スペースコンバット!
真空の宇宙に音はない。それは当たり前であるが、音がある世界で生きる生物には問題がある。目からだけでなく、耳からも危険を知覚するからだ。なので、スーツのシステムは周囲の状態をセンサーで感知すると効果音を付ける。
機械の動作、遠方の閃光、センサーが新しい物体を検知した時の警告音。故に宇宙は賑やかで、そこを行く者の心を苛む事もない。
エアロックを通り抜ける時、カイトはときめきを感じた。宇宙である。地球人類には、遠い場所だった。自分のような学生が、真空の無重力空間へ飛び出すことになるなんて夢の中でしか考えなかった。
しかしそれも、体感し終えれば『それほどでもないな』という感想が浮かぶ。いたし方がない事である。暴乱細胞は常に身にまとっている。これには宇宙空間への対策も当然のように備わっている。脱がない限りは船内と同じように過ごせるのだから、変化がないのも当然だ。
船から離れてしばらくは、一切の反応を出さずに偵察機に近づく。自分たちの位置を知らせないためだ。さらに、暴乱細胞にステルスモードを指示する。頂点種が蓄えたテクノロジーが、センサーに対して有効に働く。
相手に知られない状態で、近距離まで忍び寄ることができる。失敗のできない状態で、この能力は非常に有効だった。遠距離でバレてしまったら、近づく前に逃げられてしまう。
増槽の燃料、水素は有限だ。これが無くても光源水晶が発生させるパワーで移動は可能らしい。しかし速度には制限が出る。絶対逃せない相手なのだから、加速力は必要だった。無駄遣いはできない。
「目標まで、のこり半分。……順調だな」
ヘルメットにはいくつもの情報が映し出されている。相手までの距離、エネルギー残量、増槽の燃料。そういった中に、ステルスシステムの有効度というのがある。現在は97%を示している。相手に近づけば、それだけバレやすくなる。たった今、96%になった。これからこれが加速していくらしい。
「99%でもバレるときはバレる、と。昔のロボゲーであったな、命中率99%でも外れるって。ともかく、ここからは気を引き締めないと」
大きく深呼吸をする。まったく、身体の感覚があるというのは最高だ。カイトは改めてそう思った。それと同時に、久方ぶりの孤独を味わってもいた。船の中には大抵誰かがいる。カメリアが常に体調管理もしているから、声をかければすぐ答えてくれる。アキラだって近くに居ることが多いし、最近はスケさんカクさんなど知り合いも増えた。
誰もいない。話せない。さみしくもあるし、自由でもある。しかし偶然か、それとも運命か。状況は容易く変化した。
光学センサーが新しい機体を確認した。二隻。データ照合。キングイーグル・カンパニー製軽戦闘船「シャープクロウ7」。武装不明。カイトは呻いた。
「げぇ……増えた。どうしよう」
事前の打ち合わせにはこの状況は想定されていなかった。準備はない。無線封鎖しているからカメリアと連絡も取れない。つまり、カイトが考えて行動するしかない。不味い不味いと五回ほど繰り返して、自分で何とかするしかないと覚悟を決める。
「考えろ。状況を整理しろ。目的を確認しろ。俺は何をする? 偵察機を確保する。よし」
自分に言い聞かせるように、考えを口にする。スーツはそれに答えて、ヘルメットのディスプレイに文字を表示させていく。
「偵察機を確保するにはあの戦闘船が邪魔だ。なんで邪魔だ? 確保するときに攻撃されるとよくない。偵察機を壊されたらダメ。よし、いいぞこの調子」
ことさら大げさに体を動かしながら、考えをまとめていく。パニックになってはいけない。短いながらも危険予知トレーニングを受けたのが役に立っていた。思考と行動が、状況を改善させる。
「じゃあ、攻撃船を排除すれば安全に偵察機を確保できるか? どうなんだ? ……シミュレーション開始」
カイトの要求にこたえて、光源水晶が仮想演算を開始する。彼我の戦闘力、加速力、時間経過。短時間に凄まじい処理がなされる。結果はすぐに表示された。戦闘船二隻を排除する前に偵察機が離脱する確率、極めて大。
