第4話 レベル1勇者の追放
土の勇者との決闘の翌日、カイルとノアールは王の謁見室に呼ばれていた。
「国王陛下からお会いになるなんて、どんな御用なんでしょうか?」
カイルは心配そうに一緒に謁見室へ向かっているノアールに話しかける。
「昨日のカイルの強さを見て『是非、この国を守ってくれ。報酬はいくらでも出す』なんて言われるんじゃないの?」
「でもそれは、勇者の責務でしょう。わざわざ、陛下自らなんて不自然ですよ。戦線への召喚であれば、大将軍から指示があるはずですよね」
「それもそうね。でも、勇者同士の戦いであれだけ圧倒的な差を見せつけたんだから、期待してもいいんじゃないかな?」
「お嬢様は楽観視しすぎですよ」
そう、ノアールは楽観視しすぎていた。
謁見の間にいたのは王だけでなく、土の勇者の主人、カタリナも同席していた。
「闇の勇者カイルにはヘルダイトの奪還を命じる」
ヘルダイトとは魔王軍の重要拠点で、何度も王国軍が奪還しようとして失敗している難攻不落の城の事だった。
「兵はどのくらい連れて行けるのでしょうか?」
「お前は、土の勇者を一撃で倒せるほどの勇者であろう、一人で奪還してこい」
ノアールの問いに、国王は二人にそう、冷たく言い放った。
「そんな……それはカイルに死ねと言うことですか?」
「本来であれば、同じ勇者同士の戦いで、卑怯にも不意打ちで相手を再起不能にしたのでしょう。死罪でもおかしくないところを、国王陛下の温情によって、ヘルダイトを奪還できた暁に全てを不問に処すと言っていただいているのよ」
カタリナはニヤニヤと笑いながら、王の代わりに答える。
つまり、ただ殺すのでは面白くない。少しでも魔王軍に打撃を与えて死ねと言っているのだ、カタリナが。
ちなみに二人に拒否権などあるわけがなかった。
「分かりました。ただし、準備に二週間ください」
ノアールの願いは聞き入れられて、それから二週間後、たった一人でヘルダイト奪還へ向かった……事になっていた。
「本当に良いのですか? お嬢様」
「良いのよ。なんで、あんなクソ野郎達のためにカイルが死ななきゃならないのよ」
カイル、ノアールそしてメイドのメイは、王都から逃げ出していた。
夜が明ける前に、三人は各自馬を走らせていた。
「それに領主様達にもご迷惑をかけてしまって……」
「お父様達もお金を集めて逃げたから大丈夫よ。前から、領主なんてやめて、世界中を旅したいって言っていたから本望でしょう。それよりもこれから森深くに入って、しばらくほとぼりが冷めるのを待ちましょう」
日が出ている間、馬を走らせて、なるべく王都から離れた人影見えない森の奥にカイル達はキャンプを張った。
王都の謁見の直後に逃げ出すことを決めたノアールは、この二週間の間、逃げ出すための準備を周到にしていた。
そのため、森でのキャンプに必要な物は十分そろっているが、この逃避行もどれだけの期間になるかわからない。
カイルは、野営の準備をメイに任せて、枯れ木や水、そして食料の調達に出かけた。
川の近くに設営したため、水はすぐに確保できた。そしてカイルは枯れ木と食料の確保のため、森の奥へと一人で分け入った。
イノシシや鹿に出会えれば最高だ。そうでなくても野ウサギや鳩でも捕まえられれば、ありがたい。
そんなことをカイルは考えながら、藪をひとつ越えると、高さ三メートルはありそうな巨大なイノシシがそこにいた。