第39話 湖畔の別荘
毒を除去された湖は、一見すると今までの通りだった。
しかし、豊富にいた生き物たちは激減していた。
そんな湖をカイルはノアールとアマデウスの二人と一緒に眺めていた。
「ありがとう、カイル君。死んでしまった者達はかわいそうだったけど、これでまた、私たちはここで生きていけるわ」
湖の中では人魚達が魚の死骸を片付けながら、こちらに手を振る。
そんな湖を見て、アマデウスはカイルに心から感謝を述べた。
「それで、アマデウスさん達はこれからどうするのですか?」
「アイくんはあそこに家を建てて、一緒に住もうと言ってくれてるの」
巨大なビーエン湖にはいくつも島がある。
その中でもひときわ大きく、岸から遠い島をアマデウスは指さした。
そこへ行くには見晴らしの良い水面を船で近づくしかない。
つまり何かあれば、アマデウスはアイクを連れて逃げることが出来る。
そこに二人の愛の巣を作るのだという。
それを聞いたノアールがうらやましそうにカイルに言った。
「良いわね。ステキ! ねえ、カイル。あたし達の家も湖畔に建てない?」
「でも、ここからだと領地まで遠いよ」
「そうね。じゃあ、別荘を建てましょうよ!」
ノアールは良いことを考えたと言わんばかりにカイル提案した。
その提案にカイルはオウム返しに言った。
「別荘ですか?」
カイルは美しい湖畔の別荘を思い浮かべる。
そこでノアールと一緒に夕日が映る湖を眺める。
「良いですね」
「そうでしょう。ね、良いアイデアでしょう」
「でも、どうやって建てようか?」
ここはノアールの領地からは遠く、アマデウス達人魚にテリトリーのため、人はなかなか住んでいない。
悩んでいるカイルにアマデウスが話しかけた。
「それなら良い所があるわよ。捨てられた屋敷が向こう岸にあるのよ。そこを使っちゃえば良いんじゃ無い?」
「え、そんなところがあるの? カイル、行ってみよう」
そんな、アマデウスの提案で、カイル、ノアール、ネーラの三人は捨てられた屋敷へ行ってみることにした。
風の勇者クリスがネーラと一緒に付いていくと言って聞かなかったが、アイクが戦後処理や島の屋敷の手配など残っていると引っ張っていった。
屋敷を見回しながらノアールはつぶやいた。
「なんで、こんなところが?」
ノアールがそう言うのも無理はなかった。
夕日に照らされた三角の白い屋根の美しい二階建ての建物。一階だけで十部屋はありそうな大きな建物は無人とは思えないほど綺麗だった。二階にはベランダがあり、部屋からベランダに出るとビーエン湖が綺麗に見えそうだ。
その外見からホテルとして建てられたのだろう。建物の右手にある入り口は大きく、中にロビーらしきものが見える。
街へ続いているのか、建物の入り口から馬車道が整備されていた。しかし、その道にはしばらく使われていないのか、雑草が多く伸びていた。
「使われていないようですね。入ってみましょうか?」
カイルはそう言うと、先頭立って建物の中に入った。
ドアを開けて中に入ると、右手にカウンターがあり、通常はそこでチェックインの手続きをするのだろう。左手には待合場所になっているのか、テーブルとソファーが置かれていた。
なぜかそれらには埃がかぶっていなかった。
カイルは後から付いてくるノアールとネーラに話しかけた。
「誰かいるのでしょうか?」
「そうね。でもアマデウスちゃんは人はいないって言ってたわよ」
そんな二人の会話を聞きながら、ネーラはカイルの服を引っ張った。
「なんか、背中がぞわぞわするニャ。一回、ここから出ないかニャ?」
薄暗くなっていたロビーで、ネーラはキョロキョロとあたりを見回しながら二人に提案する。
ガタン。
誰も居ないはずのドアが急に閉まった。風などないのに。
ネーラは慌ててドアを開こうとするが、ドアはピクリともしなかった。
「開かないニャ!」




