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短編(超短編)

罪に沈む

作者: 芝田 弦也

青空を隠す様に覆っていた陰鬱な厚い雲間から覗いて見えた温かみのある日差しが、原型を留めない程に真っ黒に焼けただれ崩壊していった街並みを優しく照らしていた。

記憶の中にしまっていた情景が呼び起こされてしまい、思いが頬をつと流れ行く。




あの日を境に、生きる事に対して貪欲でなくなった。

日に日に食は細くなるばかりで、何かを口にしようとする意欲が欠落したせいか、四六時中お腹が鳴っている。

焦土化して崩れていった街並みを横目に、口笛を吹いて気を紛らわす。

行くあてもないけど、故郷の土を噛みしめるように一歩一歩踏みぬいていた。

走馬灯のようにぐるぐる流れている過去の映像に、家族や友達の顔が脳裏に浮かんでは消えていく。その度に心を疼かせて、何かが心を蝕んでいくようだ。

ズキズキと胸が痛んでしかたないんだ。

なんで生きているんだろう。なんで死ななかったんだろう。

重苦しい問いを振り払う様に強く目を瞑って頭を振るけど、しつこく付きまとってくる。

目を開けた所で、この気持ちを受け止めてくれる人が居ないのは知っている。

けど、歩く為には開けるしかないんだよね。



恐る恐る開けて見えた景色に、天高く聳え立つように佇んでいる大型の遊具が見えた。

そこだけが被災から逃れた様に、色とりどりの原色が引き立って目に飛び込んできた。

ひび割れ黒く淀んだ色なんかじゃない。多彩な色味が心を掻き立てるように刺激してくる。

忘れかけていた色の有る景色に心の中から湧いて出てきた活力。気づいたら思い切り土を踏みしめる為の力を宿してくれた。


何かに吸い寄せられる様に観覧車の元に行くと、乗車を促すように扉が開け放たれており

来訪を待ちわびていたかのよう。

狭くて小さいけど、久しぶりに気の休まる場所に来れた。

ずっと悲鳴をあげていた足を労わるように、椅子に腰掛けて足を延ばす。

気が緩んできたら、栄養が足りてないこともあってか意識が朦朧としてきた。

このまま死んでいくのも一興かなと思っていたけど、どうせ死ぬならこの街並みを見納めてから逝きたい。


願いが叶ったのか、それとも夢の中なのか、死後の世界に入ったからなのか分からないけど、鉄筋が軋む音を出したと思ったら、窓から見える景色がどんどん高くなっていく。

呆気にとられながらも、窓の向こうに広がる景色に目をやった。

視界の片隅に、窓枠に何かが貼り付けてあるのが見て取れた。

確認して見ると小さなプリクラだ。

男女の学生が仲睦まじく笑い合って抱き合っている変哲も無い姿なのに、この世にもう存在していないと思うと心に来るものがあった。

久しく忘れてしまった人の温もりに恋しさを感じて、その思いを振り切るために大きなため息を吐き出して忘れようと試みた。


天高く上がっていき徐々に見えてきた、かつては人々が泣いたり笑ったり悔しがったり怒ったりしていたけど、誰かが優しく出迎えてくれた場所。

失われてしまった灯火に、光を宿すものが何ひとつ見えない焼けただれた空虚な跡地しか見えない今。

中空から見下ろした街は、記憶の中に残っていた色彩豊かに彩られていたものと大分かけ離れたもの。記憶を書き換えるように、真っ黒く煤けたもので染め上げられていく。

いやだ。いやだ。

せめて思い出だけは。綺麗なままでとっておきたい。


そっと両手を合わせて拝んでみた。

願いが叶ったのか、灰色の雲間から後光が射してかつての街並みに光を降り注ぐ。

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[良い点] 以前は商業作家(ベストセラー作家)、主にミステリーを中心に読んでいました。 いまは、「読もう」を主に読んで「書こう」で活動してます。 正直な感想を言いますと、ぺらぺらの軽い物が多いと思いま…
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