第14話『特訓 ② どこかで聞いたような能力の話』
「『誓約』?」
言葉としては知ってはいるが、あまり使い慣れぬその言葉にサヤは聞いた言葉をそのまんまに復唱する。
「『HUNTER○HUNTER』?」
そして出た某有名漫画の名前に、アキハルは思わず苦笑い。
「確かに元ネタではあるんだけどな。ていうかよく知ってたな」
「本棚にあったから、この前読んだ」
「ああ……」
ご丁寧にも名作を余すことなく揃えてあるこの部室に呆れつつ、説明を省けたことに対する感謝を心の中で述べる。
「まぁ要は、あの漫画に出てくる内容と同じだ。『制約』と『誓約』。自分の能力にその二つをかけることによって、能力の幅が向上するってやつ」
「ふーん……」
イマイチ興味なさげだが、一応説明はしておかなければいけない。
「まず『制約』。この能力はこうしなければ発動できない、という感じで発動などに条件を課すもの。一番わかりやすいのは、俺やお前のように物を媒介にしなければ発動しないタイプ」
そう言ってアキハルはサヤの腰の鞘と、自分のマントを指差す。
「俺らの能力は媒介とした物がないと発動できない。俺もこのマントがないと『嫉妬の黒衣』は発動できないし、お前もその鞘がないと刀は抜けない。これがいわゆる『制約』だ」
「……なるほど。能力発動に対する条件」
「そうだ。俺が知ってるのは他に、水が近くにないと発動できないもの。太陽が出ていないと発動しないもの、なんかがあった」
「いろいろあるんだね」
サヤの言う通り、『制約』は十人十色。その能力にあった条件がそれぞれ当て嵌められている。自ら設定するものもあれば、能力を築いていくうちに自然と設定されたものまで千差万別だ。
かくいうアキハルも、『制約』という概念を知ったあと、自分の能力がそれに当てはまるのだと気付いた口だ。
「それじゃあ『誓約』は?」
慣れてきた焔のコントロールを微調整しながら、サヤは尋ねる。
「『誓約』の方は、少し複雑だ。使っている人間もあまり多くないしな」
そう前置きして、アキハルは続ける。
「『誓約』。これは自らの能力に何らかの誓いを立てることによって、能力をより向上させるもの。例えば、「自分の能力で敵以外を傷つけない。もし傷つけた場合、一定時間能力が使えなくなる」。こうした誓いを立てることによって、能力は飛躍的に向上される。逆に誓いを破れば、自らが設定した罰が発生し、能力は減衰する」
「要は、メリットとデメリット。そのデメリットが大きい分、メリットも大きい」
「そういうこと」
相変わらず理解の早い自称弟子に関心しつつ、補足する。
「この二つの要素が『ハンハン』を模して作られたことから、厨二病界隈でももっぱら『制約と誓約』と呼ばれるようになった」
漫画やアニメからヒントを得る。この世界ではよくあることだ。
だが、
「だけどな、実はそうじゃないんだ」
「そうじゃ、ない……?」
今までの説明を否定する一言に、さすがのサヤも首をかしげる。
「『制約と誓約』は漫画の中での話。実際の——現実での俺たちの能力に対しては、ちょっとだけ違うんだ」
「? 何が違うの?」
「さっき言った「デメリットが大きいほど〜」とか、「『制約』を課せば〜」とか、実はそんなことをしてもしなくても能力の大きさは変わらないんだ」
「??? どういうこと?」
やはりわからない、といった具合に頭にクエスションを浮かべるサヤ。
それはそうだろう。なんたって、さっき言った説明を全否定しているようなものなのだから。
「『制約と誓約』に俺たちの能力を底上げする効果なんて実はない。あるのは、本当にそうなのだと『思い込ませる』力なんだ」
「? 思い込ませる……力?」
「そうだ。「こんな条件を付ければ能力が強くなる『はず』」。「こんなデメリットがあれば能力が強くなる『はず』」。こうすれば〜ああすれば〜、っていう自らに思い込ませる力。それが『制約と誓約』の力なんだ」
「???」
「たとえば、さっき言った『敵以外を傷つけない』という誓約。そういう誓約を自らに課したとして、実際にこの誓約を課しただけでは能力は向上しない」
「そうなの?」
「ああ。もしこれを課したやつが「こんなことをしても力が強くなるはずがない」なんて思っていたら、いくらややっても能力は強くならない。逆に、「もしもこの誓いを破れば俺は終わりだ……」くらい本気で信じていれば、能力は想定以上に向上される」
厨二病の力は思い込みの力。妄想と想像によって自らを設定する。そして自らの設定をよりのめり込めるか、信じ込めるかどうか。それこそが厨二病の力の源なのだ。
「思い込み。強迫観念。なんでもいい。とにかく、自らに課した設定を信じられるかどうか。その思い込みが強ければ、『制約と誓約』がなかったとしても強力な力となる」
「なる……ほど」
少々歯切れが悪く、サヤは答える。
「わかりづらかったか?」
「……少しだけ」
「そうか。まぁとりあえず、俺が言いたいのは、能力を強くするにはそういう方法もあるってことだ。気になるなら詳しいやり方——」
「いい」
アキハルが言い終わる前に、サヤは早々に申し出を断る。
「いいのか?」
「いい。確かにそのやり方は強くなれるのかもしれない。でも、そういうやり方は、わたしのやり方じゃないと思う——から」
そこまで言って、サヤはちらりとこちらを見る。
アキハルの提案を無下にしたことを気にしているのだろうか。
「そうか。なら別にいい。そういう選択肢もあるってことを、頭の隅っこの方にでも置いておけばな」
「うん。わかった」
いつもの簡潔な答えをサヤは返す。
正直な話、サヤが断ることは想定していた。
なんとなくだが、そうだろうなと。
決して安易な方法とは言い難いが、決して正攻法ではないそのやり方を、肯定はしないのだろうと。
弟子が出した選択を少し嬉しいと思いつつ、しかし決して顔には出さずにアキハルは顔を上げる。
「それじゃ、続きすっか!」
「うん!」
二人は再び鍛錬を再開する。




