第3話 勇者たちの決闘
国王の一言により、勇者選定の次の日に、前代未聞の勇者同士の決闘が行われることとなった。
勇者の力をお披露目すると言った建前のもと、闇の勇者であるカイルの実力を測るための決闘。
否! カイルを亡き者にして闇の勇者の枠を空けるための一方的な殺戮。
無能勇者のレッテルを張られているとはいえ、勇者が殺されては平民に対して示しが付かない。
そのため、この決闘は貴族のみが観覧を許されていた。
闘技場の東門からはその巨躯にふさわしい筋肉美を見せつけるように、重要部分のみ革の防具を付けた土の勇者マイクが入場してきた。その両手には神具である金と銀の斧を持っている。
マイクのスキル、ブーメランはその名の通り、マイクの手から放たれた物は、自動的に彼の手に戻ってくる。斧を投てき武器として使用するにはうってつけのスキルである。
また、その両手に持っている金と銀の斧には各々別の能力を秘めていた。
右手の斧はリスアクスと呼ばれ、地割れを引き起こす。左手の斧はステインワンドと呼ばれ、石の壁を作り出す。二つの斧は攻防を兼ね備え、勇者の武器にふさわしい能力を持っていた。
対するカイルが、西門から入場してくる。
普段と変わらず、従者の服。防具ひとつ身につけず、手にも武器一つ持っていなかった。
その姿を見た者の意見が二つに分かれた。
諦めて、潔く殺されるために、やって来た。もしくは全面降伏し、命乞いをするために何も身につけずにやって来た。
どちらにしろ、まともに戦う気は無いのだと、観客達は理解したのだった。
「いいのか?」
審判役の男がカイルに確認する。
「大丈夫です」
カイルははっきりと答えた。
「いい根性だ! しかし、何もせずに死んでいくのも心残りだろう。一発、入れさせてやる。あの世で一番強い勇者に一発入れたと自慢してもいんだぜ」
マイクはそう言って自分の左頬をペシペシと叩いて見せた。
「ありがとうございます。それでは遠慮なく」
カイルはそう言って頭を下げた。
それを見た審判は、開始の合図を上げる。
観戦している貴族たちの歓声の中、カイルはゆっくりと歩いて、マイクとの距離を詰めた。
「失礼します」
「おう、思いっきり来い。それでも大したことないだろうがな」
カイルは右のこぶしを握り、腰に手を当てる。
「装着!」
カイルの声と同時に魔法の鎧、CBSが装着される。
全身を未知の金属で包み、光り輝く鎧。亜空間から様々な武器が取り出せる上に、装着者の筋力を何十倍にも増幅し、戦闘アシスト『ナビちゃん』まで搭載されている。
そのコンバットスーツに包まれたこぶしが、マイクの腹めがけて繰り出される。マイクは反射的に両腕でかばったが、意味がなく、粉砕骨折した上に血反吐を吐きながら、空高く舞い上がった。
見上げる観客たち。
地響きを立ててマイクは地面にたたきつけられ、その時の衝撃で両足もあらぬ方向を向いていた。
普通の人間であれば即死。
しかし、レベル40の勇者は死ななかった。死んだ方が楽だったのかもしれないが。
カイルは、使い物にならなくなった両手両足をぴくぴくとさせ、口から血を吐いているマイクを見下ろしていた。
静まり返った会場に審判の声が響く。
「しょ、勝負あり!」
審判は、救急隊員を大急ぎで呼んでいた。
誰が見ても、土の勇者は元のようには戦えないだろう。命が助かっても、寝たきり。良くても何かの補助なしでは生きていけない体になってしまった。
こうして、闇の勇者カイルの初めての戦いは、ものの十秒もかからずに終わったのだった。