あだうち
「? 今日はなんだか騒がしいね」
祭りでもやってるのかな、と呑気に話すドラッグをよそに外の戦闘は激化している。
ここら辺はPKギルドの巣窟だから、月に3回ほど起こるのだ。
弔い合戦が。
「てめぇ! この前はよくも殺しやがったな!」
「囲め、囲め」
「ヒャッハー!! 惨殺してやんよ!!」
ヤクザの事務所に突撃する警察官みたいな怒号を上げて、どったんバッタン大騒ぎをしている。
あ、ミルルが大勢の男に追われている。酷い絵面だ。
「全く、無闇矢鱈にPKをするからこんなことになるんだよ。自業自得だね。あ、そう言えばこの前あげたポーションの効果どうだった?」
無視無視。ツッコんだら負けなんだよ。
「失礼する」
二人でのんびりと災害が過ぎるのを待っていると、見覚えのある顔が入ってきた。
今週に入って3度目。
毎度毎度律儀に弔い合戦をしてくるギルド、『バウンティ』のギルドマスターのギムレット、奴らの親玉だ。
その猛禽類の如く険しい目は鋭く、象のようにでかい体躯に、カンガルーみたいに立派な足腰。
新種のオーズみたいな怪物は開口一番、こう尋ねた。
「鎌鼬の噂を知っているか?」
俺は知らないと答えた。ドラッグも知らないと答えた。
カタリナも無言で首を振った。
その返答に対し、『そうか』と短く一言答え、肩を落とし店を出て行った。
「カタリナ。お前、あいつを殺しでもしたのかよ」
いつのまにか真横で寛いでいた鎌鼬さんに、そう尋ねるも
「知らない」
予想通りの返答しか返ってこなかった。
改めて外を見る。
悲しみを隠すように、手にした身の丈ほどある片手斧を振り回し、虐殺の限りを尽くしている。
その姿はまさしく『鬼神』と呼ばれるに相応しい。
「ま、あの筋肉ダルマを殺すなんて不可能か」
身内が恨みを買っていたのではと不安に思ったが、杞憂だったな。
ハハハッと笑っていると、鬼神の首が滑るように地面に落ちる光景が目に入る。
血に濡れた刃を手に不思議そうにしている彼女の横で、ハハハッと乾いた笑いをあげることしか出来なかった。