第53話 光の勇者との戦い
二つの声を聞いて、カイルはノブナガに話しかけた。
「あなたは犯罪者なんですか? 光の勇者なんですか? どっちでも良いですが、ノアールを離してください」
「ここの星にやってくる前は犯罪者と呼ばれ、今は光の勇者と呼ばれておる。この船は対魔王軍の切り札となるもんじゃ。是が非でも儂は手に入れたいんじゃよ。この小娘の命が惜しければ、鍵を探すのじゃ」
「鍵は探します。約束しますからノーアルを離してください」
「あいにくと、さっき会った小僧を信用するほど儂は甘くないんでな」
ノブナガはそう言ってニヤリと笑った。
その言葉にカイルはなぜ、この男を信じたのか不思議だった。ノブナガが言ったように自分達は先ほど出会ったばかりだった。しかし、なんとなくこの男を信じてしまった。
人たらし。
それがこの男の本性なのかも知れない。
カイルはノブナガの本性を見誤っていた。
そしてノブナガもノアールの本性を見誤っていた。
ノアールはカイルにウインクすると空いている片手で剣を掴み、ひねり上げられた右腕を無視して沈み込んだ。
ゴキ!!
「ぎゃーーーー!!!!」
ノアールの肩が外れる音と同時に、ノアールの悲鳴が響く。
その突然の行動にノブナガは混乱した。
「こやつ、何を!?」
そのスキにカイルは間合いを詰めて、ノアールの手を握っているノブナガの腕を切り落とそうとする。
それに気がついたノブナガはノアールの手を離して、カイルのレーザーブレードを避けた。
カイルは避けられるのを織り込み済みでノブナガを蹴り飛ばし、ノアールから引き離す。
「ネーラ! ノーアルを頼みます」
「わかったニャ!」
ネーラは肩を押さえてうずくまるノアールに駆け寄る。
それを見てカイルは、ほっと一安心して、ノブナガに向き直った。
「さて、ノブナガさん。申し訳ないですが、ここから出て行ってください」
「ああ、サンドウィッチを貰った手前、手荒なことは避けたかったのじゃが、儂に敵対すると言うことなら、少し痛い目を見て貰うかのう」
ノブナガは棒立ちで、剣を片手に持つと、肩に担いでいた。
その姿だけを見ると全く戦う意志が見られなかった。
そしてそのまま不用心にカイルに近づいて来た。
船のダメージを考慮してレーザーガンは撃てない。
カイルはレーザーブレードを抜き、間合いに入ったノブナガに斬りかかる。
ゴン!
ノブナガの剣がカイルの首を薙いだ。
明らかにカイル動き始めたのに、ノブナガの攻撃が先に当たる。
何度やっても一緒だった。
先読みされている。出だしを潰される。
コンバットスーツのおかげで致命傷にはならないが、カイルは自分の攻撃が当たる気がしなかった。
「硬いのう。少し力を入れるか」
ノブナガは自分が持っている剣を見た。
その剣を見てカイルはある事に気がついた。
剣が刃こぼれ一つしていない。あれだけコンバットスーツを何度も切りつけているのに。
「ナビちゃん」
『はい。魔力による強化されています。そして、その魔力がかなり増加しています。シールドを使用することをお勧めします』
「ナビちゃん、全面シールドおよび部分シールド展開」
カイルがシールドを展開した瞬間、ノブナガが切りつけてきた。
なんとか部分シールドで受け止めた。
それを見てノブナガは少し嬉しそうにカイルに声をかける。
「ほう、このくらいでも受けられるかのう。もう少し力を込めても大丈夫か? 死ぬんじゃないぞ」
ノブナガはそう言って初めて両手で剣を持った。
横薙ぎに首を狙う剣を部分シールドで受けると部分シールドは砕け散り、首に衝撃が走る。
「グッファ」
カイルが声を上げると、頭上からも衝撃が走り、めまいが起こると、胸を蹴られて転がった。
その攻撃の全てに魔力が込められており、コンバットスーツでも衝撃を吸収しきらなかった。
床に倒れるカイルに向かって、ノブナガは言い放った。
「この小娘は預かっておくぞ。そうじゃな。十日待ってやるから、鍵を持って王都に来るんじゃぞ」
そこでカイルは気を失った。