13歳幼女貧乏悪役令嬢は意地悪異母姉妹に陥れられ無実の罪で婚約破棄をされた! 追放されるのならスローライフを楽しみましょう?って大家さん、家賃払えってちょっとまってくださいまし今日も内職に励みますわ!
「おい、貧乏悪役令嬢、家賃払えよ!」
「待ってくださいまし大家さん、内職のお給料が入りましたら、入りましたら払いますわ!」
「もう一か月も遅れてるんだぞおい!」
私は大家さんがばんと扉を開けて、家賃の督促にきたのを見て頭を下げます。
どげざ、というやつですわね。
大家さんは渋い顔で私を見てますわ。
あ、赤い瞳を見開いて、いやその内職じゃ家賃は無理だろと深いため息をつかれたのですわ。
大家さん、ひどいですわひどいですわ!
「大家さん、私にはフリーゼという名前がありますのよ! 貧乏でも悪役令嬢でもありませんわ!」
「まあいいけどさ、婚約破棄されて追放されたあんたをばあちゃんが拾ってきたのはいいけどさ、でも、悪役令嬢って巷の噂もあてにはならんな」
「婚約破棄をされたのではありませんわ、あれは異母妹の陰謀なのですわ!」
「陰謀はともかく、家賃払ってくれよ、もう待てないぞ、あーフリーゼ」
大家さんははあと深いため息をまたつきましたわ。私の手にある造花を見て、そいつ今日いくつ作ったら家賃払えるんだ? と聞いてきます。あーうー、ですわねえ。
「……一本、1Rでそうですわね、三百で300Rですわ!」
「おいおい、家賃は1万Rなんだぜ、それじゃ一万つくるのに……おい一か月超えるじゃねえかバカ!」
「バカはひどいですわロッド!」
ううううと泣く私を見てウソ泣きやめろぼけと追撃をかける大家さんいえ、ロッドでしたわ、あらばれましたか?
てへと舌を出すと、家賃、今日中にはらわねえと出てってもらうぞ! と大家さんは盛大な勢いで扉を閉めましたわ……。
私は造花を手にため息をつくしかありませんでしたわ。
ああどうしてこうなったのか、フリーゼ・ブリュンスタッド、今年で13歳ですわ。私はもともとは侯爵令嬢で13番目の娘でした。
そして……私には10人の異母妹、6人の異母弟、17人の異母姉と異母兄がおりました。
これは泣くも涙の私の婚約破棄からはじまるてん……あ、私の語りはいいからって、はい。
ええ、私の父は好色とよばれた侯爵で、そして妾のみで30人も持つ女好きでしたの。
そして正妻はとっかえひっかえ28人でしたわ。
私の母は17番目の正妻でしたの。
私の母は、私を生んですぐ亡くなり、ええ、父の浮気に絶望して死んだともいわれておりますわ。母が死んで二週間後に父は再婚したそうです。
乳母やから聞かされて、私の男嫌いは加速しましたわ。
ええ、そして私の大量の兄弟姉妹は父が作った弊害といいますか、なんというか……。
『フリーゼお姉さまって本当にお母さまが王族でしたの? 本当に背丈が足りないですわよね、私よりお小さいなんて!』
おーほほほほと笑うのは私と数か月しか年齢が違わない妹でした。年齢というか同い年ですわ。
母が死んだ二週間後に迎えた正妻、継母がほどなく懐妊、生まれたはずなんですけどね、半年違いなんですのよ! あのバカ父が浮気していたともっぱらの噂ですわ。
金髪碧眼、私は白い髪に赤い目、金髪がステータスとされるこの国では私の色彩も馬鹿にされるよういんでしたわ。
『あら、お小さいお小さい! そしてあらあらウサギのような赤い目、おーほほほほ、うさぎですわよねえ。ほんと! 白い髪といいその目といい!』
私は年齢より確かに背丈が低かったですわ。十歳くらいによくみられましたの。
幼女扱いされるのは嫌でしたけど、でも妹よりは確かに低かったですわ。
異母妹にはチビと馬鹿にされ、そしてほーらほらとよく見下げられましたわ。
『私はチビではありませんわ、もう少ししたら伸びますのよ! それにうさぎさんはかわいいですわ』
『もう十三なのだから無駄だと思いますわ! おーほほほほほ、うさぎなんて食べられておしまいじゃありませんの!』
ああ、いつもいつもこの異母妹、ブリュンヒルダにいじめられておりましたわ。というか、私の母のほうが王族で血統的に良いからってそれを妬んでいじめるとかひどいですわ。
ブリュンヒルダのお母さまはお父様と離縁されましたが、でも王族の親戚と再婚されて、ブリュンヒルダは侯爵家の序列がかなり高かったのですわ。
というか序列って何ですの!
