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星空シンドローム  作者: 月都七綺
【第二章】高校三年、幻実
13/33

奇妙な同居人⑵

 土曜日の朝。黒のパーカーと黒のズボンに身を包み、バスに揺られる。

 聖川ひじりかわ駅から電車に乗り換えてからも、窓側に座る小夜は外の景色を眺めてばかり。


「聴きますか?」


 付けていたイヤホンをひとつ取って、小夜へ向けた。垂れ下がったコードがぷらんと揺れて、小夜は黙って左耳を音でふさぐ。

 窓の方を向いたまま、たわむコードだけが距離を詰める。


「こうゆう曲が好きなの?」

「バラードって、特に落ち着くんですよね」


 暗い気分の時は、より感傷に浸れる。堕ちるところまで堕ちていけるのが心地よい。


「胸が締め付けられる不思議な曲」

「星の彼方の主題歌ですよ。ほら、去年映画公開してすぐ話題になった」

「えー、知らないなぁ。でも、たしかにいい歌だね」


 再び口を閉ざして、小夜は外を見つめる。何かを思い出すように。

 ノスタルジックな風景から華やいだ街並みへと変わり始めて、ずっと黙っていた唇がゆっくりと開いた。


「ねえ、どこへ連れてってくれるの?」

「たぶん、女の人が好きなところです」

「それは期待しちゃうなぁ〜」


 背を向けたまま、フフッと笑う表情は見えない。大きな窓には僕が映っていて、あらためて彼女はこの世界の人でないのだと実感させられた。


 くすのき駅周辺は、銀杏いちょう並木の通りから周りに広がる路地通りまでの間に、ブランド店やセレクトショップ、カフェなどが立ち並んでいる洒落しゃれた街だ。

 高校へ通うしか用のない僕には、到底縁もゆかりもない場所。

 ここへ訪れた目的は、小夜が生前に出来なかった事を叶えるためだ。心残りがなくなれば、成仏するのではないかと彼女が言うから仕方なく。


 いくつか並ぶ店の中で、品の良い洋服が飾られたセレクトショップへ足を踏み入れた。

 花柄のワンピースを手にして、小夜が体に合わせる。


「ちょっとお嬢様みたいじゃない?」


 華やかなイエローだからか、太陽に照らされた向日葵ひまわりのように映る。透明感のある肌にえて、キレイだ。


「ちゃんと値札見てますか?」


 一瞬でも見惚れた自分が恥ずかしくなって、冷静を装った。


「一万六千円だって。こんな高い服買ったことないなぁ」

「僕が払うんだから、高校生なの頭に入れておいて下さいよ」

「着てみたかっただけよ」


 ベッと舌を出す仕草は、無邪気な少女みたいだ。

 時折、小夜はあどけない表情を見せる。大人の振る舞いを忘れた子どもみたいで、あまり年の差を感じない。

 小夜はグレーのニットワンピースと、そばにあったレースの手袋を手に取って。


「ほとんどパンツだったから、ワンピースって憧れてたんだよね」


 試着室の姿見すがたみの前に立ち、体の角度を変える小夜の表情は、どこか寂しそうに見える。

 どんなにいるように見ても、鏡の向こうに自分の姿はないからだろう。


 結局、小夜は何も買うことなく、トイレへ行きたいからと先に店を出た。

 後から外へ行くと、小夜がうつむいていた顔を上げて、「次、どこ行く?」と笑う。

 その頬には、雫の通った跡が残っていた。

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