戦士団、ハッスル
そこは恒星と小惑星帯があるだけの星系だった。公式には名前がなく、ただ記号と番号だけで呼び表される程度の場所。詳細な調査もされていない、銀河にどこにでもある星系だった。
アキラの巨大船は、外縁部に跳躍した。そしてそのまま一直線に、隠されたラヴェジャーの物資収集所へ向かう。慌てたのは、留守を押し付けられていたラヴェジャー達である。まず、現れた存在が理解できない。
これほどまでに大きな船を持っているのは一部の大国か覇権国家だけである。そんな船が辺境星域に現れるなどありえない。しかも、どの組織にも伝わっていないはずのこの収集所へまっすぐ向かってきている。
仲間が使用している可能性が一番高い。だから呼びかけるが反応がない。事ここに至って、敵対勢力の襲撃であると断定し、護衛として残しておいた三隻の攻撃船を発進させる。
とはいっても、特別な船ではない。コンビニエンス・コーポレーション製防衛用攻撃船「モリビトB1-8」。大量生産品のユニット船である。
この宇宙の船は大別して二種類に分けられる。規格で定められた大きさと連結機能を備えたユニット。これを繋ぎ合わせ、外部フレームで補強するユニット船。強固なフレームを作り、その中にユニットや必要機材を詰め込むフレーム船の二種類である。
ユニット船は、宇宙を飛び交う船舶のおよそ八割を占める。民間で使用されている船はほぼこちらである。理由はひとえに、安いから。生産しやすいのである。
コックピット、エンジン、燃料タンク、跳躍機関、離着陸ギア……。船に必要とされるパーツは多い。しかし規格化されているためそれに合わせればパーツ単位で開発、生産できる。他社のユニットも、当然接続できる。
参入企業が多いのだ。例え故障して部品が取り寄せられなくても、同じ種類のユニットを接続すれば修理できるというのも大きい。生産企業がはるか遠い宇宙のかなた、などというのは当たり前の話なのだから。
そのような理由により、ユニット船は宇宙を繋ぐ主力として広く使用されている。しかしそのシェアはあくまで八割である。残り二割がフレーム船である理由もまた、当然存在する。
「収集所より敵機の発進を確認しました。数は3、ユニット船です」
巨大船の甲板。コアルームの上にあるその場で、アキラは遠くを眺める仕草をした。真空の宇宙であるが、彼女は力場で作られた立体映像である。宇宙に出るあらゆる悪影響は意味を成さない。
「見えてるよー、楽勝だね」
カメリアの報告に、呑気な声で返す。それに、隣にいたカイトが注意する。
「アキラ、油断は禁物だぞ」
彼は今、アキラが保有するほぼすべての暴乱細胞の操作を行っていた。アーマーとマシンを接続して以前作った長砲身の荷電粒子砲に変形。さらに残りを使って大型のエネルギーコンデンサーとケーブルにしている。ケーブルはコアルームに、アキラの本体に接続されていた。
「だいじょーぶ。ユニット船は動きが穏やかだから、把握しやすいんだー。よしカイト、こんな感じだけど?」
「ぬうん……やってみる」
二人は今、通常の手段で会話していない。アキラの念話能力を使っていた。理由は二つ。カイト側のシステムを操作しないと声を届けられない環境にあること。真空にいるのだからしょうがない。もう一つは、これから行う戦闘、否、作業の為である。
頂点種、光輝宝珠であるアキラは様々な超常の力を保有する。念話、念動力、空間跳躍……そして遠視。物理を超越した知覚能力を持つ彼女は、それを用いた未来予測が可能である。
今、アキラはそれを使って敵機の移動予測を行っている。その情報を受け取ったカイトは、まだ何もいないその場に向けて砲身を動かした。
「大型コンデンサーよりエネルギー伝達。エネルギーチャージ完了。敵機、予測……予知位置までのこり3、2、1。ロングメガキャノン、発射!」
荷電粒子が、無重力空間に走る。吸いつくようにして、先頭の一隻に命中。シールドを大きく減衰する。
「うーん……今度は、ここっ!」
「再チャージ完了。予測位置確認、ロングメガキャノン、発射」