「それじゃあ、ダメだ。……今度は逆。先に偵察機を行動不能にした場合は? また、速攻で偵察機を無力化させることは可能か?」
この疑問に対しても光源水晶は素早くシミュレートを終えた。この世界の技術でも、この速さで演算するのは業務用の大型コンピューターを必要とする。拳大の結晶がそれを容易くこなしている。レリックの面目躍如である。
結論は、可能と表示された。加えて、具体的な攻撃プランも表示される。
「相手のレーダーに発見され次第、全力加速。攻撃範囲に入り次第レーザーで偵察機のバリアをダウンさせる。この時点で近距離になっているから……なるほど、了解」
方法は示された。後は実行するだけ。カイトは腹をくくった。
「手順1、偵察機を無力化させる。手順2、攻撃船を撃破する。手順3、偵察機を確保する。行動はシンプルに。難しくすると失敗するってなんかで言ってた」
ディスプレイに手順が並べられタスクとして設定された。加えて、シミュレーションが一つの注意を促してくる。
「……おお、そうか。戦闘船との戦いは、偵察機と離れた所で行えと。そうだよな、あいつらに仲間を巻き込まないで戦うって配慮を求めるのは難しいもんな」
納得しつつ、ため息もつく。頭のてっぺんからつま先まで、迷惑しか詰まってない生き物だと。ともあれ、注意事項も確認できた。後は実行するだけだ。カイトはリラックスした体勢で、その時を待つ。
マシンはバイクに似た形状をしている。前傾姿勢は、背中に負担がかかる。慣性で前進しているから、多少の体勢変更は問題ない。カイトは背筋を伸ばした。スーツは、そういった動きを阻害しない。彼の身体に合わせて設計されているのと、柔軟な機械細胞のおかげである。
バイクもどきに跨って、宇宙空間を無音で進む。そこに奇妙なおかしさを感じてカイトは微笑んだ。そして表情を引き締める。
無限のような時間が過ぎた気がしたが、実際それが起きたのはそれから約10分後だった。偵察機から、スキャニングレーザーがカイトに向けられて照射されたのだ。発見された。カイトはアクセルを絞った。増槽から送られた水素を使って、推進器が猛烈なエネルギーを吐き出す。
急加速。骨、内臓、血管。あらゆる臓器が悲鳴を上げるが、体内の機械細胞がそれを補助する。相対距離を示す数字がすさまじい勢いで減っていく。攻撃船がこちらに向けて加速を開始する。まだ時間はある。
偵察機が、射程距離圏内に入った。
「攻撃、開始!」
マシンの前方に作成されたレーザー砲塔が攻撃を開始する。二連装のそれが、絶え間なく赤いレーザーを放っていく。実際に色のついたそれが発射されているわけではない。カイト用に、分かりやすく表示されているだけである。
レーザーが次々と偵察機のシールドに命中する。しょせんは情報収集用の機体である。強力なシールドは装備していない。ほどなくして、シールドがダウンする。すでに見つかった今、こちら側もセンサーをアクティブにできる。相手側の状態は調べたい放題だ。
偵察機が目前に迫る。衝突コースからは初めから回避している。そして、必要なコースも算出済み。そこを通りながら、最後の詰めを行う。自動発射に設定されたそれが、偵察機とすれ違う瞬間に起動する。
マシンの底部中央に作成した電磁パルス砲。機械をシステムダウンさせる電磁波が、偵察機に浴びせかけられる。シールドがあれば欠片も効力を発揮しないが、今は別だ。マシンのセンサーが、相手のシステムダウンを検知した。
「手順一、クリアーッ! ……おっとぉ!?」
レーザーが、マシンのシールドに命中した。攻撃船の砲撃だった。慌ててマシンを操作し、偵察機から大きく離れる。やはり、遠慮なく撃ってきた。こちらもレーザーで応戦する。二対一、数は不利だが問題はない。相手側は、同じ軌道でこちらを狙っている。数の有利を火力以外で生かそうとしていない。
「行ける、行けるぞぉ!」
カイトの心臓が跳ねる。アドレナリンが血管を走る。マシンの質量は、攻撃船に比べて小さい。故に相手より小さなエネルギーで、大きな運動を可能にする。つまり小回りが利く。
