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星空シンドローム  作者: 月都七綺
【第二章】高校三年、幻実
23/33

星空の記憶⑴

 三箇日さんがにちが過ぎた一月四日。僕は自室の椅子で項垂うなだれていた。

 机の横に置かれた紙袋からは、クリスマスで使った装飾たちがむなしく顔を出している。

 神社での出来事以来、小夜は帰って来ない。心当たりのある場所は探したけど、どこにも見つからなかった。行く当てもないはずなのに、どうしているのか。

 まさか、姿を消してから成仏してしまったのか。いや、そんなことはないはずだ。この思想を何度も繰り返している。


 洸哉が事故に遭ってから、四日が経った。三好から電話があった時は、緊急手術が行われた後で、しばらく意識が戻らない状態が続いたらしい。

 今はまだ来ないで欲しいと断られたきり音沙汰はない。大丈夫だろうか。

 正直、僕は怖かった。誰かを不幸にするだけで、自分の存在価値等ないのではないか……と。


 引き出しから色()せた桜色の紙を出して、彼女の事を考える。十三歳の女の子らしい丸みを帯びた字が、不意に懐かしさを運んでくる。


 ──僕は、何がしたいんだ。


 重箱に入った御節おせちの残りが夕食に出された。あまり食欲のなかった僕は、田作たつくりや伊達巻きを軽くつまみ食事を終える。

 ダウンジャケットを羽織り、黒のマフラーと手袋を装備して家を出た。身を切るような風に逆らって、自転車をぐ。

 暗闇を照らす小さなライトは、まるでこの世のはてを彷徨う人魂のようだ。


 荒れた山道を抜け、高い石垣を前に自転車から降りる。石の階段を登って天守台と呼んでいる跡地に足を踏み込むと、そこにはすでに先客がいた。

 冷たい地面に脚を揃えて腰を下ろし、その人は静かに夜空を見上げている。今にも消えてしまいそうな、うれい横顔をした小夜だった。


「……ここ、星が綺麗だね」


 まっすぐ空を見上げたまま、小夜がつぶやく。


「僕の大切な場所です。きっと、今日はここにいるんじゃないかって思ってました」

「一緒に見たくないんじゃなかったの?」

「僕がここに、来たい気分だったから」


 大粒の光が現れ、輝く線を描くように斜めに堕ちていく。それは宝石の欠片かけらごとく、いくつも姿を現しては夢を振りまくように余韻よいんを残していった。

 その光景に息をむように、僕らは黙って眺め続けた。


 どれくらい経っただろうか。三十分、いや一時間近くかもしれない。星の流れは落ち着いたように、星屑が散らばる空へと戻っていた。

 冬夜の空気は、カイロを貼っている背中以外を攻撃するように、顔や指先を刺している。その感覚ですら、少し麻痺まひしていた。


「……大丈夫?」


 心配そうに眉を下げて、小夜が上下の唇をキュッと結ぶ。


「多少、寒いけど。そういえば、ポケットにもう一個カイロが……」


 ダウンジャケットに手を入れると、そうじゃなくてと隣で声がれる。

 ああ……。吐息混じりに頭を落として、なんと答えようか考えた。


「今日は流星見えないと思ってた。もしかしたら、願いが叶って消えちゃうかな」

「えっ⁉︎」と腑抜ふぬけた声が飛び出す。

「冗談だよ」


 両手を動かす彼女の体はくっきりと見えていた。情けない反応を、クスクスと笑って楽しんでいる。

 バツの悪い顔をしながら、僕は再びマフラーに顔の半分を沈めた。


 洸哉が死ぬかもしれないと思った瞬間、僕は小夜の冷たい手を振り払った。それは彼女の存在を否定する行為なのに、僕は震える手を抑えているだけで、小さくなる姿を追いかけられなかった。

 何度も悪夢で見た光景と、同じことを繰り返した。


「あんな態度取って、悪かったと思ってます」

「理人が謝ることないよ。だって、私は幽霊なんだもん。早く成仏しないと、みんなに迷惑かけちゃうからね」


 自分に言い聞かせるような言葉は、本心でないとすぐに分かった。

 成仏したくないと泣いていた彼女に、こんなことを言わせてしまうなんて。


「星は夜空でしか輝けない。だから、暗闇は希望を生み出す魔法の時間なの」


 不思議な光に包まれて、小夜の周りが明るくなる。星屑が輝くように、彼女を二重に映し出す。

 月城の微笑む顔が、小夜と重なって見えた。


「昔、心のパートナーが言ってたの。星空は大切な人と繋がってるから、好きなんだって。今なら、その言葉の意味が分かる気がする」


 一瞬、彼女と影写かげうつしに見えたのは幻覚だったのだろうか。

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