第32話 風の勇者との戦い
ロケット弾は残虐毒将軍に届くことなく、空中で爆発した。
「誤爆ニャ!?」
「違う! 狙撃されたんだ。ネーラ、気を付けて、弓矢が来る!」
カイルは甲板を見ると頭を抱えてうずくまる残虐毒将軍の隣に二人の男が立っている。
緑色の長い髪をポニーテールにまとめた中性的な冷たそうな顔の男が、大きな弓を構えていた。
その隣には同じような緑色の短い髪のきりりとしたイケメンが立っていた。
「あれはアイク様じゃない。なんでこんな所に」
アクアが貴族令嬢会の高嶺の花ならば、アイクは貴族子息会のプリンス
ローヤル王国四大貴族のひとつ、ロレックス家とはいえ、四男のアイクがプリンスと呼ばれるゆえんは、その美しさ、優雅な振る舞い、そしてそれを鼻にかけることなく、全ての人々に気さくな態度で接する姿にある。全ての女性が恋い焦がれる社交界の中心的人物である。
「ノアール、今はそんなことをいてる暇はないよ」
容赦なく射られる弓矢をネーラと二人で必死にたたき落としていた。
「カイル、これ以上はワイバーンが参っちゃうニャ」
「分かった。僕が降りて、なんとかするから、二人はどこかで待機をしておいて」
そう言うが早いか、カイルはワイバーンから飛び降りた。
飛び降りながらロケットランチャーを一発、船に向かって撃つ。
そのロケット弾は、カイルが予想したとおり、空中で爆発を起こした。
その爆発は目くらましとなり、爆風はカイルの落下の衝撃を軽減させたのだった。
無事に船の上に降り立ったカイルの目の前には、残虐毒将軍、アイク、弓を持つ男の三人がいた。
真っ先に口を開いたのはアイクだった。
「なんだい、その奇っ怪な鎧は」
「これはコンバットスーツです」
「コンバットスーツというのかい……かっこいいね。私にも一着くれないかい」
「アイク様、何を馬鹿な事を言っているのですか!? 今は戦いの途中ですよ。ところで、ボクの矢を防ぐとは、ただ者じゃないね。名前を聞こうか」
アイクの隣に立つ男が、大きな弓をカイルに向けながら話しかけてきた。
「僕の名前はカイルです」
「ああ、君が、カイル君か。ノアール嬢の所の闇の勇者だね。紹介するよ。こっちは私の幼馴染みで風の勇者に選ばれたクリスだ」
「アイク様、何をぺらぺらとこちらの情報を漏らしているのですか」
「ああ、すまないね。それと、カイル君もすまないね」
アイクはそのさらさらの髪の毛を撫でながら、困ったような顔をした。
情報を漏らしたクリスに対してアイクが謝るのは分かる。しかし、敵であるカイルに謝る意味が分からない。素直なカイルはその疑問を口にした。
「何がでしょうか? アイク様」
「だって、これから君が死んでしまうからさ」
その言葉が合図のようにクリスは弓矢の弦をはじいた。
近距離からの放たれた矢は、通常の人間が反応できる物ではない。
しかし、ナビちゃんのサポートでカイルは矢を盾ではじく。
カイルも矢に対抗しようとレーザーガンを構えた瞬間、弓矢ではじかれた。
そこからのカイルの判断は早かった。
盾の影に隠れて、一足飛びに間合いを詰める。
飛び道具に対して、懐に入るのは戦闘の鉄則。
速射される矢をはじき、剣の間合いに入った。
取った!
カイルがそう思ったその瞬間だった。