私は序列はかなり下、母に身内がおらず、王族といえども末端といったことがありまして……。
『おいチビたち、お前ら喧嘩してるのなら、勉強の一つでもしておけよ、バカすぎると嫁にもいけなくなるぞ、いきおくれをうちは養う金はないからな!』
『クリスお兄様、うるさいですわ!』
うう、ブリュンヒルダが言い返してますが、私は兄にはあまり言い返すこともできませんわ。だってチビチビって子供のころからいじめられてきましたもの。
全部この方にとっては異母妹は「チビ」なのですわ。
クリスお兄様は私たちより三つ上です、全部母違いの兄弟姉妹、妾の子も入れたらもっと増えますわ。
『うるさいわねチビ、もう騒ぐのやめてよ、私朝遅かったんだから』
ひらひらと手を振って館から出てきたのは母違いの姉、ミーティアお姉さまでしたわ。こうぼんきゅっぼん、で……私はひん、ではなくこれから成長しますのよ!
お姉さまは実はブリュンヒルダとは親戚、母親同士が姉妹というややこしい間で仲が良く、私のことをよくいじめてましたわ。
『あいかわらずチビねあんた、うっとうしいからどっか行ってよ、その赤い目って見てるだけで気分悪いわ』
『チビじゃありませんわ』
『どっちでもいいからあっちいってしっ、しっ』
私は犬ではありませんわ……御年18歳のお姉さまからみたら私はチビですが、でもブリュンヒルダがいい気味といって笑っているのを見て腹が立ってきましたわ。チビ達扱いのクリスお兄様のほうがまだましですわよ!
こんな劣悪な環境で私は育ちましたの、継母は私たちを放置してました、それで兄弟姉妹たちはいがみ合い、親の目にふれないことをいいことによく喧嘩とか意地悪とかしてました。
私もよくされましたわ……だっていじめ返したり、悪口言ったりとかするだけの勇気、いやなんというか根性がないとよくいわれましたわよ。
そして……私はこんな環境から抜け出すためにお勉強して、礼儀作法も学び、魔法もうでを磨き、とうとう王太子殿下の婚約者に選ばれるときがやってきたのですわ!
やったあ、と思いましたが、これが転落人生のはじまりでしたの。
『お前みたいなチビ、そして胸なしが婚約者だって嘘だろ?』と言われたのは今でも悔しいですわ。
『フリーゼ・ブリュンスタッド、お前との婚約を破棄する!』
高らかに宣言されて、私は王太子殿下との婚約をその半年後、破棄されました。
ええ、王太子殿下は、ぼんきゅぼんがお好きなのは知っておりましたわ。お胸があるお姉さまがたのこう……。
知っておりましたわよ!