第二射が、続けて放たれる。驚いた敵機は軌道を変え、ブースターを吹かして加速している。本来であるならば、これに当てるのはどのようなセンサーと火器管制システムをもってしても難しいはずだった。
しかし、再び命中する。移動目標の進行方向に銃弾を撃ち込むことを偏差射撃という。同じように見えて、全く違う。その場に来ると予測しているのではなく、知覚しているのである。どれほど相手側がランダムに動こうとも関係ない。意味がない。
そして、エネルギーは無尽蔵である。なにせ頂点種と直結している。連射を妨げるのは、発射時に発生する熱のみ。いかに破壊がほぼ不可能とされる頂点種の機械細胞といえども限界はある。熱が機能の正常な作動を妨げるのだ。こればかりはどうしようもない。
幸い、急速冷却しても劣化することはない。その為の機構も増設している。三射目の命中をもって、一隻目は宇宙に破片を散らした。
「のこり二隻! わお、戦闘機動がんばるね。船体寿命縮んじゃうのに」
アキラの言葉通り。ユニット船には、どうしても避けられない構造欠陥が存在する。高速で加速すると、ユニットの連結部分に負荷がかかるのだ。それを緩和する機能はもちろんある。ユニット同士をつなぐ外部フレームを取り付ける、緩衝材を入れるなどがその具体例だ。
だがそれでも限界はある。急加速や高速旋回をすればするほど、負荷は増えていく。限界を迎えれば接続は外れ船は四散することになる。流石に大型船ともなれば、搭載できるジェネレーターも高出力になる。そのエネルギーを使って慣性制御機関を動かし、負荷を緩和する。
ともあれそのような理由により、ユニット船は戦闘に向かない。しかし安価であるため、武装を施されて戦闘に利用されているのも事実である。壊れてもユニットを交換すれば寿命を延ばせるという利点もまたあるのだ。
なお、純戦闘用に使用されるのがフレーム船である。初めから急加速、高速旋回に耐えられるようフレームを用意し、その中にユニットを含む必要装備を詰め込んでいく。同じ質量であった場合、フレーム船とユニット船でははっきりとした性能差が出る。
「再チャージ完了。予知位置確認、ロングメガキャノン、発射」
カイトは淡々と射撃を繰り返す。相手側も反撃してくるが、アキラが張る力場の障壁を抜くことができない。その攻撃も予知しているので、ピンポイントを守るだけでいい。彼女の消耗は全くないと言っていいレベルに収まる。
レーザーや、虎の子であろう対艦ミサイルも障壁に阻まれ効果を発揮しない。爆発などが、甲板を照らす程度で終わってしまう。
本来であれば、痛手を負わせるのは不可能ではない。船の機能は相変わらずほとんどが不調である。本来のシールドはまだ稼働していない。迎撃システムも沈黙している。満身創痍なのだ。
それをすべて、アキラ単体の能力でひっくり返している。頂点種の能力の、ごく一部の力を発揮することで。
ラヴェジャーの努力むなしく、二隻目も火の玉と化した。砲身の冷却システムは最適化され、連射力が向上した。残る一隻は、ついに叶わぬと諦めて船首を星系外へと向ける。もちろん、それを逃すカイトではない。
ラヴェジャーへの怒りをたぎらせながら、砲身を敵船の背面へ向ける。それに、アキラが待ったをかけた。
「ごめんカイト。あれ頂戴」
「え? なんで?」
「ちょっとリハビリしたいの」
「お? おう……どうぞ」
何をどうするのだろうか。カイトの頭に疑問符が浮かんだ。幸いな事に、それはすぐに解消された。コアルームの上の天井が開いていく。元々、ケーブルを通すために開かれていたが、最大開放される。
そして、彼女が顔を出す。頂点種の光輝宝珠が、多面体を覗かせる。力場で象られた少女が、念話で力強く宣言する。まっすぐ、逃げ去ろうとする船を指さして。
「せーの、どーん!」
光が走った。小さな光弾が、一直線に攻撃船の背に刺さり貫いた。そして、消滅させた。
「……は?」
カイトの目が点になる。いかに頂点種が物理法則を超越する存在と知っていても、この結果は予想していなかった。センサーが、わずかに船があった痕跡を確認する。消滅ではなかった。あまりにも高いエネルギーに船体が溶けたのだ。形を失い、飛沫となった。
