれがいい。


「我ながら無茶が過ぎる気がするけど……何とかなあれ!」

「本当にもう!」


 カメリアは同期した電子知性三つ、さらに光源水晶こうげんすいしょう三つを一瞬フル稼働。ソフトな着弾にするべく全力のサポートを行う。ふらつくドラゴンシェルへ向けて、一直線で飛ぶカイトロケット。


 接近に対して、迎撃はない。いまだ相手側は回復していない。増槽内の燃料を暴乱細胞側へ移して、ガワそのものは破棄。光源水晶からのエネルギーを使った姿勢制御で速度調整。敵船体に接触。


「んんんっ!」


 衝撃がカイトを襲う。口を開けていたら舌を噛むだろうと、マウスピースモドキをあらかじめ作っておいた。それをかみしめて堪える。ぶつかった時の衝撃は、機械細胞をクッションとして軽減する。


 そして、ここからが重要だった。相手は動いている。こちらも接触時の運動エネルギーが残っている。一つ間違えれば振り落とされるか、跳ね飛ばされる。あらゆる手段を用いて張り付く必要があった。


 次々と形作られるフックとワイヤー。装甲の凹凸や、機器に引っかけて接点を増やす。全てをそれにすることはできない。弾み、揺さぶられるのでカイトを守るために残しておく必要がある。


 引っかけては外され、また別の場所にくっつける。暴れ牛に乗る方が、よほど難易度が低いと言える。真空の宇宙で機械の竜にロデオを挑むとか、人生分からんな本当。余裕なんてないのに、カイトの脳裏にはそんな思いがよぎった。


 これ無理なんじゃないか。そんなあきらめが何度となくよぎったが、それ以上の回数行ったチャレンジにより彼の身体は船体に固定された。カイトのシステムリンクとカメリアのサポートによって行われた、一連の作業。高度な装備と技術を用いて行われた、極めて無謀な試みの成功だった。


 マウスピースを吐き出して、通信を繋げる。


「な、何とかなった。カメリアありがとう。で、どうしよう?」

「考えてなかったんですか。今、暴乱細胞を介してドラゴンシェルのシステムにアクセスを開始します。相手側も強固なファイアーウォールを用意していますが、通信程度ならラヴェジャーから奪ったデータで……つながりました」

『う、うう!? これだけ揺さぶったのに、振り払えない。何ですかコレは!?』

「わお、女の人だよ」


 相手の性別を全く考えてなかったことにカイトは気づく。そして、現状はそれどころではない。


『通信!? ハッキング!? ドラゴンシェルの防壁を抜いたなんて』

「どーも、お姫様。自分は……えーっと、頂点種の使いです。ラヴェジャーから逃げませんか?」


 この世界で社会的地位を持っていないので、とりあえず権威ありそうな単語を出してみるカイト。反応は劇的だった。


『頂点種様の……! で、でも、この首輪が……あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?』

「な、なんだ!?」

「命令を実行させるために、懲罰用の首輪をつけられているようです。今まで解放した捕虜にも同類のものが装備させられていました」


 熾火に空気と燃料をくべるように、ラヴェジャーへの怒りが燃え上がる。が、個人的感情に浸っている場合ではなかった。なにより、少女とも女性ともとれる相手の悲鳴はまだ続いている。


「何とかならん!?」

「今は無理かと。そして、タイムアップです。もう間もなく、船団の射程距離に入ります。そしてアキラ様の準備も整ったようです」

「ここで放っておくの!?」

「時間も手段もありません。次の為の手札を仕込んでいくだけです。それでは、次の機会に必ずお救いします」

「あ、ちょっ!」


 苦労してセットした固定器具が、カメリアの操作で解除される。さらに、残っていた燃料を再び形成した推進器に突っ込み点火。ドラゴンシェルから距離を離す。カイトにとっては、到底納得できる結果ではなかった。しかし、現状ではどうしようもないのもまた事実だった。


 ともあれ時間稼ぎという役割は完了した。懲罰用の電流がいつまで続くかは分からない。命までは取らないだろう。そして、それが終わるまでは恐るべきレリックが活動再開するとは思えない。


 燃料推進の勢いが乗る前に、アキラの念動力が彼を包む。引き寄せられ、あっという間に船の甲板に戻った。


 次の瞬間、大型船はその姿を消していた。空間跳躍テレポーテーションは、重力の影響を受けない。残るのは行動不能に陥ったドラゴンシェルと間に合わなかったラヴェジャー船団。ほぼ空っぽになった物資収集所のみだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] レリック内の操縦者が装備している拘束具の無力化かー・・・ 遠隔で無効化できればいいんだけど、難易度高そうだ
[良い点] ここまで一気読みしました AIなサポート役と上位存在な理想の上司と共に、仲間と物資を増やしながら巨大宇宙船で銀河漂流逃避行! いやぁ、どこからかじってもワクワクしかありません!! 続きも…
[良い点] なんとか取り付けば意志疎通のチャンスはある、なら解放の目処も立てられるかな…次は何とかしないとですねえ。
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