私のお胸がないからって、いえこれから成長するのですわ! でもでもひどいですわ。
『私はなにもしておりませんわ!』
『だまれひん……ではなく、お前は姉のミーティアをいじめた罪、妹のブリュンヒルダをいじめた罪がある! そのつ……』
『いじめられていたのはわたくしですわ!』
私は反論しましたが、タッグを組んだと思われる二人のせいで、反論は受け付けられず、私は衛兵にひきずりだされ、そして下町にぽいされましたのよ……。
ええ、そこからは私は追いはぎにあいかけ、逃げて、そして裏路地で座り込みという……お父様だってチビの何十人もいる娘の一人なんてどうでもいいと思われていたらしく、私のことを探すそぶりすらなかったんですのよ。
そして下町にぽいって、一応侯爵令嬢ですのよ、します? 犬の子や猫の子でもないというか犬猫でもひどいですわよこれ。
『あらあんたどうしたい? 迷子かい?』
『迷子じゃませんわ』
私がうずくまっていると、老婆が声をかけてきましたわ。あ、私より薄汚い恰好をした方だなと思いましたの。老婆はふーんと言って私の前に座り込みましたの。
『あんた、いいところの子だろ? 薄汚れてはいるがいい仕立てだねそれ』
『うー、一応貴族ですわ、元ですけど』
『ふーん、どうしてこんなところにいるんだい?』
私は自棄になってましたわ、この見も知らぬ老婆にこれまでの顛末をお話ししましたの。
するとおかしそうに老婆は笑い、ふーんとまた言いましたわ。
『あんたさ、悔しくないのかい? 一応あんた侯爵の正妻の娘の一人なんだろ? なのにその扱いされてさ』
『悔しいですわよ、でもあの人たちには敵いませんのよ』
『ほらほら、泣きなさんな、雨が降ってきたよ、あたしの家においでさ、ゆっくりと話をもっと聞こうじゃないか』
私は見も知らぬ老婆、いえお名前はローズさんといわれましたわ、ローズさんについていくことにこの時しましたの。
いえこの後これを後悔することになりましたけどね!
『これはあたしの孫のロッドさ、えっとロッドバルド・イーデンハイム。なんだったかね?』
『もうロッドでいいぜくそ婆、俺の本名なんて誰もおぼえてないだろ』
『じゃあロッドでいいか』
『ばばあ……』
私は掘っ立て小屋よりひどいあばら家につれていかれましたの、下町の端の端でしたわ。
あ、雨漏りしてますわ!
するとローズさんの孫だというロッドという少年を紹介されましたの。あれ、目が私と同じで赤いですわ。赤い目は魔族の子孫の証で、貴族にはいますが、庶民では珍しいですわ。
『お前、フリーゼか、どうしてこのよりにもよってこのくそ婆についてきたんだ? こいつ……』
『ロッド、ほらみてごらん、この子、あんたと同じ赤い目だよ! いやあ珍しいね~』
いや何かごまかそうとしましたわね。ロッドの言いかけた言葉をけん制するようにほらほらとローズさんは、私の目を見て一緒だよと繰り返します。ロッドは私より一つ上の十四歳だそうですわ。
私と髪の色は違い、庶民に多い黒髪でしたわ。
私を拾ったのもこの赤い目が孫と同じだったからさと繰り返しますけど。
『いやあんたそういうたまじゃねえだろ婆』
『とりあえず、フリーゼ、あんた、ロッドに貸している家に住みな、あたしが許可する』
『はああ、くそ婆、わけわかんねえことするな!』
『これはあたしの命令だよ!』
いやわけのわからないうちに私はロッドさんの貸している家に住むことになったのですが、いえそれがこのあばら家、あ、雨漏りがしてきましたわ!
