第2話 気弱な従者が勇者になった日
勇者が二連続で選ばれることなど聞いたことがない。
カイルはそう思うと、足取りが軽くなったように感じた。
球の中に入ると、さまざまな色の光がカイルの体を通過していった。恐怖はない。逆に穏やかな気分になり、ずっとこの球の中に居たいとさえ思えた。
しかし、終わりはやってくる。
光が消えて、外にいる選定員が結果を読み上げる。
「オーデリィ男爵家カイル・ライアン」
膝をつき、両方のをぎゅっと握りながら祈っているノアールの姿が、球の中にいるカイルから見える。
両方の目は固く閉じて、眉間にしわを寄せながら、強く祈っていた。
「闇の勇者」
二階から大きな喚声が上がり、ノアールは大きく目を見開いて立ち上がった。
カイル自身、闇の勇者に選ばれたことに驚いた。
二回連続で勇者が選ばれるなんて。
そして選定者の言葉が無情にも続く。
「レベル1。スキル、瞬間装着。神具……CBS?」
選定者自身、自分の言葉が正しいのか、迷う内容だった。
二階だけでなく、勇者選定を待っているほかの人々からも驚きと不満の声が上がった。
レベル1つまり普通の人であった。まだレベルはこれからの修業次第で上がっていく可能性はある。
しかしスキルの瞬間装着。つまり、武具や防具を一瞬で装着できる。それだけのスキルだ。
最後に神具。CBSとは何か。誰にもわからなかった。
「どう見ても外れスキルだ!」
「何だ! その神具は!」
「外れ勇者じゃないのか」
「このような者に、大事な勇者枠を与えていいものか!」
様々な人々からそんな声が上がった。
そんな不満渦巻く中、カイルが球から出てきた。左の手の甲に勇者紋があるものの、それ以外は球に入る前と全く同じ格好だった。
「カイル! おめでとう」
カイルに賞賛の声をかけたのは、主人であるノアールだった。
「お嬢様、僕、勇者に選ばれちゃいました」
「よくやったわ。さすがあたしのカイル!」
この広場で唯一喜び合う二人に、待ったの声がかかった。
「これは何かの間違いです! そうでなければおかしい。皆さん、レベル1の勇者など聞いたことがあるでしょうか? スキルが瞬間装着? そんなものでこの王国が守れるのでしょうか? 何かの間違いです!」
そう、高らかに叫んだのは土の勇者の主人となったカタリナだった。
「カタリナ様、選定球の結果に文句をつけるおつもりですか? それはつまり土の勇者に選ばれたあなたの従者も疑うということですよね」
ノアールはカイルの名誉のため、まっすぐとカタリナに向かい合った。
「ええ、そうですわ。その選定球が間違いなかったとして、どうやってそのような者が、あの魔族相手に戦うというのですか! その偽勇者の実力とやらを見せていただきましょうか?」
「……どのようにして」
「わたしの土の勇者マイクと戦わせてみましょう! そこで勇者としての実力がないとわかれば、潔く死んで勇者枠を明け渡しなさい!!」
「そんな、一方的な要求は飲めません! これは選定球の判断です。あなたにとやかく言われるいわれはありません!」
ノアールは一歩も引かなかった。いつもは言われるがままに道を譲り、いじめにも耐えてきた。しかし、今回の件はこれまでと違い、カイルの名誉にかかわること。一歩も引く気はなかった。
レベル1ならこれから伸びしろがあるに違いない。スキルや武具についてもこれから使い道を考えればいい。ノアールは勇者となってすぐのカイルの身を危険にさらすつもりはなかった。
しかし、そんなノアールの気持ちは、たった一言でひっくり返されたのだった。
「カタリナ・クーリエの言い分を認める。土の勇者と闇の勇者よ。二人が戦って勇者としての能力を示してみよ」
それは国王自らの声だった。つまり、このローヤル王国の絶対の命令。誰も逆らうことは出来ないのである。