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星空シンドローム  作者: 月都七綺
【第二章】高校三年、幻実
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秘密の場所⑶

 閑散かんさんとしたこの場所で、どこからか虫たちの合唱が小さく聴こえてくる。

 秋の風が、悪戯いたずらに彼女の髪を舞い上げた。


「生まれ変わりって、あると思う? 例えば星とか、人間とか」


 ──羽月くんは、人間も星みたいに、生と死を繰り返すと思う?


 いつかの声と映像が脳内で再生される。


「星は死んでも、また新しい星になれる」


 凍っていた唇が溶けて、声が出るまでにもう数秒かかった。


「星に寿命があること、君も知ってたんだね」

「一応、天文部だったんで。もう引退しましたけど」

「天文部かぁ……ステキだね」


 片耳に髪を掛けながら、彼女は少し言い出しづらそうに唇を結ぶ。意を決したように、でも自信なさげな声が尋ねた。


「……人間は、どうだと思う?」


 あの日、月城が見せた寂しげな表情と重なって、心臓が引き裂かれそうになる。


「人間は……やっぱり、生まれ変わることは出来ないと思います」

「そっか」

「でも、終わりじゃないです。その時の記憶のまま、誰かの心で生き続けるから」


 あの時は理解できなかった気持ちが、今なら分かる気がした。今でも僕の心に、月城は存在し続けているから。

 目頭を押さえた小夜は、すぐ頬をゆるめて。


「ステキな考え方。でも君、UFOとかお化け信じないでしょ」


 一瞬固まって、そうですねと軽い反応をした。バカにされたと、不貞腐ふてくされたわけじゃない。

 月城ならもっと違う反応をしたはずだと、勝手に想像して機嫌を損ねたのだ。


「私ね、死んでるんだよ」


 吹き付けていた風の音が止まった。静かな空に、耳鳴りが聞こえだす。悪い冗談は止めてくれ。


「そうゆうの、笑えないです」


 冷たく言い放つ声。真顔で見つめ返されて、少し動揺した。


「交通事故。気付いたら、死んでた。星空を見てると、人ってなんて儚い生き物なんだろうって思うよね」


 その横顔は冗談でも、嘘をついているようにも見えない。

 髪を耳にかける仕草。たまに伏し目がちに話すところや、突拍子とっぴょうしも無いことを言ったり、どこか儚げな印象があったり。

 違う部分を探しても、どこか月城と重ねてしまう。


 ──こんな不幸を生み出す死神とは、関わらない方がいい。


 人の不幸は僕のせいだと言われていた中学時代を、これからも忘れることは出来ないだろう。

 追い討ちをかけるみたいに、死後の世界を彷徨さまよう幽霊にまで遭遇そうぐうするなんて。


「やっぱり、僕は死神だ」


 いっそのこと、闇に消し去ってくれたら楽になれるのに。

 ふわっと再び風が吹いて、すぐ近くに清楚な香りを感じる。

 顔を上げたら、やんわりと微笑む小夜が僕を覗き込んでいた。


「死神でもいいよ。暗闇の中で、ずっと君に会えるのを待ってた気がする」


 まるで魔法だった。冷たく凍った雪が溶けて、小さなつぼみが現れるような暖かさ。


 ──羽月くん。

 懐かしい声が聞こえた気がして、ハッと目を見開いた。

 どこからかは定かではない。脳内に流れる月城の声は、あの頃と変わらず透き通っていた。


 

 適当に話を終わらせて、僕はその場を後にした。時間も遅くなっていたし、これ以上あそこにいない方が良いと判断したから。

 空耳で目が覚めた。冷静になって考えたら、不気味なことだと猫でも分かる。


 あの人は、何者だったのだろう。

 もしかしたら、小夜は僕の創り出した幻想だったのかもしれない。

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