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星空シンドローム  作者: 月都七綺
【第二章】高校三年、幻実
11/33

秘密の場所⑷

 寝違えによる首の痛みと原因不明の頭痛によって、最悪な翌朝を迎えた。

 住み慣れた聖川ひじりかわ駅の風景は、乱れた心を落ち着かせてくれる。昔ながらの町並みが遠退とおのいていく様子を、ただひらすら眺めた。

 アーチがつらなる正門前まで来て、踏み出そうとした足を思わず止める。動けなくなったが、正しいかもしれない。

 視線の先に、昨日と全く同じ格好をした小夜の姿があったからだ。


 門の前に立ち、誰かを探すように辺りを見渡している。儚げな印象の目、透明感……間違いない。気付かれないように、顔を伏せた。


「どうした? 生徒指導でも立ってるか?」


 隣を歩く洸哉が、門の向こう側を覗く。

「いや、ちょっと」と声を沈めた時、すぐ側で聞き覚えのある声に呼び止められた。

 視線を上げた先に、小夜が立っていた。

 ごくりと唾を飲み込んだのは、ここで再び会ったあせりか。太陽の下で見た彼女が、想像以上に綺麗だったからなのか。その両方なのか、自分でも分からない。


「なんでここにいるんですか」


 半信半疑の目を向けた。澄んだ瞳はくっきりしていて、柔らかな身体のシルエットも存在を鮮明に映し出している。


「君の匂いが強い所を辿たどって来たの」

「……普通に怖いです」

「不審者じゃないから! やっぱり、私には君しかいないの」


 背中がかゆくなるような言葉を吐いて、切実な表情で詰め寄ってくる。

 体に触れはしないが、それくらいの近さ。普通の人ではないことだけは分かった。


「おーい」


 呼びかけていたのが初めてではないらしく、やっと見たかと洸哉があきれた目をしている。


「理人、教室行かねぇのか?」

「行くけど。この人は、なんて言うか。知り合いってわけじゃ、なくて」


 どう説明するべきか、しどろもどろになった。


「お前、何言ってんの? さっきから一人で話してっから、注目浴びてんぞ」


 チラチラとこちらを見ては、生徒たちが耳打ちしている。

 視線の先には、たしかに小夜は立っていて、鱗粉を振り撒くような存在感は一目でも認識出来た。


「言ったでしょ、君しかいないって。私のこと、他の人には見えてないみたいなんだよね」


 軽い体を優雅に動かして、小夜が洸哉の前に仁王立におうだちする。


「おーい、おはよう」


 顔の前で手を振って、明らかに視界を邪魔している。しつこいくらいに声を掛け続けるけど、洸哉は視点を合わせることなく。

「先行くぞ〜」と校舎へ歩いて行った。完全に無視している。いや、あれは見えていないのだろう。


 後に続こうと足を踏み出すけど、小夜の細い指が制服のそでを掴んだ。

 振り払うなど簡単にできる力だったのに、動きが止まる。


「このままだと、天国へ行けずにここを彷徨さまようことになっちゃう」


 さっきの状況は、どう説明されても理解しきれない。だけど、彼女が幽霊だと言い切るわけにもいかない。

 現にこうして、はっきりとした姿形で僕の目の前にいるのだから。


「僕に、どうしろって言うんですか」

「成仏出来るように、手伝ってくれない?」

「本気で言ってるんですか?」


 まっすぐな表情は、からかっているようには見えない。


 ──あの人、なにしとるんやろうね。

 ──あんま見ん方がいいよ。


 チクチクと視線を感じる。これ以上、異常者に思われたくなくて、声をひそめて頷くしかなかった。


「ありがとう! とりあえず、行く所ないから君の家でお世話になります」

「いやっ、それは……」


 周りの目を気にしながら、言いかけた言葉を飲み込む。


 どうして、彼らには聞こえない?

 どうして、彼女らには見えないんだ。


 灰色の空は稲妻を放つと、花火のような音を鳴らす。今にも雨が降り出しそうな雲は、この場を去りたい僕のように素早い速度で流れていく。


 ──僕は、とんでもない約束を交わしてしまったのかもしれない。


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