第49話 三人の山登り
ノアールはカイルと共に故郷オーデリィ領へと戻ると、すぐに裏山に登り始めた。
登山と言うほどではなく、ハイキングで行けるような高さの山に登るのにはそれほど大げさな装備は必要がなかった。
しかし、山は山である。
ノアールとカイルはリュックに食料と水、衣服と雨具、そしてランプなどを準備して山に入っていった。
「それで、目的地はわかっているのかニャ? ノアールのお父さんの話は十年以上前の話ニャ。地形も変わっているニャ」
二人について来たネーラは不安げに尋ねる。
捜索が長引けば、山で野宿をしなければならなくなる。
そんなネーラの不安を払拭するようにノアールが答える。
「大丈夫よ。今回はだいたいの位置が分かれば、良いのよ。急ぎじゃないし、何回か捜索して見つける気だから」
「そうなのかニャ。だったら良いニャ。なんか楽しくなってきたニャ」
安心したネーラは楽しそうに先頭切って山道を歩き始めた。スキップしながら。
あんなにはしゃいでいたら、すぐに疲れないかしらとノアールは心配したが獣人であるネーラは体力だけは抱負なのを思い出した。
そんなネーラと対照的にカイルは黙って山を登っていた。
ノアールは心配になってカイルに話しかける。
「ねえ、カイル。本当に気が乗らないのなら行くのは止める?」
「いいえ、大丈夫です。銀色の鯨を探す事は良いのですが、その鯨って何なのか気になって」
「そうね。でもお父様の話だけではよく分からないから、まずは見つけてから考えましょう」
「それもそうですね」
三人は道なき道を二時間ほど登って行くと見晴らしの良い広場に出た。
山から街が見え、山の涼しい風が吹いてくる。軽く汗をかいた三人が一休みするには最適な場所だった。
ノアールは二人に休むように提案した。
「ここで一休みしましょう」
「お弁当を食べるのかニャ?」
「良いですね。そろそろお昼ですもんね。ちょっと待ってください。準備しますから」
そう言うと、カイルはリュックからランチボックスを取り出した。
ノアールはマットを引き、ネーラはよだれを垂らして二人の準備を見ていた。
ランチボックスの中身はサンドウィッチだった。
ハムチーズ、スクランブルエッグ、塩鯖、ツナ、キュウリ、リンゴのコンポート。
ネーラは早速、塩鯖のサンドウィッチを掴んで一口食べた。
「美味しいニャ。」
天気が良く、運動して、見晴らしの良い場所で友人と食べる食事が不味いわけがない。
それに加えて、ネーラの好きな塩鯖なのでネーラはニッコニコでサンドウィッチを頬張っていた。
そんなネーラをほっこりと見ながらノアールもカイルも食べ始めた。
遠くに鳥の鳴き声が聞こえ、のんびりした時間が流れる。
そんな時、カサカサと草をかき分ける音が聞こえた。
カイルはハムのサンドウィッチを片手に音の方を向いて立ち上がると声が聞こえた。
「おっ! こんな所に人がいるなんて珍しいのう」
そこには五十才くらいの男性が立っていた。黒い髪を後ろでまとめて、口ひげを蓄えてきた。
年の割にはなかなか鍛えられた体つきをしていた。
手には護身用なのか剣を持っていた。
ネーラは知らない人間を見た瞬間、頭からローブをかぶり、顔をそらした。
カイルは急に出てきた男性に声をかけた。
「どなたですか?」




