表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空シンドローム  作者: 月都七綺
【第二章】高校三年、幻実
14/33

奇妙な同居人⑶

 その後は、しばらく歩いたところにある『Blue & Lion』というカフェへ入った。

 店内はブルーとゴールドで統一されていて、アンティークな雰囲気をかもし出している。

 シャンデリアや大きな鏡、青い薔薇のドライフラワーが飾られていたりと、まるでおとぎ話の世界にいるようだ。


 もちろん店員には僕しか見えていないため、出された氷水はひとつ。

 それでも、落ち着きのある店内をとても気に入った様子で、小夜はオススメのケーキとカフェラテを選んだ。

〝三月の白雪姫〟や〝星空の口付け〟など、この店のデザートには変わった商品名が付けられていて、メニューを見るだけでも不思議な気分になる。

 僕が感じるのだから、女の人はなおさら好ましいだろう。


「理人って、女の子が喜びそうな場所よく知ってるんだね。ケーキのネーミングも好み過ぎて感動しちゃった」

「それは、よかった。高校の近くだし、一応調べたんですよ」

「大満足! ありがとね」


 ブルーとピンク、ホワイトの生クリームがまばらに装飾された小ぶりの丸ケーキが運ばれてきた。

 紫の小さな花とベリーが飾られ、金箔きんぱくが散りばめられている。

『絶望と希望に咲く花』という名も、とても繊細せんさいに映った。


「ねっ、写真撮ってよ」


 ケーキの皿を軽く持ち上げて、小夜が少し前のめりになる。


「……なんのために?」

「素敵なケーキだから残しておきたいの」

「僕のスマホに残して、意味あります?」

「今の私には財布もスマホもないんだから、仕方ないでしょ。それにもしかしたら、これがきっかけで成仏するかも」


 上手く乗せられた気がしないでもないが、言われるがままにカメラをかざした。

 画面の向こう側には笑みを浮かべる小夜がいるのに、僕の映す世界に彼女はいない。


 写真を見たいと、僕の手からスマホを奪った彼女は、やっぱりねと言うように眉を下げた。

 写真には姿が写るのか、確かめたかったのだろう。

 落ちていく視線をケーキへ向けて、真ん中にふわっとフォークを入れる。生クリームと層になったスポンジが現れると、小夜は何か物思いにふけるように黙ってしまった。

 そして、うれいを吐くような小さな溜息をひとつ。


「この世界って、実はいくつもの次元によって成り立ってるのかもね。あれと同じ、イラスト描く時のレイヤー?」

「なんですか、そのレイヤーって」

「分かりやすく言うなら……このジップロックにイラストが付いてるでしょ? パッと見は表側だけに絵が描かれているように見えるけど、実際は……」


 透明のジップロックを左右にずらして見せて。


「ほら、こうしてみると裏の内側にも絵があって、それが重なってひとつの絵に見えてたの」


 僕らがひとつだと思っているこの世界は何層にもなっていて、普段は交わることのない並行へいこう世界にある。

 まれに何かの波長で重なって見える人間がいるらしい。それが、僕と言うわけだ。



 心残りを解消出来なかったのか、見当違いだったのか、小夜は成仏することなく家へ戻った。その様子が異常で、テンションが高く常にフルパワー。あえて元気に振る舞っているようだ。


「あの」

「そういえば、理人って黒い服ばかり着てるよね。黒が好きなの?」


 どうしてか、僕から話しかけるすきを与えない。わざと被せて話しているように思える。


「嫌いじゃないけど、特別好きでもないです。理由があるとすれば、習慣、ですかね」


 死神と呼ばれるようになってから、意識的にか黒い私服が多くなった。

 黒を身にまとうことで、何者でもない何かになれたような気がして。


 不幸を呼ぶのは、僕ではなく外側に存在する〝何か〟なのだと思うことで、少し楽になれた。それは心の安定剤と同時に、月城へのつぐないの色でもある。

 星空が好きな彼女を、忘れてしまわないように。

 気が付くと、クローゼットの中は黒一色になっていた。

 ベッドでうつ伏せになっている小夜が、雑誌をめくる手を止めて視線を上げる。


「明日、これ見ようよ」


 開いているのは、流星群の特集が載ったページ。


「行かない」


 少し強めの口調で雑誌を取り上げた。向けられたにごりないガラス玉が、月城と重なる。でも、彼女は月城じゃない。


「流星群を見たら、成仏するかもしれないのに?」

「だとしても、誰かと一緒に見たくないんです」


 投げ捨てた雑誌が、ごろんとゴミ箱ごと床に倒れた。

 少し間を置いて、小夜は部屋を出た。彼女がどんな表情をしていたかは知らない。

 ただ、背中越しに伝わった視線は、寂しげな空気をしていた。


 星は嫌いじゃない。むしろ、好きだ。

 星空を見ていると、あの頃に戻ったような気になれる。

 高校へ入って、バスケを辞めることに抵抗はなかった。率先して天文部へ入部したくらいだ。

 月城の見た景色を、もっと見てみたいと思ったから。


 チクタク、チクタク。

 さっきから、時計の秒針が耳に話しかけてくる。静かにしてくれないか。これで三度目だ。

 小夜のことは少し気になるけど、視線を宿題のノートへ戻す。

 集中出来ないのは、たぶん彼女にキツく当たったことを後悔しているからだ。

 なかなか戻って来ないから心配になって、僕は部屋を出た。

 誰もいないリビングへ入ると、ソファーに小夜が座っていた。風呂場からシャワーの音が聞こえる。誰か入っているんだろう。

 脚に顔を埋めている小夜の隣に、そっと腰を下ろす。


「ごめん」

「どうして君が謝るのよ」


 目元だけを見せるように、口元は隠したまま。それでも、なんとなく笑っているのが分かった。


「私の方こそごめんなさい。冷静になって考えると、大人気おとなげないことばかりしてたなって」


 こもっていた声が、はっきりと綺麗な音になる。


「やっと話せる人に会えて、頼れるのはこの人しかいないって必死だったの。だけど、理人のこと考えないで、自分のことばっかりで。ごめんね」


 他に言いたいことはあったはずだけど、僕は黙って頷いた。

 霊体である小夜に、なぜ心配や後悔という感情を抱いたのか分からない。

 誰かに助けを求めて、ああして彷徨さまよっていたかもしれない月城を考えると、放っては置けなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