うううう、ローズさんが住んでいるところもあばら家でしたが、貸していただいたところもあばら家でしたわ。
なぜどうして私に家を貸そうとしてくれたのか? そして職までというのがよくわかりませんでしたけど、これから私の貧乏生活がはじまることになりましたのよ。
「内職の手がたりませんわ」
どうしても造花の単価が安いですわ。でも私、いろいろな職を紹介されましたが、これが唯一できることでしたの。魔法は得意でしたが、魔法を取り入れた職って庶民にはなかったのですの。
だって貴族だけしか魔力を持ちませんもの……。
薬屋の店番……薬の種類でうろたえて冒険者さんに怒られクビ、その次に紹介された食堂のウエイトレスってやつは三十枚以上お皿を割ってクビ。
その次に紹介された図書館の受付は天職だと思いましたが、司書資格を持った人がやってきてクビ。
うううう、資格もちのほうが優先ってひどいですわ。
そしてそして……クビたちの山、たどり着いたのがこの内職でしたわ。
思い知りましたわ、私、何もできない人でしたのね……。
だって魔法が使えても、お勉強ができても、銅貨の単位すらしらず、つけとやらで買い物してましたもの。いえつけって初めて知りましたわ。商人さんが館にきて品物を手に入れただけですもの。
私まだ恵まれてましたのね……異母姉妹たちにいびられても、一応着るもの食べるもの、教育はきちんとしてくれてましたもの。
でも存在を忘れさられ探してももらえてない娘でしたけど。
「うう、どうしてこんなことくらい……」
泣けてきましたわ、でも私は造花を作り続けます。でも今あるお金が3000Rでは家賃は今日だけの稼ぎで払うなんて無理ですわ。
「フリーゼ嬢ちゃん、いい話があるんだけどねえ」
大家さんのおばあ様、いえいえローズさんが扉を開けて、あ、扉が壊れましたわ。がたってがたって、それにもかかわらずずかずかと入ってきたローズさんですわ。
「嬢ちゃん、ロッドの頭でっかちさね、あんたがやりたいっていうのならもっと稼げる方法はあるよ、どうだい?」
「え?」
「魔法だよ、魔法さえあればあんたでも稼げる仕事はたんまりあるよ」
私は迷いましたわ、実はこのローズさん、極悪金貸しというやつで、ロッドにもお金を貸しているらしいのですの。ロッドは実のお孫さんですわよ? これあとから聞いた話ですが。
ローズさんの仕事って、ろくでもないからうけるなよってロッドから言われていたのですが。
でもここで暮らして三か月、家賃さえ滞納する生活はだめですわ! 私はローズさんにうんとうなずいたのですわ。
というかロッドの忠告を聞いておけばよかったですわ……。
「魔法ってこれですか」
「そうだよ、氷の魔法でちょうどいい氷を真夏につくるのさ、そうしてそれを削って『かき氷』ってやつにして、みつをかければ、倍の値段になるのさ、水がもとでだからただ、蜜は果物やのやつから借金のかたにとってきた果物だからただ! いい商売だろ!」
私はひたすら水に凍らせ、水を凍らせ、水を凍らせ……そうです。氷を作り続けておりましたわ。
一から氷を作る氷結魔法は私では使えません、これはまあ冷凍魔法というやつですわね。
冷気を水にあびせ、そして一気に氷にする。割とこれも難しい魔法ではありますのよ。
水を凍りにしてそれをがりがりと男のかたが砕き、みつをひたすらローズさんがかける。
ああかき氷よってお若いお嬢さんたちがきゃあきゃあ言って食べてますけど、それただの水と果物をこうぎゅっとしぼって蜜にしてかけただけですわよ?
あうあうあう、確かに確かに魔法は使いますけど、これってうううう。
「ほらほらフリーゼ嬢ちゃん、もっともっと氷を作っておくれ、手が止まってるよ!」
「ううううう、お金貸しのかたがこんな商売してていいのです? お金を貸しているだけでぼろもうけなのに」
「ばかをお言い! あんたね、体が動くうちは小金でもアイデアができたら商売にして稼ぐのさ、金は世界で一番の宝物さ!」
あうう、私はなんとか冷気を精製しますわ、でもでも何か魔法の無駄遣いのような気がしますわ。
しかし、家賃のためにはしょうがないですわ。しかしこの300Rって暴利だと思いますの、ほぼただなのに……入れ物だって陶器なので食べ終わったら帰ってきてますし、スプーンだって!
「あんたね、かき氷は伝説の食べ物だよ、それが300Rなんて安いもんさ!」
ああ、今日は暑いですわ、夏ですわ。私はぼけっとなりながら、またなんとか冷や……あ、何か目の前が真っ暗ですわ。私は何かめまいをするのを感じそして……。
嬢ちゃん! というローズさんの声を最後に聞いたような気がしましたわ。
「だから、あのくそ婆の口車にのるなっていったろフリーゼ!」
「あうここは?」
「あー、おれの家、あのくそ婆、あんたが倒れたって急いでここに運んできやがって、熱中症だからよかったもんの、おいおい医者にさえ見せないってあいつ極悪すぎるぞ」
ひんやりとした布が額にのせられ、私は寝台で横たわっておりましたわ。窓からお月様が見えてました。
もう夜ですの?