戦闘船二隻に対して、弧を描くように旋回する。背面を取るのは、驚くほど簡単だった。後ろから、レーザーを浴びせる。シールド減衰を確認。流石に偵察機よりも頑丈だ。すぐにはダウンさせられない。
攻撃を受けた相手が、加速し回避機動を始める。機体を左右に揺らして、照準を逸らそうとする。しかしこちらは砲塔である。センサーも充実している。多少のブレ程度では、攻撃を外したりはしない。何よりシステムが優秀だ。赤いレーザーが次々と命中し、ついにシールドをダウンさせた。
「止め……とぉ!?」
システムが注意喚起。ここにきて、相手側が数の有利という言葉を思い出した。一機が減速し、カイトの後ろに回ったのだ。敵の照準が定まる。レーザーが連続発射、二発がマシンのシールドを減衰させる。
小型目標であるが故に、命中弾が少なくなる。だがそうであっても、一発一発が脅威には違いない。マシンに形成されたシールドは、このクラスにしては最大のもの。攻撃船に比べてもそん色はない。しかし撃たれ続ければ消えてしまう事は、先ほどカイトが証明したとおりだ。
回避運動をオートで作動させる。左右に揺さぶられるのを、カイトは必死でこらえた。そこに、更なるアラート。ミサイルのロックオン警告。目を見開いた時にはもう発射されていた。
レーザー砲塔が後方に向けられていたのが幸いした。威力を押さえた連続射撃で迎撃する。センサーは優秀だ。見事に破壊。爆発により光の玉が生まれた。
カイトは悩んだ。彼に宇宙での戦闘経験はない。シミュレーターでも、この事態は経験していない。
最善は分からない。正しい判断ができない。頭に血が上る。その勢いのまま行動した。
「融合変形! ビースト、モォォォドッ!」
マシンの機械細胞が、命令に従い反応する。カメリアがあらかじめ準備したシステムが、カイトを再び獣へと変えた。あの不定形の怪物ではない。機械の獣である。推進器を背負い、装甲と砲塔を装備した獣である。
カイトは振り返ると、推進器を大きく噴射して減速する。すると後ろに回った攻撃船が驚くほどの速さで突っ込んでくる。そこにカウンターを打ち込む。胸部に移ったレーザー砲塔を乱射し、さらに両腕に新しい武装を作成する。
荷電粒子砲。砲身が短く、左右に一門づつ。近距離でしか使えないが、今は十分だった。合計4門の火力が、攻撃船に突き刺さる。
「おらぁぁぁぁぁぁ!」
攻撃船を操作するラヴェジャーは、反応しきれなかった。所属不明の小さなマシンが予想外の火力を持っていた。そこはまあ許容範囲だった。いきなり形状を変化させたあげく、苛烈な攻撃を浴びせてくるのは想定外だった。なまじ、背面を取って今から攻撃しようとしていたのが良くなかった。意識の切り替えが間に合わなかったのだ。
「止めろ、私はっ!」
咄嗟に操縦桿を倒したが、間に合わなかった。シールドダウン。装甲貫通。内部システム損傷。その頃には、彼我の距離はゼロに近づいていた。
「おっしゃぁっ!」
カイトは推進器を吹かして攻撃船の突撃をかわす。そしてすれ違いざま、ありったけの火力をお見舞いした。攻撃エネルギーが、無慈悲に突き刺さる。閃光と共に、攻撃船は爆発した。のこり一隻。しかし逃げようとしている。
追いかけるより早く、一撃を与えなければならない。システムはそれに応えた。新しい武装の作成。レーザー砲塔と荷電粒子砲二門が解体される。そして背中に、長砲身の荷電粒子砲が作成された。
「長距離センサー作成。目標捕捉。光源水晶二機、エネルギー生産最大値。荷電粒子砲、チャージ開始。発射まで5、4、3、2、1。ロングメガキャノン、ファイヤーッ!」
大国の巡洋艦に搭載されるそれに匹敵するエネルギーが放たれた。狙いに間違いはなかった。シールドは復旧したばかりで完全ではなかった。たとえ完全であってもダメージは免れなかっただろう。
ともあれ、仲間を見捨てて逃げていたもう一隻は、致命的損傷を得た。ほどなく、こちらも爆発四散。光の玉となった。
