第五章(01)
銀髪の人間達によって広場に集められた村の住人達は、あの車輪のある箱のうち、大きなものに詰められていった。順に乗せられ、限界近くまで人数が入れば、銀髪達はその箱を施錠し、次の箱へと村人を乗せていく。
「……一体何をする気だ?」
村人の最後の一人、ケイは銀髪達を睨んだ。だが銀髪達は何も言わず、目で早くしろと催促する。すでに乗った村人達は恐怖に震えていた。子供ですらも泣くことを忘れて震えていた。
仕方なく、ケイも渋々箱の中へ乗り込んだ。
「こいつが最後の一人だと!」
と、銀髪の一人が声を上げ、ケイの背後でどんと音がした。
「……チャーロ!」
ケイが振り返ると、チャーロが投げ込まれていた。
「いてててて……あ、ばあちゃん……」
チャーロは顔をしかめながらも起き上がり、祖母の姿を見るや否や、くしゃりと顔を歪めた。
「ばあちゃん! 大丈夫? 怪我してない?」
だが、その言葉を押し潰すかのように重々しい音がして、箱が閉じられた。そして中は暗闇に満ちた。息をするのも苦しいほどの、暗黒。
銀髪の一人が、外から扉に鍵をかける。
「……まずまずの人数だな」
それを見届け、カイナは仲間の一人が書く報告書を覗いた。そこへ別の銀髪が走ってくる。
「もう村に人間はいないようです……これで間違いなく、全員かと」
「……そうか」
カイナが空を見上げれば、空は黒に染まりつつあった。夜が近かった。そして炎上する村の家の炎が、風に揺れていた。煙も長くなびいている。
「――風が出てきたな。近いうちに吹雪になるかもしれない」
カイナはそう言い、箱の一つへ向かっていった――皮の鞘に入った剣を手にして。
「国へ戻るぞ、村人を、我が国の一員として、運ぶのだ」
その指示に、銀髪達が声を上げ、機敏に動き始める。
カイナは目指していた箱にたどり着くと、中へと入っていった。その箱の中は、先程村人を詰めたものとは全く違い、明かりや調度品があり、室内のように整えられていた。向かい合うようにして座席もあり、すでに一方にはベアタが腰を下ろしていた。
ベアタは、カイナが入ってきた瞬間、きっと彼を睨んだ――その膝には、気絶したままのルチフが寝かされていた。
カイナは何も言わずに、ベアタの向かいに座った。間もなくして、箱が動き始める。他の銀髪が乗った箱も、村人を詰め込んだ箱も動き出す。オンレフ村を離れて、雪の中を進んでいく。
「……ベアタ様は、この新しい『雪車』を見るのは初めてですね。以前のものより耐久が上がり、移動速度も上がっています。国から崖下までの長い距離も、問題としないものです……遅くても、明日の夜までには国に着くでしょう。ずいぶん便利になりました……もっとも、『薪の石』を以前よりも消費してしまうのですが」
カイナは世間話をするように、ベアタへと話しかける。だがベアタは彼を睨んだままだった。
「……首の傷のこと、先程は失礼しました。手当は受けたようですね」
と、カイナはベアタの首を見る。先程切り傷ができた首は、もう手当がされていた。
するとベアタは、さらにカイナを睨んで、
「――村の人全員と私を解放して。元の場所に返しなさい!」
ベアタの青い瞳は、憎悪に満ちていた。けれどもカイナは怯むことなく返す。
「それはできません。これはあなたのお父上の命なのですから……」
それからカイナは、どこか残念そうに溜息を吐いた。
「しかし……こんなところであなたにお会いするとは思わなかった。まさか、崖下のこんな小さな村で暮らしていたとは。誰も思っていなかったでしょう……国王様も心配されていますよ」
「嘘よ」
カイナの言葉を、叩き斬るようにベアタは否定した。それを受けて、カイナはふと黙る。そして目を瞑り、やがておもむろに頷いた。
「……ええ。心配はされていません。国王様は、早々にあなたが死んだと決めて、兵を探しにも出しませんでした……あなたのことは、どうでもいいようでした」
わずかに、目を伏せる。
「……しかし、無事で本当によかった。リルチェ様の謀反騒動の後、あなたがいなくなって……私は心配したのですよ?」
「――でも、いまあなたは私を捕まえて、国に連れ戻そうとしている」
淡々と、ベアタは言う。だからカイナはもう一度頷いた。
「あなたを見つけてしまった以上、連れて帰らないわけにはいきません……連れて帰った後、あなたがどうなるかわかりませんが……しかし、あなたはリルチェ様と違い、ただ国を出ただけです。そこまでひどい罰は受けないと思いますが……」
ベアタは何も言い返さなかった。
列を成した『雪車』は、何もない雪原を進んでいく。
「……カイナ。あなたは、誰よりもお父様や国に忠実な人間よ。国の決まりは絶対に守り、お父様の命令にも絶対に従う……」
つと、ベアタは言う。
「……それと同時に、あなたは、他の人と違って、私やお姉様の話をよく聞いてくれた人よ……お願い。オンレフ村の人を、見逃してあげて。私のことは、どうでもいいから」
カイナは黙ったまま、ベアタを見据えた。何かを考えているような、しかしもう答えが決まっているかのような顔。やがて、彼は頭を横に振った。
「……そうよね。そんなあなただから……お姉様も見逃さなかった」
再びベアタは目を鋭くさせた。しかし試すかのように首を傾げる。
「……でもそんなあなたが、どうして彼だけを特別扱いしたの?」
ベアタは目を覚まさないルチフの手を強く握った。
その言葉には、本当にわからない、といった様子も確かにあった。
「……エンパーロの人間かもしれないから、という理由で特別扱いしたのではないでしょう?」
ベアタがカイナの膝の上を見れば、そこにはルチフの剣があった。
もとの鞘がなくなってしまったルチフの剣。
初めて見た時から、ベアタは気付いていた――ルチフの剣は、カイナの剣と、全く同じものだと。
「……彼は何者なの? どうしてあの村にいた彼が、あなたと同じ剣を持っているの?」
問えば、涼しげだったカイナの表情が、かすかに崩れた。
「……これは、私の兄の剣です……かつて、召使いと、その間に授かった子を連れて国を去った、私の兄の」
目覚めないままのルチフの顔と、困惑したカイナの顔。
どことなく、似ていることに、ベアタは気付いた。
カイナは、問い返す。
「――兄の子……私の甥にあたるその子の名は、ディータ。彼は……ディータなのですか?」




