第37話 援軍ベレート
「ボクに任せろ!」
湖の向こう岸から戦船に向けて水面を走る姿が一つ。
ネーラと同じ猫獣人に見える。しかし獣人などとは別次元の猫の妖精王ケットシーのベレートだった。
そのまま船の側に来ると大ジャンプをした。
太陽を背にして、クリスに襲いかかる。
「メガト~ン! パ~ンチ!」
「危ない!」
クリスはネーラをお姫様抱っこをすると、まるで風のようにベレートのメガトンパンチを避けた。
メガトンパンチは船の甲板に大穴を開けて、戦船を大きく揺らせる。
その衝撃に、最後まで残っていた兵士は大慌てで逃げ出した。
「大丈夫かい、子猫ちゃん」
クリスはそう言うとネーラを優しく下ろした。
「え、もしかして、いい人?」
ネーラは生まれて初めてお姫様のような対応をされて、思わず嬉しくなっていた。
「よしよし、ネーラを離したな。これで全力でぶん殴れる」
ベレートは嬉しそうに腕を回す。
クリスは先ほどの変態の顔から戦士の顔に戻った。
「いきなり殴りかかってくるとは……えっ」
クリスが言い終わる前に、ベレートが間合いを詰めて殴りかかる。
「ベレートさん! ダメ!!!」
カイルが叫んだ。
その言葉にベレートの拳はクリスに届く前に止まった。
立ち尽くし、震えるクリス。
「どういうことだ? カイル?」
「その人はもう、敵ではありません」
「え! でも、ネーラが捕まってたじゃないか」
「それは勘違いで……」
カイルがベレートに状況を説明しようとしたとき、クリスが口を開いた。
「きゃ~!!!! きゃわわわわ! なんなの、きゃわわわ! アイク! ねえねえ、この子飼って良い? ネーラちゃんとこの子で両手に花! お姉ちゃん、もう、死んでもいい!」
先ほどのネーラよりもさらに興奮した様子でベレートの抱きつき、もふもふし始めた。
なすがままのベレートは冷たい目でクリスを見て、カイルに状況の説明を求めた。
「カイル、このバカ、殴ってもいい?」
「ダメです。でもその気持ちはちょっと分かります。クリスさん、落ち着いてください。ネーラさんなら冗談ですみますが、ベレートさんを怒らせたら、死んじゃいますよ」
「ふーふーふー、いい匂い。もふもふ~しあわせ~」
「やっぱり、殴るね」
カイルの忠告を無視して、ベレートの匂いを嗅ぐクリスを本気で殴ろうとするベレート。
「お~い、クリス。その辺にしておきなさい。話が進まないよ。なあ、アマちゃん」
「そうね、アイくん」
人目をはばからず、アマデウスといちゃいちゃしているアイクはクリスを止めた。
アイクの言葉でやっと変態クリスはベレートからもネーラからも離れたのだった。
「は~、それで? 何がどうなってるの? アマデウスがピンチだって言うから、火の坊やと遊んでたのを切り上げて、急いで来たんだよ。そうしたらアマデウスは人間とイチャイチャしてるし、ネーラは人間に捕まってるし、なんでかこんな所にカイルもノアールもいるし、何が何だか分からないよ」
ベレートの質問は、ごくごく正常な反応である。
とりあえず沈みゆく戦船を降りて、これまでのいきさつを説明したのだった。




