秘密の場所⑶
閑散としたこの場所で、どこからか虫たちの合唱が小さく聴こえてくる。
秋の風が、悪戯に彼女の髪を舞い上げた。
「生まれ変わりって、あると思う? 例えば星とか、人間とか」
──羽月くんは、人間も星みたいに、生と死を繰り返すと思う?
いつかの声と映像が脳内で再生される。
「星は死んでも、また新しい星になれる」
凍っていた唇が溶けて、声が出るまでにもう数秒かかった。
「星に寿命があること、君も知ってたんだね」
「一応、天文部だったんで。もう引退しましたけど」
「天文部かぁ……ステキだね」
片耳に髪を掛けながら、彼女は少し言い出しづらそうに唇を結ぶ。意を決したように、でも自信なさげな声が尋ねた。
「……人間は、どうだと思う?」
あの日、月城が見せた寂しげな表情と重なって、心臓が引き裂かれそうになる。
「人間は……やっぱり、生まれ変わることは出来ないと思います」
「そっか」
「でも、終わりじゃないです。その時の記憶のまま、誰かの心で生き続けるから」
あの時は理解できなかった気持ちが、今なら分かる気がした。今でも僕の心に、月城は存在し続けているから。
目頭を押さえた小夜は、すぐ頬を緩めて。
「ステキな考え方。でも君、UFOとかお化け信じないでしょ」
一瞬固まって、そうですねと軽い反応をした。バカにされたと、不貞腐れたわけじゃない。
月城ならもっと違う反応をしたはずだと、勝手に想像して機嫌を損ねたのだ。
「私ね、死んでるんだよ」
吹き付けていた風の音が止まった。静かな空に、耳鳴りが聞こえだす。悪い冗談は止めてくれ。
「そうゆうの、笑えないです」
冷たく言い放つ声。真顔で見つめ返されて、少し動揺した。
「交通事故。気付いたら、死んでた。星空を見てると、人ってなんて儚い生き物なんだろうって思うよね」
その横顔は冗談でも、嘘をついているようにも見えない。
髪を耳にかける仕草。たまに伏し目がちに話すところや、突拍子も無いことを言ったり、どこか儚げな印象があったり。
違う部分を探しても、どこか月城と重ねてしまう。
──こんな不幸を生み出す死神とは、関わらない方がいい。
人の不幸は僕のせいだと言われていた中学時代を、これからも忘れることは出来ないだろう。
追い討ちをかけるみたいに、死後の世界を彷徨う幽霊にまで遭遇するなんて。
「やっぱり、僕は死神だ」
いっそのこと、闇に消し去ってくれたら楽になれるのに。
ふわっと再び風が吹いて、すぐ近くに清楚な香りを感じる。
顔を上げたら、やんわりと微笑む小夜が僕を覗き込んでいた。
「死神でもいいよ。暗闇の中で、ずっと君に会えるのを待ってた気がする」
まるで魔法だった。冷たく凍った雪が溶けて、小さな蕾が現れるような暖かさ。
──羽月くん。
懐かしい声が聞こえた気がして、ハッと目を見開いた。
どこからかは定かではない。脳内に流れる月城の声は、あの頃と変わらず透き通っていた。
適当に話を終わらせて、僕はその場を後にした。時間も遅くなっていたし、これ以上あそこにいない方が良いと判断したから。
空耳で目が覚めた。冷静になって考えたら、不気味なことだと猫でも分かる。
あの人は、何者だったのだろう。
もしかしたら、小夜は僕の創り出した幻想だったのかもしれない。