それを確認し、念のために周囲も長距離レーダーでチェックした。アキラの巨大船がこちらに接近し始めていること以外は、目立った反応はなし。荷電粒子砲を解体しながら、大きく息を吐いた。
「……これ、強力だけど機械細胞の占有率が多いなあ。停止状態じゃないと組み上げられない。チャージも長いし、乱戦じゃ絶対に無理だ。使いどころが限定的過ぎる。もっと使い勝手のいいのを探しておかないと……お」
『こちらカメリア。カイトさん、応答願います』
「こちらカイト。えー、現在攻撃船を二隻排除。これより偵察機の確保に向かいます。どうぞ」
『了解しました。こちらも移動を開始しました。どうぞお気をつけて』
応答を済ませて、融合も解除する。再びマシンに跨ったカイトは、目標へ向けて移動を開始する。見れば、増槽の燃料は半分以上消費されていた。やはり、このマシンでドックファイトは無理があるのだ。
「宇宙戦闘するなら、最低でもこっちも船を用意しないとだめだよなあ。その上で機械細胞を……と、仕事仕事」
漂っていた偵察機に接触する。スキャナーがメンテナンスハッチの場所を確認。開き、システムにアクセス。あとは光源水晶とカメリア任せである。ほどなくして、全システムの掌握が終了。
偵察機はシンプルなデザインだった。地球の戦闘機によく似ている。操縦席に最低限の生命維持装置。あとは偵察に必要なシステムのみ。ギリギリまで質量を削って、長距離移動を容易にしている。
なので、コックピットの解放もシンプルだった。蓋のような天窓が上に開けば、中にいたラヴェジャーが飛び出てくる。もちろん、宇宙服は着ていたし銃だって手に持っていた。しかし、待ち構えていたのはカイトも同じ。
そして、かまえていたのは銃ではなくレーザータレットである。個人装備のそれよりはるかに大口径大出力のレーザーが、あっさりラヴェジャーのシールドを撃ち抜いた。さらに二発、頭と胴体に叩き込む。
カイトは、ラヴェジャーを捕虜にしても無駄であるという話を聞かされている。知性、理性はあっても対話が不可能。常に自分たちの世界観こそ正しく他を許容しない。拷問しても恨み言しか吐かない。そして薬物に過剰反応する。あっさり死ぬのだ。アルコールを微量でも接種すると泥酔する。
このような生体のため、常に宇宙服と生命維持装置を装備している。生物兵器で簡単に除去、というわけにはいかないらしい。ともあれ、そのような理由により捕虜を取るだけ無駄である。そもそも人権も認められていない。処分が唯一正しい対処法なのだ。
力なく漂い始めたそれを見て、カイトはわずかに悩んだ。そして死体を回収した。このまま宇宙に放置するのはどうかと思ったのだ。使った鼻紙を、ごみ箱に捨てようと思う気持ち。ほぼそれだった。
しばらくして。カイトは偵察機といっしょに、巨大船に回収された。底部倉庫区画へまとめて移動すれば、乗員たちの熱烈な歓声を浴びることになった。
「戦士カイト、ばんざーい!」
「よくやってくれたぞ! お前はヒーローだ!」
「これで助かる! 故郷に帰れる!」
皆、状況が絶望的であると理解していた。自分が解決できるなら率先してやるが、そういう状況ではなかった。たった一人が希望を託され、そして困難を乗り越えた。
両手を上げる、胸を叩いてドラミング、羽根を大きく羽ばたかせる。様々な種族が、それぞれの方法で喜び賞賛していた。まだ治療を受けている最中の者たちでさえ、自分ができる最大限で称えていた。
カイトは何とも気恥ずかしく、手を上げて答える事しかできなかった。とりあえず「ゴミ」を所定のゴミ箱に捨てると、集まっていた人々と合流する。
「偵察機、なんとか確保しましたー」
「聞いたぞ、護衛の船までいたそうではないか。一対三を制するとは」
「奇襲と、あとは暴乱細胞の性能に助けられました。そうじゃなきゃとてもとても」
「そうであったとしても、成したことは大きいぞ! 大戦果だ」
「そのとーり!」
光が集まり、そこにアキラの姿が形作られた。乗員たちは、一斉に姿勢を正す。彼ら彼女らにとって、頂点種とは神に等しい存在だ。常識を持つならば、失礼な姿を見せられるわけがなかった。
