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星空シンドローム  作者: 月都七綺
【第一章】中学一年、過去の記憶
3/33

約束の流星⑴

 翌日、その次も月城は欠席だった。二学期に入ってから度々来ていないことがあったため、周りはさほど気にしていない。

 それどころか、芸能人気取りだと、皮肉を込めた言い方をする女子もいる。

 普段から関わりのなかった僕にとって、いつも通りの日常が過ぎただけ。

 ただ、彼女を自転車の後ろに乗せたあの日以前とは、同じでいられない。

 肩に触れる指先。約束と言って空を指差す姿を、脳裏にかすめては消してを繰り返している。


 終業式を明日に控えた二十日、月城は二日ぶりに姿を見せた。

 いくらか目が合うことはあっても、言葉を交わすことはなく、面白みのない時間が過ぎて行く。


 授業から解放される昼休み。通学鞄から弁当を出そうと体を屈めたとき、誰かに右肩を叩かれた。

 顔を上げると同じくらいに、細長い指が頬を軽く突く。

 口をポカンと開ける僕の目に、クスクスと笑う月城の顔が映る。二秒ほど、思考が停止した。


「ちょっといい?」

「えっ、いいけど……」


 クラスメイトがひそひそと視線を向ける中、僕らは教室を出た。

 触れられた頬の余韻に気が散っていたのと、状況を理解出来ない自分で頭が追いついていない。

 だから、弁当時間に教室から移動していいのかと疑問が浮かんだのは、廊下をしばらく歩いてからだった。

 普段使われていない資料室に、月城が持っていた鍵でこっそりと入った。


「……勝手に、怒られないかな」


 少し不安げな表情を浮かべつつ、辺りに目を向ける。

 小さな机と丸椅子が四つ。図鑑や資料のような分厚い本が本棚にずらりと並び、傍には天体望遠鏡らしき機材が置かれている。明らかに、星関連の物が多い。


「もしかして、ここ……」

「噂の幽霊部室だよ」

「そ、そう。天文部、ここ使ってたんや」

「隠さなくていいよ。どんな活動してるか不明な幽霊部って言われてるのは、天文部のみんな知ってることだから」


 平然として笑みを浮かべる彼女に、気の利いた言葉ひとつ浮かばない。

 こじんまりとした空間で、向かい合わせに弁当箱を広げる。その物音だけが聞こえる資料室は、まるで世界に二人しか居ないようだ。

 緊張で渇いたのどに米が突っかかって、上手く飲み込めない。


「二十三日、こぐま座流星群が見えるの。ふたご座にはおとるけど、すごく綺麗なんだよ。星のこと、少しでも知ってると楽しめると思って」

「……ああ、うん。そうかもね」

「星ってね、人と似てるところがあるんだよ」


 星の話をする時は、月城の声が弾んで聞こえる。心の底から好きで、天文部に入ったことが伝わってくる。

 全く興味のなかった星の話を苦痛に感じる事はなくて、それどころか不思議と体が前のめりになっていた。


「羽月くんが天文部だったら、もっと楽しくなるのにな」

「……そうゆうこと、あんま言わん方がいいよ」

「どうして?」

「勘違いする奴も……いると思う」


 空っぽになった弁当箱のふたを被せながら、視線を外す声が小さくなる。

 嬉しさの後にやってくるのは、いつも行き場のないむなしさだ。出口の見えない洞窟の中で、どこから差し込んでいるか分からない光を見せないで欲しい。

 淡い希望だけが膨らんで、期待し損になりかねないから。


「羽月くんなら、勘違いしてもいいよ」


 月城は優しいから、他の人にも言っているのだろう。その反発は、すぐに打ち消された。

 ほんのりと頬を紅潮こうちょうさせながら、前髪を気にして触っている。

 白い肌がより強調されて、色っぽさが滲み出る横顔から分かった。緊張していたのは、僕だけではなかったこと。


 昼休みの終わりを告げる音楽が流れ始め、僕らは初対面かのようによそよそしく立ち上がる。

 優雅に奏でられる音色と、椅子を押す甲高い雑音だけが響く。


「また星の話聞かせてよ。流星群、楽しみにしてる」


 少し間をあけて、ようやく開けた唇。照れと恥じらいを交えた精一杯の声。はにかみながら頷く彼女は、差し込む太陽より眩しかった。

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