きんぐぼんびー
ここら辺に住んでいるプレイヤーはそう多くはない。
ただでさえ治安の悪い区画だ。まともな思考ならここに住み着こうとは思わない。
小規模なPKギルドがいくつか。
それを除けば、俺とカタリナ。それからドラッグ。後もう一人ぐらいしかいない。
自然そんな状況だから、トラブルが起きた際頼れる場所も限られてくる。
「で、なんでその相談を僕のところに持ってくるんですかぁ?」
困ったような顔をして頬を掻くのは、我らがミルル君。
小柄な見た目でいかにも女性っぽい見た目をしているが、これでも立派な男の子なんだ。
そして立派にPKギルドのマスターも努めている働き者でもある。
「確かに僕はあなたに恩はありますけど……その人は僕の手に余りますよ……このやり取り何度目ですか!?」
泣きそうな顔でそう懇願される。
やっぱり駄目か。
週に二、三回というペースでうちの殺人鬼をこの子に押し付けようと交渉しているが今までに成功した試しが無いからな。
ズズズッ
「ん? このお茶甘すぎない? 前の方が良かったな」
「ええっ!? 折角取り寄せたんですけど……」
「でも、好みじゃないし」
「もうもうもう!」
ズズズッ
♧♧♧♧
「で、なんでその流れでこっちにくるのかな?」
「うるせぇ、引き取れ」
ここら辺で頼れる人、NO.2だ。
正直、1位と2位の間に差が開きすぎてる気もするし、他のやつらとどっこいどっこいなのだが仕方ない。
「僕も薬の調合で忙しいんだよ。あんなリッパーのお守りをするような時間は、生憎持ち合わせて無いね」
今まで見たことのないような苦々しい顔で吐き捨てるように言う彼は、彼女に相当なトラウマがあるらしい。
そのポーカーフェイスを冷や汗で埋め尽くしていた。
「だってよ、カタリナ」
「…………何が?」
背後からぬぉっと出てきたカタリナは、生気のない目でそう問いかけてくる。
「…………」
ドラッグが珍しいくらい微妙な顔で固まっている。
「取り敢えず、引き取ってみない?」
「帰れ」
♧♧♧♧
「結局、ここに落ち着くのかよ……」
表情筋をピクリとも動かさない少女を前にして、怨嗟の声を捻りあげる。
「……………」
「………うっ」
こちらの声に反応してか、その無機質な瞳がじっとこちらの目を見ている気がした。多分気のせいだけど。
勿論、俺にだって後ろめたい思いがないわけじゃ無い。
こんな見た目だけはいたいけな美少女に対して、キングボンビーのような扱い。出るところに出たら捕まるし、釈明もできない。
「ただなぁ……」
横に転がる首無し死体を見つめる。
本人はさっきまで仕切りに、「……あれ、また間違えたかも」と呟いていたし、今度はいつ俺が間違って殺されるかわかったものではない。
「……はぁ」
恋に悩む乙女のような深いため息を吐きながら、まだ自分の首が斬られたことがないことに、少しの疑問を抱くのだった。