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1話

警察へ連絡し、長ったらしい事情聴取も済むと、俺は警察署を後にした。


 警官からはなぜあんな場所にいたのかだの、いくら相手が暴漢だとしても暴力は良くないだのと散々詰められてしまった。幸いにも俺は中学生の身分のため刑事事件には発展せず、お咎めなしという沙汰となった。

 助けた女は婦警に保護され、事情聴取の後、保護者の元へ送られたとのことだ。

 パトカーで送るか尋ねられたが、大事にもしたくなかったので断った。


「こんな時間になっちまったけど、もう一回秘密基地行くか」

明日に完成させるつもりだったが、ソファが気がかりになって、俺は雑居ビルへ歩き出した。


⭐︎


 秘密基地に着くと、床にこびり付いていたおっさんの血を拭き取り、ドアの横に立て掛けていたソファを運び込こんだ。


「よし、完成!」


 訳の分からない事件のせいでケチが付いたが、念願の秘密基地が完成した。

半年ほど前から拾った家具やら、バイト代で買った雑貨類を持ち込みコツコツと進めてきた努力が実ったのだ。

 

 寛ぎたかったが、時間も時間なので、俺は帰宅することにした。


「明日は寛いでやるからな!」と誰もいない空間に話しかけるほどテンションが上がっていた。



⭐︎


 学校が終わると逸る気持ちを抑えながら雑居ビルに向かった。

 いつものように秘密基地の扉を開けようとするとまた。

人の気配があった。

 

「いや、昨日に引き続きなんなんだよ」

例の件もあり、緊張しながら扉を開けると、そこにはショッキングな光景はなく、制服を着た昨日の女がソファに腰掛けていた。


「まだ座ってなかったのに!」

「そこ?」


女が言葉を続けた。

「昨日は助けてくれてありがとう。木葉くん。おかげで私の純潔は守られたわ」

事件の詳細は聞いていなかったが、未遂だったらしい。

「なんで名前知ってんだよ」

「刑事さんに聞いたもの。意外だったわ、あなた中学生だったのね。てっきり大学生くらいかと思ったわ」

「そうかよ、てかソファから降りろよ」

「隣に座ってもいいわよ、あと年上には敬語を使うものよ?中学生くん」

揶揄うようにくすくすと笑う女


「あんたみたいな不法侵入者に払う敬意はないね」

「不法侵入者は貴方もでしょう?」


ぐうの音も出なかった。


「薊菊花よ、あんたじゃなくて名前で呼んで」


完全にペースを握られた俺は大人しくこの女の隣に座ることにした。


 隣に座るとこの薊という女の異質さがわかる。美しいのだ。きっと生で見る女優などはこんな感じなのだろうとただ見惚れてしまった。不法侵入者にそんなことを悟られるのは何故か悔しいと思い言葉を続けた。


「薊…さんはなんでこんな所にいるんだ…ですか?」

「王子様にお礼を言いにきたのよ。…改めて昨日は本当にありがとう」

 真剣な眼差しで言われると少し気恥ずかしくなった。


「別に…おっさんがキモかったから蹴っただけだし…」

「それでも私は助けられたし感謝してる。お礼ならなんでもするわ」

「別に礼とかいらないぞ」

「こっちの気が収まらないのよ、お礼に彼女になってあげましょうか?私襲われるほど可愛いみたいだし」


 反応に困るブラックジョークである。


「男子中学生を揶揄って楽しいかよ」

 楽しいわ、とくすくす笑いながら薊は言葉を続けた。

「貴方中学生でしょ?お礼に勉強を教えてあげるわ。私これでも南守学園のトップなのよ?」

 南守学園はこの地元では有数の新学校だったはずだ。年間何人もT大に行くとか聞いた事がある。

「いや、勉強好きじゃないし…あとバイトとかあるから…」

「言い訳は聞きたくないわ!貴方は南守に来るのよ!」


 えっ…お礼じゃないのか?

 完全に目的と手段が入れ替わってやがる。


 そして、俺はこの日から痛感する事になる。

 薊菊花からは逃げられないと。


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