まっちぽんぷ
バタンッ!!
いつもの酒場でお酒を気持ちよく飲んでいると、突如として隣に座ってたやつが倒れた。
首が取れたわけではないし、そもそも今日ここにやつはいない。
アルコールを飲んだわけでもないだろうに。
だとすると食中毒か、この辺りに来て間もないんだろうな。
そう結論づけて、周りの客のように飲食を続ける。
「お、おい? どうなってりゅんだ、この店は?」
まだ意識はあったらしい。呂律の回らない舌で何か訴えている。
本当に初心者らしい。何か勘違いしてる男は必死に言葉を続ける。
「おりぇは、毒を盛られたのか? なぜ誰も近寄ってすら来ないんだ? 俺は、俺は死ぬのか?」
そう一人寂しげに呟くと、間もなく目を白黒させ意識を失った。
俺はポケットをまさぐり、銀貨の詰められた皮袋から銀貨を3枚取り出した。
それを自分のポケットにしまい、男を担ぐ。
目的地は一つ、真犯人のもとだ。
♧♧♧♧
その薬屋は人目を引く外観をしている。
一切隠れようとする気のないその奇抜さは、店主の頭のおかしさを如実に表現していた。
「やあ、リード君。そっちはお客さんかな?」
人の良さそうな笑みを浮かべる好青年。側から見た評価はそんな感じだろうか。
ただ、どう見ても意識を失っている成人男性を担いで来るという光景を前にして、その笑みが全く崩れていないところから、内面はお察しである。
「ああ、酒場で倒れた客を拾ってきた」
そう告げると、カウンターから薬を一つ取り出してきた。
「うん。あの店なら、これが治療薬だよ」
症状ではなく、店ごとに治療薬をわけているという事実に、もはや動揺も何もない。
早く捕まんないかな? こいつ。
「そうだ、ドラッグ。新しいポーションを入荷したんだって?」
ここに来たついでに、気になる情報の真偽を確かめる。
俺も一応、冒険者でプレイヤーだ。
そしてこいつは頭はおかしいが、一応腕の良い薬剤師である。
そのことをやっと思い出したのか、その話題に対して今までよりも笑みを濃くして「耳が速いね」と一言。
カウンターから取り出されたのは、どこまでも透明で見てるこっちが引き込まれそうなほどに透き通った液体。
冒険者の通念として、無色透明であればあるほど、効果の高いポーションであると言われている。
「試供品だよ」
その言葉を背に、俺は薬屋を出て行った。
ポーションを道端にぶちまける。
数匹のネズミが水分を求め、その水溜まりに舌をつける。
最初は恐る恐る、次第に勢い増すその舐めっぷりは止まるところを知らず……
端の端まで舐めきった後、酸素を求める魚のように口をパクパクさせ、一心不乱に走り回ったかと思うと
図ったように、一斉に事切れた。
それは中毒症状に酷似していて
「だから、あいつ嫌いなんだよな」
彼の名前は立派に体を表していた。