第40話 ホテルの主
「なに!? どういうこと?」
「わからないニャ」
ノアールもネーラと力を合わせてドアを開こうとするが、ピクリともしなかった。
「ちょっと、どいてください」
カイルはコンバットスーツを装着すると、ドアに近づいた。
コンバットスーツを着けたカイルの力であれば、最悪ドアごと外せるはずだった。
そのカイルがドアに手をかけたとき、二階からなにか声が聞こえてきた。
「ひゃ!!!」
ネーラが小さな悲鳴を上げると、カイルとノアールが顔を見合わせる。
「誰かいるみたいね。行ってみましょうか」
「そうですね。ここの持ち主なら、勝手に入ったこと謝らないといけませんからね」
「え! 上に行くのかニャ?」
ネーラは尻尾を丸めたまま、二人に訊いた。
完全におびえていた。
「なに、あんた、ビビってるの?」
「ここで待っていていただいて良いですよ」
そう言ってネーラを残して二人は正面にある二階へと続く階段へと向かう
ぽつんと一人残されるネーラ。
風が吹いたのか、窓がガタガタと震えた。
「ま、待つニャ」
不安になったネーラは慌てて二人を追いかけた。
二階に上がると、通路の右手の窓から森が見え、左には部屋のドアがいくつも並んでいた。
声は通路の奥から聞こえてきた。
ノアールを先頭に、カイルが後に続き、そのカイルの服を掴みながら震えるネーラが奥へと進む。
「ここね」
通路の突き当たりにひときわ豪華なドアがあった。
そのドアにはV.I.P.と書かれていた札が付いていた。
V.I.P. : Very Important Person(重要人物)
ノアールはドアをノックすると中から女性の声が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
ノアールは一言声をかけて、部屋に入ると、椅子に座った女性の背中が見えた。ベランダへ通じる窓からビーエン湖を見ているようだった。
「どなたかしら?」
品の良さそうな女性の声が、こちらを向くこともせずに発せられる。
金色の長い髪に赤いドレスの女性はホテルの従業員ではなさそうだった。
ノアールはまず、勝手に入ってしまったことを謝った。
「すみません、こちらの建物は無人と聞いていたので、勝手に入ってしまいました。あなたはお一人でここに住んでいるのですか?」
「あら、そう。ここに住んでいるのは私だけでは無いわよ。部屋は全て埋まっていますわよ」
「そうなんですね。そのわりに、ロビーには誰もいませんでしたよ」
「それはそうよ。このホテルは無人だもの」
「え、でも部屋は全部埋まっているのですよね」
ノアールは女性が言っている意味が分からなかった。
部屋は全部埋まっているのに無人とはどういうことだろうか?
「ええ、そうよ。このホテルは私たち幽霊が住んでいるから、無人なのよ」
そう言ってノアールの方を向いた女性の顔は無かった。輪郭だけで、目も鼻も口もそこには無く、うっすらと向こうが透けて見えていた。
「ニャーーー!!!」
その姿を見たネーラが悲鳴を上げて、廊下に逃げだした。
「ネーラ、待って!」
逃げたネーラを追いかけてカイルも廊下に飛び出した。
廊下に出ようとして、ネーラとぶつかった。
ここに来るまでの部屋の扉が全て開き、そこからレイスが出てきて、廊下あふれていた。
「カカカカ、カイル。どうにかしてニャ!」
後ろには女性のレイス、前には無数のレイスに挟み撃ちにされていた。
廊下のレイスはネーラとカイルに襲いかかってきた。
「助けてニャ~~~~!」