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コキュトスでも涙は凍らない  作者: ひゐ
第二章 雪原に残すは命の足跡
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第二章(01)

 ルチフが村に慌てて戻った頃には、もうすっかりあたりは暗くなっていた。雪は降っていないが、風が強くなり始めている。広場の中央にある大きな焚き火が風に揺れていた。普段なら、もう誰もが外に出ようとしない天気だが、ルチフが戻ってきてすぐに村は騒がしくなった。


「一体どうした? 何事だ?」


 その騒ぎにケイは扉を開いた。そして目を大きく見開いた。

 それもそのはずだった。目の前にいたルチフは、見知らぬ少女を背負っていたのだから。それもただの少女ではない――長い銀髪が、風に遊ばれていた。


 銀の髪の女の子。集まってきた村人の中から声がする。その声が広まり、また家々から村人が出てきて、より騒がしくなる。吹雪が来る前とは思えないほどの騒がしさだった。


「お、オビスが……牧場から出ていて……」


 ケイに尋ねられるよりも先に、ルチフは説明をし始める。だが、言葉はたどたどしくなってしまう。それは息が上がっているから、という理由だけではなかった。

 同じ髪色の、女の子がいたのだ。


「狼に、襲われてて……それで、この子が……この子が倒れてたんだ、雪の中に……弱ってる……それとオビスが、死んで……狼も……何匹か……」


 報告しなければいけないことは、たくさんあるのだ。しかしそれよりも。それよりも、だ。

 銀髪の人間が、自分以外にいたのだ。


「落ち着けルチフ……落ち着いて話せ……」


 ケイは目を瞑ったままの少女を見つめ、それから。


「……牧場から出てしまったオビスが、狼に襲われて死んだのか?」


 ルチフは激しく頷いた。


「全員、出て……この子を見つけて、守るために……それで一頭が死んで……それで……」

「よし。よし。大体わかった」


 そうしてケイは、集まってきていた村人達へと声を上げた。


「男達! 聞いたな、オビスが一頭死んだらしい……吹雪になる前に、解体、回収するんだ。それから……狼の死体もあるのか? とにかく、吹雪く前に終わらせて来てくれ!」


 響いた声に、村の男達がすぐに各々の家に戻る。そして道具を手にすれば、牧場へと向かって歩き始める。


「――さてルチフ。その子をこちらへ」


 それを見届けて、ケイは家の中へ入っていく。ルチフも少女を背負ったまま続いて家に入ると「ここに」とケイに言われて、少女をベッドに横にした。少女は未だに目を覚ましていない。まるで凍っているかのように、目を瞑っていた。


「彼女の手当をしなければな」


 ケイは暖炉に薪を新しくくべた。ぱちぱちと爆ぜる音がし、部屋がより温かくなり始める。と、ケイはてきぱきと動きながら、


「ルチフ、お前も牧場に行け。オビスが外に出てしまったのだろう? それに一頭が死んで……他のオビスを落ち着かせに行くんだ。それと……オビスが出たということは、柵が壊れた、ということか?」

「はい……はい……」


 少女が横たわるベッドの隣で、ルチフは頷く。けれども、この少女から離れるわけにはいかなかった。もし離れている間に、彼女が死んでしまったら。それでも、ケイは、


「なら、なおさら牧場に行け。男達に指示を出して、急いで柵を直すのを手伝ってもらうんだ」

「で、でも……この子、は……」

「安心しろ。私がちゃんと手当てする……場合によっては服の下も診なくてはいけなくなる。だから、さあ。心配する気持ちはわかるが、ここにいても何もならんぞ」

「……………はい」


 やがてルチフは、渋々と頷いた。

 と、いままでじっと家の奥からこちらを見ていたチャーロがやってくる。


「――ルチフと同じ髪の女の子だ」


 チャーロも驚いた表情で少女を見ていた。そこにケイが、


「チャーロ、お前もルチフと一緒に牧場へ行け。手伝ってこい……ルチフが落ち着かないから、手助けしてやるんだ」

「わかった!」


 そうして、さあ行こう、とチャーロに目で言われたものだから、ルチフはチャーロと共に、家を出ることにした。


「……ケイさん」


 出る際に、ルチフは振り返った。


「その子を……助けて……」


 声は震えていた。声だけではない。手も震えていた。

 やっと会えたのだ。


「……任せておけ」


 老婆の力強い声が返ってきた。

 口を固く結んで、ルチフは暗く凍てつくように寒い外へと出ていった。

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