真空は熱交換を行わない。それができる物体に接触するまで、ラヴェジャーの船は熱を保ったまま宇宙を飛びさすらうのである。
光輝宝珠は様々な異能を保有する。その最大の能力がこれ。頂点種の中でも上位のエネルギー生産力である。それを単純な攻撃手段として用いれば、宇宙船などこの通り。たとえ相手が戦艦であっても同じ結果となるだろう。
しかし、本人は口をへの字にした。
「うーん、まだまだ」
「あれで?」
「コントロールが甘い。収束もぜんぜん。これから練習していかなくちゃ」
「何と戦うつもりだよ……」
「そりゃもちろん、暴乱城塞だよ。次は、負けない!」
ぐ、っと力こぶを作って見せる。あまりにも、隔絶した力だった。わずかな力の解放で、あの威力。本気、全力となれば一体どれだけの破壊を行えるのか。
カイトは一瞬、彼女に恐怖を覚えた。そしてその自分を恥じた。散々恩恵を受けておいて、それを恐れる。忌避する。自分がやっていい事ではない。
彼女は能力の差、存在の差を超えて友人として接してくれている。寄り添ってくれている。それを忘れるなど、あってはならない。自分がいま生きていられるのは誰のおかげだ。この船を動かしているのは誰だ。
カイトは大きく息を吸って、吐いた。アーマーの生命維持装置は正常に作動している。涼やかな空気が肺を満たした。そして己の動揺を抑え込んだ。
「……とりあえず、敵機はもう来ないかな?」
「そうだね。近づいて、出てきたらやっつけよう」
「了解」
カイトは何事もなかったかのように話をする。そしてアキラは、彼の心の動きを感じ取った上で調子を合わせた。頂点種の彼女の異能をもってしても、失敗のないコミュニケーションというのは難事だった。
巨大船はゆっくりと、物資収集所へと進んだ。
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わずかにあった固定砲台は、カイトの手加減した砲撃により速やかに沈黙した。もはや、乗り込みを阻むものは何もなかった。
収集所というだけあって、輸送船用の物資搬入口が存在した。巨大船が接続口を連結。カメリアの力をもってすれば、相手側のロックを解除するのは容易い事だった。
入口が、開放される。途端に、投射物の応酬が行われる。基地側からは大量のレーザーだ。タレットだけでなく、レーザー発振器を束ねた連射タイプも備え付けられていた。それらが放つ輝きが、次々と船の中に突き刺さっていく。
船側からは、多種多様である。まずは煙幕だ。対センサー、対レーザーのそれは瞬く間に集積所側に充満していく。レーザーが拡散し、攻撃力を失うまでに薄められる。雨あられと打ち込まれ続けていたそれも、流石にエネルギーの無駄遣いであると停止する。
それと同時に放り込まれたのは偵察ドローンである。煙幕に紛れて放り込まれたそれが、搬入口の状況を調査する。どこにタレットが設置されているのか。敵の数は何人か。ラヴェジャーと捕虜の数はどの程度か。
瞬く間に丸裸となり、情報が共有される。そして再度、煙幕が投入され相手側を煙で覆う。さらに音響手榴弾も投入され、音の打撃により一時的な混乱を与えれば状況は整った。
戦士たちが、突撃した。
「オオオオオオッ!」
四本の腕に手斧とハンドガンを二つずつ構えるのは虫人のスケさんである。彼らの神経はヒューマノイドや動物系のそれとは構造も太さも違う。感覚器も複眼と触覚、ほかのそれらよりも多くの情報を取得する。
故に狙いは外さない。彼は素早くタレットに到着すると、それを手斧で破壊した。刃部分が単分子加工を施されており、相手が金属であろうと紙のように切り落とせる。その分扱いが難しく、しくじると容易く切れ味を失う。
しかし、スケさんは手練れの戦士だった。次は設置型レーザーマシンガンを発見すると、これまた手斧を振るう。スパリと、小気味よいほどあっさり制圧武装が破壊された。
「だ、だれだ! だれがい……」
「ヌンッ!」
突撃に慌てたラヴェジャーが悲鳴を上げた。それはあまりにも迂闊だった。上の腕でドラムマガジンを装備したショットガンを、下の腕で物理シールドを構えたカクさんがカバーに入っていたからだ。
