せいきゅう
「……はいはい。すみませんすみません、許してください」
カタリナへの苦情の対応に苦心するシドを見ながら、ふと自問してしまう。
俺はなんでここにいるんだろうな。
カタリナを押し付けれればそれで良かったのだが、シドの切羽詰まった縋るような目線と、カタリナの冷たい視線に根負けして、ギルドハウスに居着くようになってしまった。
まあ負担を分散できるのなら、それだけで十分なんだけど。
あ、このお茶美味っ。
♧♧♧♧
「なんで私があんなことしなくちゃいけないんですか!?」
余程自分の役回りを気に入らなかったのか、一人涼んでいた俺の元に直接苦情を言いに来た。なぜに。
「ギルマスだからだろ」
「それについて私はOKしてません」
首を振って断固拒否の姿勢をとるシドを哀れに思う。カタリナがギルマスなんてやるわけないので、残るはお前しかいないんだよ。
「あなたがギルマスやれば良いじゃないですか。それが妥当です」
「部外者にギルマスなんてできるわけないだろ」
その発言に呆気に取られるシド。
なんだか平行線になりそうな予感がしたので話題を変える。
「何がそんなに不満なんだよ」
「彼女です彼女!! 毎日毎日人を斬って……管理不行き届きとかで謝ってるのはこっちなんですよぉ……あなたからも、あの子になんとか言ってくれませんかぁ?」
カタリナへと視線を向ける。積み木を斬っていた。
「お前から言えよ」
「無理ですよ! 斬られたくないですもん!!」
いっそ清々しいなこいつ。俺だってやだよ。
「兎に角! あなたがギルマスになって彼女を
ガチャ
「すいませんすいません、出来心なんです」
変わり身はやいな、客が引いてるぞ。
「あ、あの急に謝れても……」
「……あれ? あの子の被害者じゃないんですか?」
そう言ってシドは今やって来た彼女のことをまじまじと見つめる。
きっちりとしたスーツに眼鏡。短く揃えられた髪に、真面目で几帳面そうな顔つき。
どことなく漏れ出る、仕事が出来そうな印象。
苦情に来たようには思えない。というよりむしろ……
「私はギルド審査官です」
やはり審査官だったか。
シドがピンと来てないようなので、こっそり教える。
「審査官ってのはそのギルドが運営するのに適性がどうか判断する組織の一員だ。NPCで構成されており、本部は不明。ただ一つ言えるのは、ギルドあるところに審査官あり。運営する上で、切り離せない存在ってことだけだ」
「そ、そんな審査官様が何の用で……?」
声が震えている。権力に怯えているようだ。
「あなたがここの責任者……ギルドマスター様ですね」
「は、はひ……」
「では、こちらを書いていただけますか?」
提げていたバックから取り出されたのは一枚の書類。
住所や電話番号、ギルド名やメンバーの名前と、様々な項目の欄が用意されている。
「こちらを期限内に提出して貰います。お近くのポストに投函してくだされば構いませんので」
その言葉にホッと胸を撫で下ろすシド。要件が大したことじゃなくて安心したんだろう。
だからこそ、その後の絶望の表情に、不覚にも飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
「後、こちら。請求書です」
ピクリとも笑わずそう告げる審査官と、クスリとも笑えず引き攣った顔で白目をむくシド。
なんとも対照的な光景だった。