ロッドがもう大丈夫だなとふうとため息をついて、私の額からずり落ちた布を取りました。
「あ、一応婆からあんたの給金ひったくってきた、一応1万Rあったから、これで家賃は払えるぞ」
「それならよかったですわ」
「ほんとバカなんだからお前」
「バカとはひどいですわ」
私は家賃が払えてほっとしましたわ、でもあのぼろ儲け商売でそれほど稼げるなんて、ああもっと早くというか、もうあれはいやですわ。暑くて死にそうでしたもの。
この真夏、炎天下、広場でちょっとしたひさししかない場所でひたすら魔法を使うなんて地獄ですわ。
「うううう、頭痛いですわ」
「お前、もう少し寝てろ、魔力切れと熱中症でお前倒れて、大騒ぎだったんだぞ、あのくそ婆、真っ青になってたし、あんなでも一応心配するんだな」
私は頭を押さえて、少しガンガンとする頭痛と戦ってましたわ。そういえばこれ魔力切れの症状でもありましたわね。
どれだけ私魔法を使いましたのよ!
私はふうとため息をついて、家賃が払えてよかったですわとため息をつきました。
「……婆、この三か月で、下町で一生懸命生活してきたフリーゼを見て、あの約束を手伝ってやるといってる」
「あの約束ですか」
私はロッドを見ます、ロッドはきれいな顔立ちをしてますわ。伝説の魔王様、ロッド様もこんな顔をしてましたのかしら?
この国の伝説によれば、ある時、侯爵令嬢だったフリーゼという令嬢が、魔王のもとへ行き、そして二人が恋に落ちて……
この赤い目を持つ人間は、そのフリーゼ嬢と魔王ロッドの子孫とされてますわ。
もう五百年の前のこれは伝説ですの。
「約束は約束だっていってるぞ」
「私のお胸がないからいけなかったのでしょうか……」
「いや俺はないほうが……ってそんなことあるか! お前は頑張った、それなのにあいつらの意地悪でお前は陥れられたんだぞ。悔しくはないのか?」
ロッドがこちらを赤い目をすぼめてみますわ、ぎゅっと私を抱きしめましたわ。痛いですわ、でもどこかうれしさも感じますわ。
ああ、私は王太子様をあの世界から抜け出すコマとしか見てなかった、それもいけなかったことかもですわ。
今は王太子の婚約者に異母姉、ミーティアお姉さまがおさまっているそうですけど、あの二人ならお似合いかもですわね。お胸があるほうが好みでしたもの王太子殿下。
「約束は約束だ、あの婆は約束は守るやつだ。俺の母ちゃんが男作って捨てられて、そして俺ができてたから仕方なくあのくそ婆のもとへ帰った時だって、あんたがやる気があるなら、職を紹介してやる。子供ともども働け、金くらいは貸すって言った約束は守ってるんだもんな、母ちゃんは死んだけど、一応医者や薬は手配してくれたし、俺の借金になってるけどさ!」
「……ローズさんやはり極悪というかすごいですわ」
「俺、実の孫だぜ一応」
「ですわよね」
私が笑うと、ロッドもおかしそうに笑います。でも確かに約束はしましたわ。あの時、憎悪で心がいっぱいになっていて、悪魔の手でもなんでも借りたい気分でしたのよ。
「……婆は早速明日から、手を王家からひくそうだ。というか貴族全体に貸し付けてる金をすべて一括で返せってするそうだぞ」
「それは……」
「もともとやるつもりだったのが早まっただけらしい、それにフリーゼ、その目さ」
「なんですの?」
「お前もさ、あのくそ婆の身内だってことさ」
「はあ?」
わけがわかりませんわ、ロッドの手のぬくもりを感じながら、私はこの三か月を振り返りますわ。
店番をして、冒険者に薬の種類を間違えて売って怒鳴られているのをかばってくれたロッド。
どうしても図書館の受付はやめたくないっていっている私に口添えしてくれて、資格ならとらせるからって言ってくれたロッド。
雨漏りに慌てる私を見て、仕方ないなと応急処置をしてくれたロッド。
ああ、私は幸せでしたわ。あの館で一人いた時よりももっと幸せでしたわ。
貧乏ですが幸せでしたわ。
「……赤い目は令嬢フリーゼと魔王ロッドの子孫しかもたねえといわれているまぁ伝説だからなどこまでほんとか、そしてあの婆の愛したって男がそうだったらしい、そしてその男ってのは……婆に子供を一人残して死んで、それが俺とあんたのひいじいさんってわけだ」
「はあ?」
もう驚きの連続でしたわよ、どうも赤い目を持つ人間は希少だっていうのは聞いてましたけど、ほぼ持つ人間が少なくなってて、その一人であった、ローズさんの旦那様は子孫の一族の生き残りで、そしてその子供が私とロッドのお母さまのお母さまだったらしいですの、私たちって遠い血縁ですの?