だが同時に驚愕もしていた。今までドローンを操作して自分たちとコミュニケーションを取っていた頂点種が、自らの分身を映像として出力したのだ。その美しさ、存在感に種族を超えて圧倒された。
そんな周囲の反応を気にせず、自分に注目が集まったのを確認したアキラは偵察機を指さした。
「カイトのおかげで、無事に偵察機が確保できました! プラン2、成功です!」
「戦士カイト、万歳! 頂点種アキラの光あれ!」
「「「おおおーーー!」」」
スケさんが四本の腕を力強く掲げる。カクさんもそれに倣う。乗員たちも高らかに吠えて意思を示した。
「おかげで、現在の私たちの場所がわかった! はい、これが宇宙図っ!」
アキラの言葉に合わせて、カメリアが3Dのホログラムを浮かび上がらせる。彼女の手によって、勢力による色分けもされる。乗員たちがざわついた。
「そうであろうとは思っていたが、やはり辺境星域か」
「覇獣大王国……あそこか。くそ、だいぶ遠いぞ」
「だが、光輝同盟の勢力圏は遠くない。あそこまでたどり着ければ……」
カイトの知らない単語がいくつも聞こえてくる。スーツに情報要求してみれば、すぐに答えが返ってきた。辺境星域とは、様々な事情によりどこの星間国家も支配していない場所のことである。
宇宙は広い。その言葉が陳腐になるほど広い。全体から見れば万年単位の歴史がこの宇宙文明には存在する。もちろん、一つの国家が紡いだものではない。大小さまざまな国家が繁栄と滅亡を繰り返しながらバトンを繋いでいる。
力が足りない、コストがたりない、状況が許さない。本当に多種多様な理由により、放置された星域は多数かつ広範囲に存在する。そういった場所を、まとめて辺境星域と呼び表している。
なお、地球が天の川銀河と呼び表したこの銀河系。恒星の総数は2000億から4000億であるとされている。星域支配にどれほどの労力が必要か、語るまでもないだろう。
現在、巨大船がある場所はそういった数ある辺境星域のひとつである。複数の国家の隙間に存在し、どこもが領有権を主張している。実効支配に移らないのは、力が足りなかったり別の問題を抱えていたり。国家それぞれ、理由がある。
ともあれ、支配者のいない場所であるには間違いない。ラヴェジャーや宇宙海賊、犯罪者にとってはこれ以上ない都合の良い場所だ。ついでにいえば、他国に知られずに何かをしたい連中にとっても。
なお、覇獣大王国とは大国に分類される軍事国家である。精強な軍を保有していて、傘下にある小国も少なくない。
そして光輝同盟とは頂点種である光輝宝珠の元に集った大国による国家連合である。大国間の戦争を抑止し、協力関係を構築する組織。頂点種がトップを務めるだけあって、大変権威ある組織とされている。よほどのことがない限り、覇獣大王国のような軍事国家でも光輝同盟の決定に逆らえない。
「これより我が船は、光輝同盟の勢力圏へ向けて出発する! というかもうしている! たどり着いてしまえば、ラヴェジャーの大艦隊といえどもうかつには動けない! 私たちの勝ちだ!」
アキラが雄々しく宣言する。同時に、星図に一本の線が引かれる。おそらく、これが予定航路なのだろう。
「まだ油断ならない状況だけど、希望は見えた! 各員、引き続き状況改善に協力してほしい! 無事に助かった暁には、必ずその働きに報いる! 頂点種、光輝宝珠のアキラが約束する!」
「我らが光! 我らが導き手! 偉大なるアキラ! 解放者アキラ!」
スケさんが四つの拳を掲げて叫ぶ。つづけてカクさんも同じポーズで叫ぶ。
「我ら自由を与えられし者! 我ら大恩を受けし者! 献身を捧げよ! 奉仕を捧げよ! 偉大なる慈悲に報いるべし!」
「「「偉大なる慈悲に報いるべし!!!」」」
乗員たちが、声をそろえた。カイトはその盛り上がりに圧倒された。
『……これ、練習とかしたの?』
などと、胡乱な疑問を覚えたりもした。彼の益体もない思いはさておき、船は目的地に向けて動き出した。希望は見えた。しかし航路上にはまだ、危険が横たわっている。




