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第58話 ゴーレムとプラットホーム

 防壁の内側に戻って来た俺たちは、東の門から直線で十数メートル離れた位置をレールの始点とした。

 あんまり門扉(もんぴ)に近い位置を始点にすると、連結してトロッコが長くなった時に入り切らなくなってしまうからな。


 十分に距離を取った位置に目印をつけ、まずは新造する客車のデザインを決めることにした。


「ガイアさん、俺の記憶の中にある電車の車両を仮想造形(モデリング)として表示してください」


〈了解しました〉


 電車をそのまま走らせるつもりはないが、何かの参考になると思ってモデルを表示してみる。

 だがしかし、表示された電車のモデルは俺が想像していたよりもずっと大きかった!


「うわわっ、すっごいでっかい物が出て来ましたよ!? ガンジョーさんが元いた世界では、こんな大きな物体が走っていたんですか!?」


「あ、ああ……! そのはずだよ」


 表示された車両はたったの一両だ。

 でも、改めて見ると何十人も詰め込めるだけあって車両って大きい……!

 これを何両も連結させた物が世界中で走っていたと考えると、あの世界の科学というのはすごいと感心せざるを得ない。


「ん~? でも、何かこれ……ちょっと不自然なバランスしてますね」


「ギクッ……!」


 マホロの指摘に俺は首をすくめる。

 目の前の3Dモデルは、俺の記憶の中にある電車の車両を再現しているわけだが……普段じっくり見ることがない車両の下部、車輪などのモデリングは非常に甘い。


 側面や車両の中は割としっかり描写されているものだから、下の方の出来の悪さがよく目立っているんだ。

 ゆえに電車を見たことがないマホロでもすぐに違和感を覚えた。


 ガイアさんは俺の記憶から鮮明に情報を引き出してくれるけど、そもそもあまり記憶していない情報は頑張っても引き出せない。

 ほぼ毎日乗り込んでいた車両の中は意識せずとも記憶が積み重ねられていた。

 でも、意識していなかった、見えていなかった部分はどうにもならない。


「まあ……これは参考だからさ。こんなに大きな客車はいらないし、ここから小型軽量化していこう」


 車輪に関しては既存のトロッコを参考にすれば、とりあえず動かせる物にはなるさ。


「まずは何人乗りにするのかを決めないといけませんね。ガンジョーさんが食べ物を届けてくれる今となっては、自分からジャングルに行きたがる人はそうそういませんし……」


「何十人も乗せることを考える必要はなさそうだな。それこそ、十人以下を想定しても良さそうだ」


 俺は車両の3Dモデルをいじって、横の長さを短くする。

 合わせて車輪も小さくし、数も減らしておく。


 座席は進行方向を前にして並べるのではなく、外壁に沿って左右で向かい合うように並べていく。

 こっちの方がスペースを広く感じるし、乗り降りもしやすい。


 ただ、残念なことに座席にクッションは採用出来ない。

 羽毛、スポンジ、綿(わた)などの素材が手に入らないし、究極大地魔法で作れる物の範囲外でもある。

 でも、いずれはこういう素材も手に入れて、ふかふかのベッドなんかも作りたいものだ。


 ヘルガさんが言っていたけど、この世界にも寒い冬というものがあるらしい。

 今は早朝と夜の風が冷たいくらいで過ごしやすい気候だけど、それこそ雪が降るような季節が来る前に、防寒具や保存食をたくさん用意しておきたいな。


「とてもいい感じになって来たと思います! でも、入口が少し高いところにありますね。ハシゴを用意しないと乗りにくいと思います」


「そこに関しては抜かりないよ。ちゃんと足場を用意するからね」


 車両の床と高さを合わせた簡易(かんい)プラットホームの3Dモデルを作る。

 素材は防壁の外の瓦礫を使って、色合いはコンクリート風味に。

 ホームに上がる方法は階段ではなく、緩やかなスロープにしよう。


 駅のホームというよりは路面電車の停留所っぽくなったけど、車両の規模から考えてもこのくらいで十分だろう。


「おおっ、足場の高さと客車の床の高さがピッタリ合ってますね! これならノルンでも簡単に乗り込めそうです」


「ニャッ! ニャッ!」


 ノルンは不満そうな鳴き声を上げながら、その場でぴょんぴょんジャンプする。

 あのくらいの高さなら猫の跳躍力(ちょうやくりょく)で跳び乗れると言いたいのだろう。


「ノルン、よしよ~し!」


 それが伝わっているのか、いないのか……。

 マホロがノルンの頭や体を撫でまわす。


「ニャ~!」


 ノルンは機嫌を直したようで、嬉しそうに鳴く。

 マホロに構ってもらえるのが何より嬉しいんだろうな。


「さて、客車とホームの3Dモデルは完成したから、後はレールを数メートル敷いてみてから創造(クリエイト)に移ろうかな」


 廃鉱山で使われていたレールそのままの3Dモデルを置いて、先にレールを作成する。

 たまに忘れそうになるけど、地の魔宝石の魔力圏(ゾーン)にある地属性物質は何でも素材に出来る。それが離れた位置にあってもだ。


 レールの作成を命令すると、霊園のある方角から鉱石がふわふわと飛んで来てレールへと形を変えていく。

 そう言えば灯台を建造した時に余った素材が、そこらへんに置きっぱなしだったな。


 レールが完成した後は、いよいよそこを走る客車の作成だ。

 外が見えるように窓も付けるし、ドアの開閉もスライド式にする。


「よし、これで作ってみよう!」


 上手くいかない部分があったら、おじさんに相談だな。

 そうなった場合でも、俺の頭の中にあるイメージを出来るだけ具体的な形で出力しておくことには意味があるから、こうしてマホロと意見を出し合いながら客車を作って来た。


「ガイアさん、お願いします。プラットホームの方も一緒に作ってください」


〈了解しました〉


 またもや霊園の方から素材が飛んで来て、それが車両として組み上がっていく。

 プラットホームの方は瓦礫の海から瓦礫が飛んで来て、平らに積み上がっていく。


 時間にして数十秒で、客車の試作一号とプラットホームが完成した!


「いつ見ても、こうして素材がひとりでに組み上がっていく光景は圧巻です!」


「魔法を使っている俺自身も全然見飽きないよ。毎回新鮮な驚きがある」


 ガイアさんと究極大地魔法を褒めちぎりつつ、俺たちはスロープを上がってホームに立つ。

 規模こそ大きくないが、ここに立つと電車通勤の日々が頭をよぎる。

 懐かしいような、あまりいい気分にならないような……複雑な気持ちだ。


「さあ、ガンジョーさん! 客車に乗り込んでみましょう!」


「あ、ああ……!」


 マホロに手を引かれ、俺は出来上がったばかりの客車へ乗り込んだ。

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