「またいとこ同士ってやつらしいな、二人娘ができて、婆に反発してその上の娘、つまりこればあんたのおばあ様ってやつだ、……祖母ってやつが王族の端くれに嫁いで、そして生まれたのがあんたの母親、くそ婆のもとにいて、庶民と結婚して、一人娘を生んだのが俺の祖母ってやつ、そしてその娘がもう一人と同じように駆け落ちして、ろくでもない男の子を生んで育てたのが俺の母親、結局くそ婆に拾われてってやつ、あんたのおふくろは侯爵の正妻ってやつだな。しかし波乱万丈の人生って送る血筋なのか?」
整理しますわ、ロッドのおばあ様のローズさんはひいおばあ様で、二人娘がいて、そのかたっぽがロッドのおばあ様、もう一人が私のおばあ様、一人は王族に嫁ぎ、もう一人は庶民と結婚して、貴族と庶民に分かれたと、そしてロッドのお母さまは駆け落ちして、ロッドを生んでひいおばあ様のもとへと戻り、私のおばあ様は王族に嫁ぎ、お母さまを生んで、侯爵に嫁ぎ、私が生まれて、私とロッドはいとこ同士の子、ややこしい!
「というややこしい血縁関係を婆はあんたを見たときにすぐ思い浮かべて、話を聞いたらどんぴしゃ、一応あのくそ婆、ひい孫がろくでもない目にあわされたってんで怒ってたぞ」
「どうしてひいおばあ様っていわないのですの?」
「そこまで年と思われるのが嫌らしいぞ、あの妖怪」
はあ、あの時の約束が突拍子もないと思ってましたが、これで謎は解けましたわ。
でも私とロッドが親戚で、ローズさんがひいおばあさま……あうなんかいやというかなんというか、まあ私の血縁はみな妖怪しかおりませんわ、お父様の妖怪女好きといい、異母姉妹兄弟たちといい……。
「……俺も手を貸すぞ復讐にお前をこけにされて黙ってられるか!」
「……ありがとうございますわ」
私の唇にそっと優しくロッドの唇がぎごちなく触れましたわ、ああ、私とローズさんの約束は三か月前にありましたの。でも……復讐、あの王太子殿下の高慢なお顔と、異母姉と異母妹の「ほらさようなら、おチビさん!」と王宮から追い出した時のお顔を見て、また怒りが戻ってきましたわ。
私は何もしてないのに、どうして? と思いましたの、お父様が探しに来る気配もないですのよ。
私はどうでもいいと思われているのですかやはり。
「復讐をはじめよう!」
「ありがとうございますわ」
私は何もかも許せるほど大人でもなく、まだ十三歳で、ロッドはまだ十四歳、復讐というより、ぽいされた私のくやしさをお父様にも思い知らせたいですの!
私とローズさんの約束それは……。
『あんた、貴族のお嬢さんだろ? 何もかも不自由ない生活だったんだろ? 何もかも捨ててここで生活できるかい? 弱音を吐いたりしないようなら、あたしも手を貸してやるよ、あんたの復讐ってやつにさ』
そして私とロッドの復讐ははじまります。私はお父様に思い知らせてやりますの、私という娘がいたことを。
そして異母姉妹とあの王太子殿下にお胸と背丈がすべてではないということを!
長いお話ですがお読みいただきありがとうございます。
評価、ブクマなどいただけると励みになります。とても嬉しいです。よろしければよろしくお願いします。