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星空シンドローム  作者: 月都七綺
【第二章】高校三年、幻実
27/33

氷雪の蛍火⑴

 病室の窓からは、今日も綿のような雪がちらついて見える。

 初めて洸哉の病院へ顔を出してから二週間が経った。見舞いは二、三日に一度の頻度で、学校帰りにひとりで訪れている。


 三好は毎日通っているらしい。

 お使いを頼まれる。宿題をする時間がないと愚痴をこぼしながら、彼女の話す表情は幸せに満ち足りていた。そんな彼らを、微笑ましく思う。


 午後四時を回り、様子を見にきた看護師が病室を出て行って、そろそろ帰ろうとした時。


小葉このは、毎日来てくれるんだよなぁ。アイツ、大丈夫かな」

「大変って言いながら、ずっと楽しそうにしてるよ」

「でも、今一番遊びたい時期やろ」


 晴れない顔をする洸哉が気になって、離れかけた体をその場に留めた。


「幼馴染だからって毎日俺なんかに会いに来てさ、時間もったいないやろ。まあ、俺の親も共働きで小葉に頼ってる部分あるから悪いんだけど」

「それは……」


 お前のことが好きだからだろう? とは、さすがに僕の口から言えなかった。

 気付いていると思っていた。あれだけ一緒にいて、彼女の気持ちを知らないはずがない。


「三好のこと、どう思ってんの?」

「どうって」


 少し考えるように唇を閉じてから、洸哉が静かに口を開く。


「世界にひとりしかいない大事な幼馴染」


 続ける言葉が出なかった。

 クラスのみんなとは違う空気感があって、互いを理解し合う彼らはとても特別な存在に映っていた。

 どうして僕は、二人が同じ気持ちであると勝手に想像していたのだろう。

 きっと、心のどこかに、美しく造られた漫画や映画の世界があったからだ。現実はそう単純なものではないのに。


「小葉はどうか分かんねぇけど、俺は兄弟みたいに思ってて、家族みたいに大事な奴なんだ。だから、アイツが付き合う奴は俺が審査してやるって思ってんだ。バカみたいやろ?」


 その笑顔にくもりはない。本当に三好のことが大切なんだ。それと、幼馴染以外の感情はないことも伝わった。


「ほんと、……バカやな」


 上手く笑えなくて、唇は引きつっていた。

 これから、どんな顔をして彼女に会ったらいいのか。


 病室を出たとき、左側から三好が歩いて来るのが見えた。胸が騒ついて、心臓が揺さぶられたみたいに痛くなる。

 エレベーターで上がって来る方向とは逆。それは、一度病室を通り過ぎたことになるから。さっきの会話を、聞かれていたかもしれない。


「羽月、もう帰るんだ? 洸哉何しとる?」

「ああ……持ってきた漫画の新刊、読むんじゃ……ないかな」

「そっか、暇やもんねーやることないから。じゃあ、暗いし気を付けなよ」

「……ありがとう」


 いつもの口調で、三好の態度は普通だった。聞かれていないのなら良かった。

 だけど、ドアノブを握った彼女は動きを止めて、小さく息を吐く。カタカタと手が震えていることに気付いて、ハッと三好の横顔を見た。


「ほんと、……バカやよね」


 雪が降るように静かに、彼女はドアの向こうへ姿を消した。

 余計な詮索は良いものを生まない。嫌っていたはずのことを自分がして、傷付けた。

 ……三好、ごめん。

 明るく振る舞う声をドア越しに聞いて、鉄を履くような足は病院を出た。


 薄い雪の絨毯が足跡に残す。バスの待ち合い場は肩が震えるほど寒く、まだ五分ほど猶予のある乗車時刻を待ちながら、無心に黒い空を見上げた。

 今日は星が見えないけど、灯りに照らされた白い雪が優しく降り注いでいる。とても綺麗だ。


 コートのポケットへ手を突っ込み、違和感を覚える。入れていたはずのスマホがない。おそらく、スマホゲームをやめた時にベッドへ置いて、そのまま忘れてきたのだろう。

 しばらく待つことになるけど、バスはもう一本あとにしたらいい。


 来た道を引き返そうとして、白い傘が目に止まる。目の前を横切る年配の女性。肩まである茶色の緩やかな髪、落ち着いた風貌(ふうぼう)。少し疲れた横顔に見覚えがあった。誰だろうか。思い出せない。

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