即座に放たれた散弾が、ラヴェジャーの対環境スーツを貫通する。至近距離で、外しようもなかった。
煙幕の中、二人は的確に位置取りをして進行していた。名前を失う前のかつてと同じように。その頃の二人は、同じ部族で腕を競い合うライバルだった。彼らの住んでいた惑星は乾燥していたが、虫人には特に問題にならない環境だった。
同じくそれに適応していた生物と、日夜生存競争を繰り広げていた。どこにでもある、原始惑星の姿。違うのは、宇宙海賊の基地があった事。
海賊たちはタダ同然の物資を使って原住民と交易をしていた。互いに希少な物資を交換し合うのだから、比較的公平であった。物資を得るための労力は不公平だったが。
ある日の激闘で、スケさんカクさんはそれぞれ腕を失った。戦士として不適格となった二人は部族の掟に従い名を無くし、故郷を去ることになった。戦う事しか知らない二人は、放浪の末海賊に身を寄せた。
しかし、海賊は彼らを仲間としては迎え入れなかった。機械の義手をつけて、戦闘奴隷として売ったのだ。そして巡り巡って、今がある。
「カクノシン! 次はあちらぞ!」
「応よ、スケザブロウ! 手柄首を増やそうぞ!」
彼らは現状を嘆いていない。いまだ命があり、戦場がある。戦える身体があり、盛り立てるべき部族がある。新しい名前を得て、崇める神までいてくれる。これ以上何を求めるというのか。
しいて言えば、手柄首。いさおし。戦利品。おお、意外と多い! 二人は笑いながら次の敵を求めて戦場に飛び込む。
そのように戦意をみなぎらせる者は多い。たとえば覇獣大王国出身者達だ。この軍事国家の出身者たちは、強さの信奉者である。階級や社会的地位ももちろん認めるが、それ以上に個人や部隊の強さを貴ぶ。
彼らは一度捕虜になった。負けて、虜囚の身となった。屈辱であり、その地位は下落した。再び良き場所に立つならば、強さを示さなければならない。
「ぬぅん!」
気合一発、合金製の棍棒がスイングされる。普通のヒューマノイドにとっては野球のバット。しかしゴリラ型猿人の彼にとってはコンパクトな打撃武器である。その頑丈さは、彼の筋力が発する力を正しくラヴェジャーに伝達した。
「ボギャァ」
対環境スーツが段ボールのようにひしゃげる。ラヴェジャー達の普段着であるこれは、戦闘に耐えうる優れた装備である。対衝撃、対レーザーの対策がされており過酷な環境でも長期間着用者を守る。生産性も優れており、類似品は各地でデザインを変えて販売されている。奪って生きているのだ、逆も当然。そもそもラヴェジャーは人権が認められていない。
そのように優れた装備が、一瞬でゴミになる。中身もまた、生物から生ごみになる。獣人系は他の知性体に比べて身体能力が高いとされている。猿人の男、覇獣大王国の兵士ジョウも例外ではない。
そして暴れるだけの種族でもない。彼は指揮者であったラヴェジャーを一瞬で制圧すると、武装集団に吠えた。
「ラヴェジャーは殺した! 即座に武装解除せよ! さもなくば痛い目をみるぞ!」
野生交じりの気迫に当てられて、戦意を保てるのは正しく教育された兵士だけである。嫌々働かされている捕虜が耐えられるわけがない。その場にいた三名の捕虜が、武器を投げ捨てた。
「うむ。ではその場に伏せるがいい。危ないからな。すぐに解放される故そのまま待て」
しっかりと武器を離れた場所に蹴り飛ばすと、ジョウは戦場の状態を確認する。入口付近の防衛線は突破した。煙幕は空調設備により薄まりつつある。奥に進む前に、この場の制圧を完了させねばならない。
彼はカメリアに状況報告を開始した。覇獣大王国は猪武者の集まりなどではない。戦い、勝ちを確定させ、その利益を最大にする知恵がある。この場を確保し、捕虜を解放して船内に保護する。
橋頭保を構築し、内部への侵攻を容易にする。ジョウはそのために動き出した。仲間の為組織の為、そして自分の評価の為。彼はそれができる男である。
