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遺書

作者: ちんあなご

ゆっくり読んでいってください。




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最近、自分が小さい時の記憶をよく思い出すんだ。

自分は、周りからは本当に女の子か?と疑われるほど、よく外で遊ぶ子だった。

田舎で育ったんだから、暇さえあればいつでも山や海へと出掛けていた。


春は、そうだな。絶対に海へと出掛けていた。

春休みなんかは、朝早くから友達と自転車で二人乗りをして、

近くの海までよく行ったものだった。

春の海は、おっきなイカが釣れるのだ。

春のイカは、秋のイカなんかの十倍くらいでかい。

あの竿にかかってくる引きはもう、私にはたまらなかった。


夏なんかは毎日、海で泳ぐか、クワガタを探しに友達の山へ行くかのどっちかだった。

私は、クワガタ探しがとても好きだった。

山に行くと、クヌギのとてもいい香りがするんだ。

別にクワガタが見つからなくても、よくあの山でくつろいだものだ。


秋は、食べ物だ。

もう言い出したらキリがないほど沢山の旨いものが世に出回る。

秋の猪は油がよく乗って、最高に美味かったな。

夜遅くまで、友達とバーベキューをしたことは、とても良い思い出だ。


だけど、冬は、あんまり好きじゃなかった。

だって何にもないんだもの。

地元は暖かくて、雪も降りやしない。

動物も、美味しい食べものも、遊ぶ場所も。

何もかもがなくなる時期だった。

冬ほどつまらない季節はなかった。



そうこうするうちに、私は、中学を卒業する時期になっていた。

そして、私は地元の高校に通うことに決めた。

別に頭も普通で、何もかもが普通の高校であった。

仲の良い友達は、みんな、地元を出て行った。

都会の方の高校にみんな行ってしまったんだ。

だから、高校のクラスでは、同じ中学の男の子が1人いるくらいだった。

今でも鮮明に覚えている。

入学式の日、私が先に教室にいたら、君が入ってきて、話しかけてきてくれた。

その日から、私たちは仲良くなっていった。

登下校もいつも一緒にしていた。



私のお母さんが癌で亡くなった次の日、君は私に告白してきたよね。

うちは片親だったから、お母さんが死んでしまったあの時は、本当に人生真っ暗だったんだよ。

そんな時、君は私に告白して来てくれたんだよね。

帰り道によく寄った、あそこのいつもの橋の下の河川敷だったよね。

私はあの場所がの匂いや、何もかもとても好きだった。

しかも、君はいきなり結婚なんて言うから驚いたよ。本当に。




まあ。嬉しかったけどね。

私には君しかいないんだってあの時本当に思ったよ。

あの時は、本当にありがとう。




結局、結婚することはできた。

けど、私たちは間違いを犯してしまった。

あの時、子供なんて望まなければよかったのに。

なんで子供なんて産んでしまったんだろう。

あいつのせいで、私は不幸になっていった。




あいつのせいで。



あいつは成長していくと、あなたにだんだん似てくるようになった。

あなたは唯一無二なのに。

だからいつも、得体の知れない、あなたの偽物が家の中にいる。

ほんと、心の底から気持ち悪い。

私の心がすり減っている時、君はいつも、私に寄り添ってくれたよね。

しっかり私のことを理解してくれた。


やっぱり私には あなたしかいない。



あなたは私のことを心配してくれて、

最後には、この病院に入院することを勧めてくれたんだよね。

全く恨んでなんかないよ。

だって私のことを思ってのことなんでしょ。

けど、入院してあなたに1度も会えなかったのが、少し、心残りかもね。


こんな、寒い日に、君は今何をしてるのかな。




けど私、少し疲れっちゃった。

ずっと良い人生だったのにな。

長くなったけど、今まで本当にありがとう。

あなたは、長生きしてね。

あなたに出会えて、私は幸せだったよ。


じゃあ。ばいばい。


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「先生、本当にこれ開けてもよかったんですかね。」

今朝、遺体を見つけた看護師が私に話しかけてきた。

この、今では遺体となってしまった、患者は私の受け持った患者だ。

昨晩のうちに、彼女の病室で、窓の格子にシャツを通して首を吊り、そのまま自殺したらしい。

ここまで自分のことを追い込んでしまってることに、

気づいてあげられなかった自分が、本当に情けない。

「けど仕方がないだろう。彼女の家族は、もう、息子さんだけなんだから。」

私がそう答えると、看護師は自分の足元をの方に目をやって、そして、黙った。


手紙の彼女は、双極性うつ障害と呼ばれるものと、解離性健忘という病気を患っていた。

解離性健忘とは、ある一定期間の記憶がなくなったり、

捏造されてしまうかなり厄介な精神病のことである。


・・・実際のところ、彼女の記憶は捏造されている。

まず彼女の中での旦那さんと彼女は、もう4年も前に、離婚している。

彼が、確か浮気をして、それがきっかけで離婚したらしい。

しかもそれは1度ではなかったらしい。もう彼の気持ちは冷めていたのだろう。

けど、その際に彼女が怒りで、彼の脇腹を包丁で刺してしった。

彼女は、その浮気のショックで解離性健忘を患ってしまい、過去のまま記憶が止まって、

この世の元凶を、自分の息子に当ててしまっているのだ。



その後、彼が彼女を連れて、この病院に診断しにきた。

母親と息子は、会わされないと判断されて親権は父親のものとなったらしいが、

そのすぐ後、彼は、浮気への罪悪感から1人でひっそりと、首を吊ったらしい。

そのため、遺された息子さんの親権は、その後、彼女に移った。

だから、きっと息子さんは、父と母が離婚して、母に親権がいったことしか知らないのだろう。



そして今朝、看護師が、遺体と、そのそばに置かれている手紙を見つけたのだ。

手紙には、亡くなった元旦那の名前が書かれていた。

もちろん、亡くなってしまっているため、この手紙の所有権は、息子さんに移る。

しかし、もしかすると、息子さんが読めないレベルのことが書かれているかもしれない。

そのため、息子に手紙を渡す前に、私たちで内容をチェックする必要があったのだ。



「しかし、ここまでくると、この家族みんな悲惨な運命ですよね。母親は、旦那さんがまだ生きてるものだと思って自殺したんでしょ?旦那さんは、追い込まれて自殺してしまってるし。何より息子さんが可哀想だと思いません?」


確かにそうだ。

両親が自殺した上に、何も悪いことはしてないのに、母親の記憶障害のせいで、

悲惨な人生を歩んできたんだろう。さらに彼は、これから天涯孤独のみだ。

こちらから、もしかするとサポートをしていく必要があるかも知れない。


「あまり患者の家族について、言及するのも良いことではないでしょう。

ところで、そこの引き出しの中にもう一つ手紙がありますよ。」


私は、軽く注意をしたのち、手紙をもう一つ見つけたため、そちらに話題を変えた。


「・・・・・院長。これ多分、息子さんの名前ですよね、?」


そこには今まで、彼女の口からは聞いたことのない人物の名前が書かれていた。

そう。その手紙は、恐らく、息子宛のものだったのである。


「・・・中身を、確認しよう。」


まさか息子宛に手紙があるとは思ってもいなかったため、動揺を隠しきれなかった。

そして、恐らく息子の名前が、書かれている手紙の包みを、ゆっくりと開けた。




あぁ。やっぱりか。手紙にはたったの一言だけが書かれていた。




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            死ね


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実は、過去に出した「未青年」という小説にでてくる少年の、自殺をしてしまった母親がこの遺書を書いた女性です。感想といいね待ってます。

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