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星空シンドローム  作者: 月都七綺
【第二章】高校三年、幻実
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星空の記憶⑶

 それから、小夜は再び僕の家へ戻ってきた。

 おかげで陰気いんき臭かった自室は、空気の色が変わったように晴れやかになった。


 始業式へ向かう僕の足取りは一段と重く、予想通り中学時代のような悪夢が始まった。教室へ入った時の視線が、異物を見るような他所よそよそしさを放っていて。噂が広まっていると、それぞれの表情が物語っている。

 自由時間にも関わらず三好は席に着いたまま、居心地が悪そうに目を伏せていた。静かに着席すると、僕も黙って椅子の背に体を預ける。

 誰とも挨拶を交わさなかったのは、高校生活で初めてだ。


「洸哉の事故、あれ本当に偶然なのかな」

「あの話がほんとなら、死神って相当ヤバいぞ。マジの呪いだって」

「触らぬ神に祟りなしって言うしね」


 風船に空いた穴かられ出したような声が至るところから聞こえてくる。

 耳に栓をするように、僕はイヤホンを付けて音楽を鳴らした。

 体育館で行われる式は、寒さと時間の戦いだ。退屈に思っていた校長の長話ながばなしも、今日は終わりを求めない自分がいた。

 もう少しこの時間が続けば、雑音を聞かなくて済む。


 洸哉の容態が安定にあることを、帰りのホームルームで担任の話から知った。事故と関係ないはずの僕は、どこか後ろめたさを感じながら聞いた。

 生きた心地がしなかった。

 クラスメイトは、本当に死神の呪いだと思っているのだろうか。

 こんな状況には慣れていたはずなのに、三年の月日は残酷にも重かった。


 友達なんて作るんじゃなかった。

 失う悲しみを知っていたはずなのに、平穏な日常に麻痺していたのかもしれない。



 木造の我が家の前で、一度深呼吸する。鉄のように重い玄関のドアをグッと開けると、ふわりと優しい香りが漂ってきた。

 リビングから流れてくる料理の匂いだ。母は仕事で数人の靴はまだない。

 もしかするとと思いながら、リビングのドアを開ける。そこには、テーブルに料理を並べている小夜の姿があった。


「久しぶりに料理したから味の保証はないけど、多分いけるはず。こっちは弟くんの分ね」


 チキンとオムライスを手際よくラップして、冷蔵庫へ入れた。


「わざわざなんで?」

「……なんとなくね」


 凹凸のないオムライスの表面に、ケチャップで文字を書いている。

 お・か・え・り?


「……ただいま」


 とりあえず答えてみたけど、変な気分だ。


「おかえり。無事に帰って来てくれてありがとう」


 石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。

 抱き締められたと気付いたのは、少ししてから。


「えっ、急にどうしたの⁉︎」


 心臓が爆発するくらいの大きな音を立て、それを隠すために彼女を引き離そうとした。でも、出来ない。もう少しだけ、このままでいたくて。


「朝起きて学校行って、家に帰る。当たり前のことだけど、明日は必ず来るわけじゃないの。だから、また会えたことに感謝しないとね」

「……うん」


 自分を無条件に受け入れてくれる人がいる。学校の居心地は悪くなったけど、それだけで気持ちが楽になれた。

 耳に響く落ち着いた声や、こうして触れている細い腕もいつかは消えてしまう。

 でもそれは、まだ遠い未来なのだと、漠然ばくぜんと思っていた。

 普通に過ごしていれば、小夜は成仏しない気がしていたんだ。正体の分からない心残りがあるうちは。

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