さて。そのように戦闘員たちはおおむね意気軒高だった。そうでない者達も若干いる。ほかならぬ、レリック貸与試験を受けている真っ最中の者達だ。彼らの動きは、精彩を欠いていた。
まず、常識的な話として。現在は、船及びその乗員の生存に係る大事なミッションの最中。戦闘員はもとより後方で仕事をする非戦闘員、さらには解放する捕虜の命もかかっている真剣な局面。
そんな状況で個人成績を求めるテストを行うというのは、まともな事ではなかった。一つ間違えれば仲間割れが起きてもおかしくない状態。ミッションの進捗にも重大な問題が発生するだろう。
乗員たちはそれぞれ程度の差はあったが、この状況がおかしいものであると理解していた。例外はカイトやベンジャミンなどの元民間人である。
このおかしい状況を作ったのは誰か。カメリアである。頂点種に直接の奉仕を許された電子知性が、このような間違いを犯すだろうか。ありえない。事は主にもかかわる事だ。でも実際に起きている。この状況が許されている。
つまり、この事態はアキラも了承している。何故? 乗員たちはミッションの始まる前、密やかに小グループを作って話し合った。いくらかの時間をかけて出た推測はこれ。
『レリックの貸与を要求したのが、機嫌を損ねた』
レリック、暴乱細胞の由来はカイトが知っていた。アキラを封印した暴乱城塞が残したものであると。それに負けたから、彼女は長い間ラヴェジャーにいいように利用されていたと。
つまり敗北と屈辱の象徴である。彼女がこれに、いい印象を持っているはずがなかったのだ。それなのに、カイトが使っているのを羨んで貸与を要求した。これで機嫌が良くなるはずもない。
となれば、この状況は迂遠な罰なのではないか? それに気づいた乗員たちは震えあがった。……中には、こうなってしまっては仕方がない。働きで挽回するのみ、と気炎を上げるポジティブシンキングな覇獣大王国出身者達もいたが。
この推測は、おおむね正解だった。アキラが黒い機械細胞を嫌っているのは事実である。カイトに使われているのを見て、溜飲を下げてもいたが。嫌いな相手の一部が便利な道具として使われているのだ。ざまあみろ、と彼女の精神の幼い部分が喜んでいた。
しかし、カメリアの思惑もあった。一つは貸与要求の抑制である。戦闘員全員に貸し出せるほどの質量はない。このミッションの序盤のように、まとめて使用した方が良い場合もある。カイト以外への貸出には消極的、もっといえば全くその気がなかった。
彼女は、主やカイトほどに乗員を重要視していなかった。二人が望むからそのように差配しているだけであって、最悪は切り捨てを視野に入れている。最悪このミッションで物資が収集できなくても許容範囲であるとすら考えていた。それよりもカイトを守ることの方が重要だった。
カメリアは、アキラの次にカイトを重要人物として設定していた。何となれば、自分たちの絶望的な状況を覆した恩人である。さらに、アキラの精神的成長を促した大事なキーパーソン。暴乱細胞を思いのほか上手く使いこなしているというのも評価を高めている。
そんな彼が一部乗員の嫉妬から非難の声を集めている事を、彼女は大いに不満に思っていた。電子知性にも感情がある。有機知性のそれと同じものではないが。
そのようなわけで、レリック貸与を要求した戦闘員へのカメリアの心情はマイナス値だった。そしてマイナスが大きければ大きいほど、試験用に貸し出された武装は強力なものだった。
この状況下で、確たる成果をだせるなどとカメリアは試算していない。その逆になると予測していた。その上で試験を行った。装備が強力であればあるほど、結果の悪さが評価に響く。
完全なる出来レース。電子知性の悪意。そしてその最たる目標が、カイトを罵倒したバリーに向けられている。
高性能パワードスーツに、一切の手抜きはない。メンテナンス性と素材で妥協せざるを得ない部分はあったが、それ以外に関しては現状望みうる限りを投入してあった。アーマーの性能を理由に、バリーに言い訳をさせない為であった。さらにこの性能を、彼を攻めるための武器に使うつもりもあった。
そんな恐るべき罠に放り込まれた本人は、順調に窮地に立たされていた。




