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愛猫の埋葬

作者: 葉沢敬一

 桜の木の下には死体が埋まっていると書いたのは梶井基次郎だったか。イメージが先行していて事実かどうかなんて確かめられた話ではない。ただ、桜の多くが人工的に植えられたものであるのは確かだろう。公園、学校、工場に多く見られることからそれは確実。 工場も? と思った人は工場で働いたことがない人だろう。古い工場の緑地には桜が植えられていることが多く、春先の新入社員歓迎会を桜の木の下で行うところもあるくらいだ。まあ、それだけの敷地を持つ大手企業だからということもある。

 だから、死体が埋まっているという話は眉唾である。

 私が今、庭の桜の木の下を掘っているのは愛猫タローの遺骨を埋めようとしているからである。腎臓病で12歳で死んだ。火葬し骨壺を一年保管したが、自然に帰そうと思った。

 元々、タローは野良猫……いや、その人なつっこいところから誰かに飼われていたと思われる節があった。逃げ出してきたのか、捨てられたのか。首輪はなく、去勢もされてなく、保護してますというチラシを近所に配っても反応がなかった。

 獣医に診せたら推定1歳ということで、保護した日の一年前が誕生日になった。

 タローはよく窓からこの庭を見ていた。春は桜の花びらがひらひらと舞い降りるのを目で追っていた。完全室内飼いにしたので外に出すことはない。それでも、眩しそうに外を眺めながら時々鳴く姿をみると、これで良かったのかなと思う。猫の飼い主なら皆思うだろう。長生きを取るか、自由を取るか。前者の声が猫飼いの人々に多いが、人間に当てはめてみて、果たして怠惰に長生きしたのと、短くてもやるだけやりきった生き方とどちらがいいのかと。

 どちらにしてもタローは普通に生き、猫のよくある病気で死んだ。骨くらい自由にさせてやろう。

 大汗かいて穴を掘り、骨壺の中身を空ける。

 金色の砂がぶちまけられた。

 あれ? 骨だったはずなのに。

 拾って見ると、全部金になっている。骨壺の残りは白い骨だ。それを穴に空けてみると金になっていく。

 何百万? もの価値がある金を見て、しばらく考えたが、私は上から土を被せ始めた。これを売るなんて考えられない。タローとの思い出は金には換えられない。ならば、埋めておくのが正しい選択だと思った。

 くたびれた愛用の猫のおもちゃを入れ、土饅頭を作って一段落したところで縁側に座ってビールを開けた。

――桜の木の下には思い出が埋まっている。

 強欲なら、骨ならなんでも桜の木の下に埋めようとするだろうな。私には狸が使う葉っぱのお金にしか見えなかったけど。

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